見出し画像

シュミというより生命維持装置

「舟を編む」で知られる有名作家、三浦しをんのエッセイが読んでみたい。

池袋のジュンク堂でぷらぷらしていたら唐突に思いついて、エッセイの棚に行ってみたら、いらっしゃるではないか三浦しをん。 
ふむふむタイトルは・・・

「シュミじゃないんだ」

何が!?何がシュミじゃないんですか先生!
気になってパラパラとめくってみれば、んっ?

出てくるワードに何やら見覚えが。「リバーシブル」「成人指定」「純愛」「年下攻め」「オジサン受け」「ボーイズラブ」・・・あれ、三浦先生まさかの腐女子でいらっしゃった。私が思っていたエッセイって、大作を生み出す日常のこととか、幼少から作家になった経緯とかそういうものだったんだけどなあ。仕方ないかと棚に戻そうとして、手が止まった。果たして三浦しをんにとってボーイズラブはシュミじゃないなら、なんなんだ。気になってしまった時点でもう、カゴに入れる以外の選択肢はなかった。

皆さんは「ボーイズラブ」と聞いてどんなイメージを持ちますか?

日々浴びるように摂取してます、触ったことも見たこともない未知の領域です、最近話題になっててちょっと気になるかも、などなど。少し前まではオタクの領域にしかなかったものが、だんだんドラマや映画で展開されていって、メジャーなエンタメの一つに急成長しつつある、ボーイズラブ。

私も普通に嗜む程度ですけども、その魅力は男同士という関係性に集約されていると思うのです。男女間での恋愛には発生しえない関係が描かれるからこそ、物語に色が生まれて、使い古された恋愛の王道パターンには当てはまらないストーリー展開が可能になる。個人的にはその奥深い人間関係に堪らなく心を擽られるから、肯定的に楽しんでいるわけです。そして三浦先生も同じようにおっしゃっておりました。

・・・ボーイズラブ漫画ではうまくできていて、読者は男同士の友情を楽しみながら、邪魔な第三の登場人物の介入なしに、同時進行で二人の間に芽生えた恋愛感情すらも楽しめる趣向になっている。さらにボーイズラブでは友情と恋愛の境目が非常に曖昧だ。「仲のいい友人同士でありながら恋人でもある」という、実際には実現するのが非常に困難と思われる関係を、さらりと描きだすことができるのだ。
(中略)
恋人とだって、「ただ腕枕で眠りたい夜もあるの」などと思ってしまいがちは女の子の欲望の方向性からすると、ボーイズラブにおける「友人でありつつも恋人」というのは、きっと理想に合致する部分が多いのだ。

これですよ・・・これなんですよ本当に。
私実はボーイズラブも好きですけど、それよりも「ブロマンス」ってやつが大好きでして(Wikiのリンク貼ったのでご存じない方はぜひ一読くださいませ)。私個人としても「友達みたいな恋人」に憧れがあるために、とっっっっっってもキュンキュンしてしまうんですよね。もしかしたらこれも一種の自己投影によって楽しんでいるのではないかとすら思ったり、思わなかったり・・・まあ私は残念ながら(?)男ではないので、男同士の友情の実態なぞ知る由もないのですが。

そんなこんなでまるっと一冊が三浦先生の「ボーイズラブ論議」で溢れたエッセイで、攻めと受けはいかに決まるのかなど王道の話題から、ちょっと大人なお話、果たして愛とは何かに至るまで深~く語られております。

ボーイズラブ愛を本1冊300ページに渡って叫んでも、まだ紙が足りない先生にとって、それはもはや本当にシュミではなく、もはや生命維持装置ともいえるんでしょうね。これまで恥ずかしながら「舟を編む」しか読んでいなかったので、ちょっと他の本にも手を伸ばしたいです。もしかしたら作中の男性コンビを読んで(これはもしや・・・)と思うやもしれませんが。

そして最後まで読み切った勇者・猛者にはご褒美として、三浦先生がお描きになった短編ボーイズラブが待っているのでみなさん是非この長い修行の道のりをゆっくりじっくり進んでみてくださいね。


今回ジュンク堂で手に入れたのは中古版でして、カバーに多少の傷があったもののほとんど新品に近い状態でした。顔を知らぬ前の持ち主を想像しては、その人がこれを読んでどう思ったのかなんて考えるのも、中古本の良いところだったりします。綺麗に保ってくれて、そして次の読み手に回してくれてありがとう。

読了日:2021年9月15日

この記事が参加している募集

#スキしてみて

526,258件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?