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800文字

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800文字前後の文字数で3つのお題を基に紡ぐお話。
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じいさんが言うことにゃ

いえね、年末ということで臨時で入れて貰ってんですけど餅屋だけにあまりにも忙しくて昼休みもとれなくて空腹でカリカリしてるとこへ、釣銭が足りなくなって両替ついでに隣のゲーセンでさぼっ、一休みしてたら、よぼよぼのじいさんが話しかけてきて「自分は悪い陰陽師に呪いを掛けられた某国の王子で美人にキスして貰うと呪いが解ける」なんてことを素面で言いやがるんですが、信じる信じないは別として、美人として選択されたのはちょっと嬉しかったので、まぁ話位は聞いてやらんでもないと思いながらどういう呪いか

今朝の列車が遅れたワケ

遠距離通学の僕等の朝は早い。 白さの密度が随分と濃い息を吐きながら、幼馴染の聖と駅のホームへ駆け込む。彼女はマフラーをかきあげ、息を整えながら、僕と並んで列車を待つ。 しばらくの沈黙。 ふと、何かに気付いた彼女は肘で僕を突き、マフラー越しのくぐもった声で僕に問う。 「あすこのさ、椅子に座ってるおじさんさ?」 「ん?あのおじさん?」 「色おかしくない?」 その視線の先、向いのホームには、ぐだんぐだんの酔っ払いが堅い椅子に引っかかってる。顔色は青ざめ、予断を許さぬ感じだ。

列車は走るよロコモーティブ

あー、店長っすかー、ぅはよござぁす。あの、ちょっと今日遅れますっつか、めっちゃ寒いっすっつか、チョータリーっつかもう帰って寝たいんですけど、マフラー装備してがんばって駅まで来てる私なんですけどこうやって電話するのも億劫なんですよね実のところ。ケータイがもう冷たくて冷たくて、どんだけ店長を恨んだことか、あ、いや、店長は悪くないですよ、悪いのは社会ですからほんと、その歯車となって働く雇われ店長にどんな悪事が働けると言うのかって話しですよね、実際のところ、あでも店長がチョイ悪オヤジ

相棒

日曜の昼。 空腹に耐え兼ねて表に出たものの、自宅からコンビニまでは結構な距離がある。だるい。ふと、カップ麺の自販機が、コンビニよりは近いゲーセンの駐車場にあったことを思い出す。 何とか、自販機まで辿り着いて腹もそれなりに満ちたので、漏れ聞こえる音に惹かれて、久々にゲーセンへ。 店内をぐるりと周ってみると、隅のシューティング台にて、不思議な光景が。よぼよぼのじいさんが二人並んでプレイしている。 まぁそれ自体はないこともないだろうけど、不思議さを醸し出しているのは、片方がレ

好奇心で猫は動く

猫と散歩するのが好き。 ふらりと帰宅した飼い猫が催促するので、今夜はちょっと(猫的に)遠出して、近所の公園に行くことにした。 普段は我が物顔に闊歩する猫も、見知らぬ場所へ行く時は足取りが重い。 それでも、猫特有の好奇心には勝てないのか、私の後をのったりと付いてくる。 時計はとうに0時を回り、冷え込みは相当。 出掛けに着てきたコートのポケットに、コーヒー缶を入れて暖をとりながら、歩くこと7分。 公園に入ると、何だか人の気配がする。 警戒しながらも、猫と同じ位の臆病さと好

真夜中チョコ奇譚

こんな深夜に公園へ呼び出すのは、もうそんなに若くない私にはなかなか勇気のいることです。 お互い忙しい身ということもあり、頻繁に会える訳でもなくて、バレンタインデーの今日も、仕事でだいぶ遅くなり、ようやく会えたのは、この時間。 「もう0時過ぎちゃったけど、24時台ってことで。はい、バレンタインチョコ」 「わー、ありがとうございます!チョコなんて貰ったの久しぶりで。嬉しいです」 久しぶりってのが何だかカチンと来たけど、まぁそれならそれで良いやと思っちゃうのが年上の余裕。そ

猫が西向きゃ尾は東

あ、店長ですか、おはようございます。いや、ちょっと大変なことになってまして、出勤する時っていつもあひる塚公園のとこ通るんですけどあ、あひる塚公園ってのは私が命名したんですけど、いや、なんか砂場の横にある塚っぽいのが、あひるっぽいんですよ、最近はそうでもないんですけど、昔は泣きそうになったらいつもそのあひるんとこに行ってはローキックでそのツラを蹴りまくるという、まぁストレス解消的な側面もある公園なんですけど、今日はまた別の側面を垣間見せてくれたっていうか、これがまたアナタ、猫!