注文の多いゲーセン
「衣服を脱いで全裸になって下さい」
最初のゲートを潜ると、抑揚のない女性の声が聞こえた。
僕は服を脱ぎ、傍のトレイに置いた。
ゲートセントラル、通称「ゲーセン」。
数十人のよぼよぼの老人達と一緒にスカイカーゴに乗せられ
その敷地内に入ったのが10分程前。
ゲーセンは一級市民だけが住める夢の都だ。
一度入ることさえできれば、何不自由のない生活が保証される。
その居住権は多額の献金、もしくは年に数回の抽選に当たるしかない。
無職の僕は、もちろん後者の当選組だ。
次のゲートで、またアナウンス。
「目を閉じて下さい」
言われる通りにすると、全方位から暖かい液体が降り注ぐ。
思わず頭に手をやると、髪がごそりと抜け落ちた。
いや、髪だけじゃない、全身だ!なんてこった!
待て待て、落ち着こう。
きっとこれは、徹底した衛生管理に違いない。
外部の者は、一時的な脱毛も当然だろう。
何しろ、夢の都なのだ。
案の定、次のゲートでは消毒液が降り注ぐ。
「10秒間その場で直立して下さい」
アナウンスは相変わらず冷たく言い放つ。
我慢するしかない。
だが、流石に次のアナウンスは面食らった。
「腸内洗浄を行います。チューブを肛口に挿入して下さい」
昨夜から何も食べていない上に、この仕打ちとは。
ちっ、なるようになれだ。
そうして内外を洗い尽くされた僕は
最後のゲートを潜って、ようやく人に会うことができた。
「お疲れ様です。これが最後の準備です」
白衣を着た彼は、注射器を僕の腕に当てた。
液体を注入されながら僕は苦笑いして言う。
「ここまで随分と酷いことされましたよ。
ところで、一緒に来た老人達も同じことを?」
白衣の男は軽く首を振ると、にこやかに言った。
「キミは特別さ。
これから、その老人達の栄養剤として
余生を送ることになるからね。
なに、不自由もない生活だよ」
暗転。
テキスポにて行われた800字お題小説に投稿したもの。
テーマは「ゲーセン・老人・空腹」
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