1983年 東京ディズニーランド

4. サプライズ

 4月13日。今日は僕の25歳誕生日だ。開園を二日後に控え、リハーサルも大詰めを迎えていた。パーク内はプレオープンという事で本舞台は使用できなかった。
僕は今日が自分の誕生日だという事をみんなに知らせたくてウズウズしていた。アメリカ人にハッピーバースディの歌を唄ってもらいたかったのだ。 誰か何かのキッカケをくれないかなぁとソワソワしていた。
しかし大詰めのためにフォレストはピリピリした顔で、朝一番から芝居の通し稽古をするという。今日も僕のリハーサルの出番は無さそうで、アキラ、イズミ、マジーの3人が通し稽古を始めた。僕は日本人男性のプロンプターも兼ねて彼らの動きに合わせて動いた。僕は二人分のセルフや動き充分には覚えていた。訛りが出なければ完ぺきだった。

冒頭の登場シーンである。本来はステージの袖から登場するのが一般的である。だがフープは旅役者一団である。建物の正面入り口から入場するのだ。馬のいななく声がして馬車の泊まる音。この効果音の後にシックスビッツが太鼓を打ち鳴らしながら登場。そして残り5人が一斉に登場するのだ。
「待たせちまった。サー楽しくやろーぜ。」
のセリフきっかけで演奏が始まる。
「フープディドゥ、フープディドゥ、みんな楽しく一緒に」
全員がほぼ完ぺきに歌や踊りをマスターしていた。みんなのコミュニケーションも良く、喧嘩や言い争いも全く無く過ごしていた。
一時間程度でオープニングのリハーサルが終了し、
「ブレイク」
とフォレストが小枝を折る仕草で全員に休憩を伝えた。みんなそれぞれに思い思いの休息を取り始めた。
「今日はみんなが上手くやってくれたのでとても気分が良いよ。
だから今日は私がみんなに飲み物をご馳走するよ。ユースケ悪いけど、飲み物を買うのを手伝ってくれるかい?」
といって僕を連れてレストランにある自動販売機の所に行った。自動販売機の紙コップで飲み物を1つずつオーダーするものだから時間が掛かる。今日は日本人が5人とアメリカ人が7人と舞台監督と通訳の2人の14杯分のジュースをトレイに乗せるのに時間が掛かった。
「アーユーオールライト?」
「オーケー。アイム ファイン。」
フォレストがトレイに沢山の飲み物を乗せて運ぶ僕を気遣ってくれた。一番下っ端だけれど、そんな気遣いをしてもらえることが誇らしかった。
「テイクケア。」
角を曲がるごとに声を掛けてくれた。
二人でトレイを持ってリハーサルルームに戻ると、ガラス越しにみんながゴソゴソと変な動き方をした。
アキラが扉を開け、フォレストに続いて僕が入室すると突然
「ハッピーバースディトウーユー」
ショートケーキを出しながら全員が歌い出した。サプライズでのバースディソングであった。僕は危うくトレイのジュースを溢しそうになった。
アメリカ人たちが慌てて寄って来てトレイを一緒に持ってくれた。
嬉しいけれど恥ずかしくもあり、どんな表情をしたら良いのかと戸惑ってしまった。サプライズでのお祝いは生まれて初めての体験だった。
今までに経験したことの無いフレンドリーな雰囲気に満ち足りた気持ちになった。
僕だけパフォーマンスは一ランク下だけれど、みんなと仲間になれた喜びに包まれた。気づいたら少し涙目になっていた。 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?