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バッハ シンフォニア第5番【解説】 BWV791


琴線に触れるような美しい装飾音が施されたサラバンド風の楽曲。リュート伴奏にのせた、二本のヴァイオリン、またはフルートによるトリオでの演奏を想起させる作りをしている。フランス風序曲を思わせる装飾の美しさに隠れがちだが、4度下に現れる模倣(カノン)、転回(声部交換)等が駆使された労作。


カノン

この曲では模倣(カノン)が4度下、4度上、5度下、2度上に出てきます。


よく主題が出てきたら強調するようにと、バッハの2声や3声の曲では助言を受ける事がありますが、シンフォニア第5番をフーガの主題のように弾いてしまうと、途端に曲調と合わなくなってしまうので注意が必要です。

この曲の模倣の部分を全て載せておきます。

・9~11小節目、2度の模倣

・13~15小節目、4度上の模倣

・17~19小節目、5度下の模倣

・30~33小節目、5度上の模倣


転回(声部交換)

旋律とハーモニーの役割の交代を行う転回が、5~8小節目と

34~37小節目に見られます。

旋律を明け渡しているので、模倣というよりは続きを弾いてもらっている感じになります。


アポジャトゥーラ

模倣や転回に加えて、この曲の魅力は美しく彩られた装飾音です。バロック時代には豊かな装飾を、演奏家によって自由に施していました。
当時必須だったこの演奏技術の教育を重視したバッハは原曲と装飾譜の両方共に残しました。
いわば、この装飾譜はバッハによる模範解答例ということになります。
特徴的なのは、アポジャトゥーラ(倚音による前打音)の付け方です。

下行2度によるアポジャトゥーラ(2小節目)

3度の重音を使った下行2度によるアポジャトゥーラ(3小節目)

6度の重音を使った下行2度によるアポジャトゥーラ(4小節目)

秀逸の極めつけは5度下行によるアポジャトゥーラに掛留音を充てた箇所(6、7、8小節目)

アポジャトゥーラと掛留音を重ね合わせる事で非常に不安定な響きになり、楽曲の奥行きが一気に深まります。さらに5度下行も使用しているので、効果はバツグンです。しかも、印象的な不協和音はアポジャトゥーラにより、あくまで一瞬の出来事になるという秀逸ぶりにはただただ脱帽です。

その他の装飾音も、ハーモニーにより沿うカノンに相応しい美しいつくりになっています。決して、直角的な印象にはならない、柔和な装飾音の形はこの曲をどのような音色で奏でれば良いかのヒントにもなっているように思われます。

構成

構成は大きく分けて、3部に分けることが出来ます。
第1部(1~16小節目)
第2部(17~28小節目)
第3部(29~38小節目)

また、もう少し細かくして終結句が出てくる全ての箇所を区切りとして、4部に分けることも可能です。
第1部(1~8小節目)
第2部(9~16小節目)
第3部(17~28小節目)
第4部(29~38小節目)

第1部を8小節+8小節と捉えるか、第1部と第2部がそれぞれ8小節ずつあると捉えるかの違いです。
どちらがしっくりくるかは演奏者の音楽の感じ方によるでしょう。

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