見出し画像

バッハ シンフォニア第1番【解説】 BWV787

・音階の幅を広げることで、冒頭からインベンションとの難易度の差が明確になっている。
・主題の上行ラインは喜びに溢れた明るさを持つ。一方、掛留音(けいりゅうおん)を使用した下行ラインが美しく形成されている。
・旋法的な終止形が多く、完全終止形は最後に出てくるのみなので、曲中の段落形成が少し曖昧になっている。


主題から伺える難易度の高さ

インベンション第1番とシンフォニア第1番はどちらも同じハ長調で書かれており、音階で始まっています。
しかし、主題を比べてみますと使われてる音階の幅が全然違います。

インベンションの冒頭

シンフォニアの冒頭


比べてみると一目瞭然です。音階の長さも音域の広さも倍になっています。
正直、シンフォニアの導入曲(1番)としては難しく、この後に続く15曲の中にある、より簡単な曲から始めても良いかと思います。


掛留音(tone of suspension)

掛留音(けいりゅうおん)については他のシンフォニアの曲でも説明してありますが、何回説明しても足りない重要な要素なので繰り返します。

掛留音とは、直前の小節からタイで延ばされて、小節の頭で倚音(いおん・和音の構成音ではない音)として残る音のことです。

不協和な掛留音は必ず下行して解決するようになっています。
【掛留音の譜例】シェンカー分析理論より

強拍である一拍目に協和音がくるのが普通の対位法だとすれば、弱拍にずれて協和音に解決するので、「リズムのずれ」によって生み出されてると云われています。

シンフォニア1番では3小節目に二カ所、掛留音が出てきます。赤丸を付けた所です。

この箇所を協和音に直しますと

このような形になります。
弾きやすくはなると思いますが、掛留音による味は全く失われてしまいました。
つまり、タイをきちんと延ばさず弾くということはこのような協和音の音楽になってしまう、全然違うものになってしまうということなのです。
タイがいかに大切か分かって頂けたことと思います。


主題の反行形

主題はそのままの形で出てくることが多いですが、上下逆さまにして出てくることもあります。
主題はこの形でした。

逆さにしてみましょう。

(ト音記号まで逆さまになってしまいました・・。)
この逆さまにした音型がたくさん曲中で出てきます。
例えば9小節目の内声の部分、

反行形になっていても、主題には違いないのでしっかりと提示しましょう。
移行部以外では毎小節、主題が原型か反行形のどちらがで出てきています。

主題が終わり切る前に次の主題が重なって出てくることをストレッタと言います。ストレッタの部分では、少し緊迫感が生まれます。

完全終止形が出てこない

Ⅴ(属調)→Ⅰ(主調)の和音進行で終止する形を完全終止形と言います。この曲では最後にだけ現れます。他のシンフォニアでは完全終止形で区切りを付ける所がたくさんあるので、異色の特徴になります。
曲中での終止形(カデンツァ)は6小節目と10小節目に出てきます。


構成

第一提示部(主調・ハ長調)1~6小節
移行部
第二提示部(属調・ト長調)8~11小節
第三提示部(転調部分)12~14小節
第四提示部(主調・ハ長調→下属調・へ長調)15~17小節
移行部
終結部(主調・ハ長調)19~21小節


移行部が毎回入るわけではなく、第二、三、四提示部はそのまま繋がっています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?