チキン南蛮

電車の中と喫茶店、病院の待ち時間に筆が小躍りしています。

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  • 短編小説まとめ

    ミスチルとか聞きながら浮かんできた短めの話。

  • エッセイまとめ

    エッセイとかいろいろまとめ。

  • 不妊治療の話まとめ

    不妊治療を受けていたときの出来事まとめ。

最近の記事

眠れぬ夜は明けて

不妊治療の記録です。 今回は腹腔鏡検査の話。 1回目「内診台と熱帯魚」と2回目「剥がれ落ちる」、3回目「胸元にフィルムケース」はこちら。 2020年春。 不妊治療をスタートして1年経った。 それなりに努力をしたつもりだが、結果は出なかった。 AIHで失敗が続いて迎えた秋、より高度な段階に進む。 2020年の生殖医療における最上階、ここより上はない。 ここから先のステップはないと思うと、その一段をのぼるのに躊躇した。 体外受精にステップアップして、それもダメだったらどうしたら

    • 胸元にフィルムケース

      不妊治療の記録です。 今回は人工授精の話。 1回目「内診台と熱帯魚」と2回目「剥がれ落ちる」はこちら。 タイミング指導を6周期受けたが、結果が出なかった。 人工授精(AIH)にステップアップすることを決める。 とはいうもののだいぶ二の足を踏んでいた。 仕事、費用、なにより気持ちがすでにだいぶ滅入っていた。 まさか自分が不妊症だなんて思いもしなかったし、だとしても病院で排卵日診てもらっているんだから大丈夫だろうと思っていた。 だがそうではなかった。 律儀に生理がくる傍ら、友人

      • 剥がれ落ちる

        不妊治療の記録です。 今回はタイミング療法の話。 1回目「内診台と熱帯魚」はこちら。 卵管造影検査は重い生理痛くらいの痛みだった。 今でこそあまり重くはないのだけれど、20代のころは駅で倒れ込むくらいの痛みに襲われていたので 「久しぶりの痛みだ……」 と若い頃を思い出したりなんかしていた。 月経周期を一回りし、ホルモン数値も異常なし。 AMH(抗ミュラー管ホルモン)は3.41と、「年相応でしょう」と。 唯一問題だったのは風疹の抗体がついていないことだった。 だがこれは前から

        • 熱帯魚と内診台

          2019年から2021年にかけて、不妊治療を受けた記録。 34歳の原因不明不妊。 タイミング療法、人工授精、ラパロ、体外受精を経て、現在は妊娠中。 この先忘れてしまっても大丈夫なように、あの頃の気持ちを書き留めておこうと思います。 「最近生理の日数が短い」 「2日目にどっと出て、3日目からはほとんど出ない」 32歳、婦人科を訪れたそんな理由だった。 結婚してから2年、同じ時期に結婚した友人が第1子を授かったと連絡が入った。 今にして思えば心から祝福できていたころが懐かしく感

        眠れぬ夜は明けて

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        • 短編小説まとめ
          3本
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        • 不妊治療の話まとめ
          4本

        記事

          今宵の猫のように

          「おつかれさまです、お先に失礼します」 アパートの一室の扉を開けると、ひんやりとした夏の夜の空気に包まれる。 時計は20時を回っていた。 駅へ降りていく線路沿いの坂道を下る。 ああ疲れた。 いったい今日は何時間働いたんだろう。 お昼ごはん何食べたっけ。 そもそも食べたっけ、あれどうだったっけ。 笑い声がどこからから聞こえた。 カレーの匂いが香る。 お腹と涙腺がキュッと収縮した。 今の職場、大宮駅近くの訪問介護事業所に入職して1年は経った。 人手不足に次ぐ人手不足、病欠に次ぐ

          今宵の猫のように

          ふたつのワンスター

          全身のコーディネートの中で、一番力を入れてお金をかけているのは靴だ。 洋服そのものにはわりと適当に選ぶわりに、靴、特にパンプスに対してだけは異常なほどのこだわりを見せる。 執着に近いものもあって、買い物に付き合ってもらっている友人に呆れられることもしばしばあった。 『丸トゥのパンプス、全体的にオフホワイトでヒール部分は5cmくらい。甲ストラップ付で、ボタンは木製のクローバーモチーフ。インソールは小花柄。やや幅広。長く立っていても足が痛くならず、駅の階段を駆け下りることができ

          ふたつのワンスター

          靴ひも

          来週、私はこの関東平野の寒い田舎町を出て、はるか南へ旅立つ。 ここよりもずっと温かい南の島。 自然豊かな海と山に囲まれた楽園と新生活が私を待っている。 心が小躍りしてもいいくらいの春の日に、思い出すのは小学生のころの思い出だ。 小学校3年生くらいだったろうか、体育の授業が大嫌いだった。 中でもマラソンが大嫌いの中でも特に大嫌いだった。 今日はマラソンの練習がありますなんて予告されようものなら、前日に水風呂に入って風邪をひこうとしたり、体温計をこすって熱をあげようとしたり、情

          2011年8月、石巻の記憶

          <今やれることを> 2011年8月。 東北沿岸部へのボランティア派遣が決定しました。 3月下旬のさいたまスーパーアリーナでのボランティア活動で知り合った人の紹介でした。 宮城県石巻市内の福祉避難所での福祉支援です。 知人からメールをもらい一瞬ためらいました。 本当に行っていいのだろうか、と。 SSAに避難した人たちのほとんどは、原発事故で故郷を亡くした人たちでした。 沿岸部で避難生活を送っている人たちは、家族や友人を亡くした人たちです。 どちらも亡くしたことはないから苦

          2011年8月、石巻の記憶

          さいたまスーパーアリーナが避難所になった10日間。

          2011年3月11日14時46分、東北地方太平洋沖地震が発生。 その50分後、大津波が発生し、原子力発電所の事故も起こりました。 目の当たりにした大災害。 友人や知人、その家族たちも多く被災している。 一方、自分たちの生活も計画停電や物資不足など混乱が続いている。 原発事故もどうなるのかわからない。 「なにかをしたい」 「なにができるのか」 「なにかをしたいけどどうしたらいいのかわからない」 そんな心境の中で迎えた震災5日目の3月16日。 耳にしたのが『2000人の被災者が

          さいたまスーパーアリーナが避難所になった10日間。

          Everything (it's you)

          長く続いた冬が終わった。 雲一つない青空の隅の方、春が顔をのぞかせている。 部屋の掃除をしていた私は、何の気なしに卒業アルバムの革の表紙を開いた。 広い世界に飛び出す直前、毎日を懸命に生きて、誰かを想っていたあの頃。 1枚はらりと落ちたのは、教室ではしゃいでいる写真だった。 使い捨てのインスタントカメラで撮影されたと思われるその1枚。 画質こそ少し荒いものの、今にも青春が飛び出してきそうな勢いがあった。 マキちゃん、山口君がいて、ああ芝崎君だ、懐かしい。 どうしているかな、元

          Everything (it's you)

          南アルプスの滝にて

          新東名の森掛川インターを降りて北上した。 南アルプスの裾が拡がっている。 目的地はとある滝。 当時私たち夫婦はパワースポットをめぐる旅に凝っていて、その滝も隠れパワースポットとして地元ラジオで紹介されていたものだった。 ナビの言うままに走ってたんだけど、どうも調子がおかしい。 右に曲がれと言うのだけれど、目の前の車窓もどうみても1本の林道があるだけで右折できる道はない。 「右です」 「右です」 「右です」 何度もリルートを繰り返し、曲がれと言い続ける。 無機質なナビの案内音

          南アルプスの滝にて

          火曜日の宇宙人

          雪子先生が亡くなったのは、今にも雲が剥がれ落ちてきそうな朝だった。 あの雲はきっとズッシリとした重さを持っていて、埋もれた私はきっと窒息してしまうんだろう。 ニュースはこの1年に起きた出来事を矢継早に振り替えっていて、ああ今年が死んでいくんだな、なんてことを呟いていた。 地下鉄サリン事件、阪神大震災。 いよいよやって来る世紀末、ノストラダムスの大予言。 世界は本当に滅んでしまうのかもしれないって、その日の空をみながら考えていた。 私にはエレクトーンを習いたいなんて言った覚え

          火曜日の宇宙人

          あの日のメリークリスマス

          生まれてはじめて渋谷という街に来たのは、17歳のクリスマスイブだった。 ハチ公口の改札口のその先、交差点前には人が溢れかえっていた。 爆音で流れるクリスマスソングが空で合唱している。 夏の田んぼでよくみるカエルの合唱のようだった。 イルミネーションがともり始め、青や緑、黄色の看板が光り出す。 叫び声に近い笑い声は、夏祭りのどんちゃん騒ぎのようだった。 さすがにこれだけ混みあっていると会話もままならない。 「すごいね」 「ん?ごめん聞こえなかった」 「ううん、大丈夫。行こう

          あの日のメリークリスマス