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浜村渚のころの青柳碧人が読みたい

今回の読書感想文は少し辛口です。

みなさん「浜村渚の計算ノート」シリーズはご存じですか。義務教育から数学がなくなった世界で数学を武器にテロリストが悪事を働く世の中。対抗するにも数学の知識がない警察が頼ったのは、数学オタクの女子中学生の浜村渚。事件を解決しながら数学の豆知識や面白い部分を熱っぽく語る彼女に、周りの大人たちは警察もテロリストも関係なく引き込まれていく・・・。

私が渚ちゃんに初めて出会ったのは小学生のころで、難易度の高い数学の問題をとても楽しそうにかつ堂々と解説する彼女に、算数が苦手な私は惚れ惚れした。そして同時に渚ちゃんを生み出した青柳先生にも惚れ惚れした。

青柳碧人先生が生み出すミステリーは、事件が起きてもどこかポップで重苦しくない世界観の上に成り立っている。そしてトリックもユニークで、なかなか思いつかない緻密な伏線から解かれる素敵なもの。最近でいうと馴染み深い昔話と事件を絡ませて、登場人物が謎解きするという新感覚のストーリーも生み出された。(この作品もまた青柳先生らしくて面白い・・・)

前置きが長くなりましたが、今回の読書感想文は青柳碧人先生の作品
「スカイツリーの花嫁花婿」です。

青柳先生の作品はほとんど読んでいる私なので、本屋に寄ったら必ずあ行をチェックするんですが、今作は漏れなくレーダーに引っ掛かった一冊。あらすじはこんな感じ。

スカイツリーが見下ろす街で、恋する男と女が右往左往。
誰かの小さな意地悪が、誰かの大きな救いになる……かもしれない。
「犯人当て」ならぬ、前代未聞の「花嫁花婿当て」! 幸せな結婚をするのは誰なのか!?

8人の男女から結婚にたどり着く2人を予想して読み進めていくストーリーは、なんだか恋愛リアリティショーみたいだよね。

個人的に青柳先生は私たち読者が持ちうる「生の感情」を文字化する天才だと思っていて、特に恋愛における心の些細な動きとかきっかけとかを散らすのが絶妙。これまでの作品はミステリーが大半を占めているから、犯人の動機に一粒の共感を与えて決して置いてけぼりにしない優しさがあった。

冒頭に辛口と前置きしてるからズバッと言ってしまえば、今作は読み終えた後の「結局何だったの?」感がすごい・・・。

そもそも8人も主要人物がいる時点で把握が難しいし混乱するしで、読み進めていくと誰がどの人なのかごちゃごちゃになってくる。もちろん主人公格は一人いるけれど、そのラストも正直腑に落ちない。なんというか全体的に「こんがらがって」いる。青柳先生のユーモアあふれる軽やかなタッチが人物構成の複雑さに埋もれてしまっていて勿体ないなあ。

もちろんストーリーの描写は安定のクオリティで読みやすいけれど、相当頭使う展開の連続で途中でページをめくる手が失速してしまった。

例えば主要な登場人物が4人とかで、その中からペアを見つけ出す展開なら読者を置いていくことなく最後まで走り切れたんじゃないかな。

ちなみに今回は作品の内容メインで言及したけど、装丁というより帯が最高だった。
「神様、そろそろください、ハッピーエンド。」
思わず手に取って中をちらっと覗きたくなるようなインパクトのフレーズで、最高の選択だったと思う。

青柳先生が浜村渚で勢いそのまま飛び跳ねていたミステリーが恋しくなった1冊でしたね。


読了日:2021年8月末(忘れましたごめんなさい)

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