白エルドラージの歴史

この記事はかつてメインで使用していたヴィンテージのデッキ、白エルドラージ(White Eldrazi, Displacer Tax)の記事です。前回はデッキの大まかな解説をしましたので、本稿では「白エルドラージの栄枯盛衰」を振り返ってみようと思います。当時はまだ駆け出しだったこともあり、偏っている部分もあるとおもいますがご容赦ください。


1.はじめに

yuz.といいます。マジック自体は高校のとき、MMQ~LCG(ギリギリMRDかかるくらい)で一旦休止し、2015年冬からヴィンテージでの復帰です。

ヴィンテージの記事を書いていくのが最近の流行らしいので、みんな書けそうなMUDの話は放っておいて、白エルドラージの話をしていこうと思います。

2.時は200X年――磁石のゴーレムは制限された。

MOでヴィンテデビューする直前、2016年4月8日に<磁石のゴーレム/Lodestone golem>は制限カードに指定されました。

当時もMUDはヴィンテージのトップメタの一角でした。

<僧院の導師/Monastery Mentor>が4枚積め、思い出すのも忌々しいフリースペルの数々(<噴出/Gush>, <ギタクシア派の調査/Gitaxian Probe>, <精神的つまづき/Mental misstep>)も制限されていなかった頃のジェスカイメンターもトップメタの一角で、MUDとメタゲームは二極化しているように見えました。
次点に<王冠泥棒 オーコ/Oko, the thief of crowns>や<覆いを割くものナーセット/Narset, parter of veils>が居ない頃の至って普通のオース、それから、テゼレッターといわれる<求道者テゼレット/Tezzeret, the seeker>を搭載し、高速で<通電式キー/Voltaic key>と<Time Vault>をサーチして使い回す無限ターンデッキがいました。

当時のMUDはこんな構成で、今のアグロ寄りからすると別モノにみえます。
MAINBOARD
[Creatures]
4 <電結の荒廃者/Arcbound Ravager>
3 <搭載歩行機械/Hangarback Walker>
1 <磁石のゴーレム/Lodestone Golem>
4 <ファイレクシアの破棄者/Phyrexian Revoker>
3 <ファイレクシアの変形者/Phyrexian Metamorph>
3 <トリスケリオン/Triskelion>

[Artifacts]
1 <Black Lotus>
1 <Mox Sapphire>
1 <Mox Pearl>
1 <Mox Ruby>
1 <Mox Jet>
1 <Mox Emerald>
1 <魔力の墓所/Mana Crypt>
1 <太陽の指輪/Sol Ring>
1 <虚空の杯/Chalice of the Void>
2 <世界のるつぼ/Crucible of Worlds>
4 <抵抗の宝球/Sphere of Resistance>
4 <絡みつく鉄線/Tangle Wire>
4 <アメジストのとげ/Thorn of Amethyst>
1 <三なる宝球/Trinisphere>

[Lands]
4 <古の墳墓/Ancient Tomb>
4 <ミシュラの工廠/Mishra's Factory>
4 <Mishra's Workshop>
1 <露天鉱床/Strip Mine>
1 <トレイリアのアカデミー/Tolarian Academy>
4 <不毛の大地/Wasteland>
3 <幽霊街/Ghost Quarter>

MUDは<ハーキルの召還術/Hurkyl's recall>に対して脆弱で、当時はマナを縛り、相手の動きを封じることで耐性を得ていました。
マナロックとして、現在も備えている<抵抗の宝球/Sphere of resistance>に加え、三枚余分に<アメジストのとげ/Thorn of amethyst>を積み込み、<絡みつく鉄線/Tangle wire>すら持っていました。状況によっては<世界のるつぼ/Crucible of the worlds>で<露天鉱床/Strip mine>や<不毛の大地/Wasteland>を使い回していたのです。

これに<煙突/Smokestack>を加え、よりボードコントロールを強化するとSTAXに近くなりますが、アグロに寄せて無色マナを有効に使おうという勢力がいました。それがEldrazi Shopsです。

3.過渡期の異形 Eldrazi Shops

Eldrazi Shopsは、MUDのマナを縛る能力をそのままにして、<難題の予見者/Thought-knot seer>と<現実を砕くもの/Reality smasher>などのミッドレンジ圏のエルドラージをフィニッシャーに据えたアーキタイプです。
この移行で、攻撃は無色マナに、妨害は<Mishra's Workshop>産の無色マナ(=アーティファクト)にという分業をしています。

MAINBOARDS
[Creatures]

1 <磁石のゴーレム/Lodestone Golem>
3 <ファイレクシアの変形者/Phyrexian Metamorph>
4 <ファイレクシアの破棄者/Phyrexian Revoker>
2 <エルドラージの寸借者/Eldrazi Obligator>
3 <現実を砕くもの/Reality Smasher>
4 <難題の予見者/Thought-Knot Seer>

[Artifacts]
1 <Black Lotus>
1 <虚空の杯/Chalice of the Void>
1 <魔力の墓所/Mana Crypt>
1 <Mox Emerald>
1 <Mox Jet>
1 <Mox Pearl>
1 <Mox Ruby>
1 <Mox Sapphire>
1 <太陽の指輪/Sol Ring>
3 <抵抗の宝球/Sphere of Resistance>
4 <絡みつく鉄線/Tangle Wire>
4 <アメジストのとげ/Thorn of Amethyst>
2 <世界のるつぼ/Crucible of Worlds>
1 <三なる宝球/Trinisphere>

[Lands]
4 <古の墳墓/Ancient Tomb>
3 <魂の洞窟/Cavern of Souls>
4 <エルドラージの寺院/Eldrazi Temple>
3 <Mishra's Workshop>
1 <露天鉱床/Strip Mine>
1 <トレイリアのアカデミー/Tolarian Academy>
4 <不毛の大地/Wasteland>

一見まともに機能しそうにみえるのですが、<Mishra's workshop>と<エルドラージの寺院/Eldrazi temple>の二つの土地から生まれた無色マナが、まったく別の色のマナのように機能するため、バランスが非常に取りにくく、序盤で行き詰まる場面がしばしばありました。

この頃はフリースペルが制限なく使用でき、<僧院の導師/Monastery mentor>も四枚積みできましたから、MUDはマナを縛り、展開を遅くすることに勝ち筋を見いだしていました。これに<難題の予見者/Thought-knot seer>の妨害能力を加えてより有利な展開を引き出そうとしたのです。
また、エルドラージ達さえ場に出てしまえば<ハーキルの召還術/Hurkyl's recall>だろうと<魔力流出/Energy flux>だろうと恐れることもなくなりました

当時は、無色と当たれば、マナを縛られてフラストレーションがたまり、ジェスカイメンターとあたれば、フリースペルで延々と増え続けるモンクトークンと相対することになるという時代だったのです。

※余談ですが、このサンプルリストに<エルドラージの寸借者/Eldrazi Obligator>が入っているのはオースメタです。殆どのデッキでは<切りつける豹/Slashing panther>や<磁器の軍団兵/Porcelain Legionnaire>が採用されていました。

そのあと、このデッキはPowerless Eldrazi(Jacodrazi)だとか、Colorless Eldraziといったエルドラージが主体のデッキへ分派していくのですが、これはまた別の話。

4.白エルドラージの誕生

MTG Goldfishによると、白エルドラージの原型となるデッキが登録されたのは2016年5月25日です。<磁石のゴーレム/Lodestone golem>の制限から2ヵ月を経て、このアーキタイプは誕生したのです。

MAINBOARDS
[Creatures]

3 <封じ込める僧侶/Containment Priest>
4 <変位エルドラージ/Eldrazi Displacer>
1 <磁石のゴーレム/Lodestone Golem>
4 <ファイレクシアの破棄者/Phyrexian Revoker>
4 <現実を砕くもの/Reality Smasher>
3 <スレイベンの守護者 サリア/Thalia, Guardian of Thraben>
4 <難題の予見者/Thought-Knot Seer>
2 <ヴリンの翼馬/Vryn Wingmare>

[Artifacts]
1 <Black Lotus>
1 <虚空の杯/Chalice of the Void>
1 <魔力の墓所/Mana Crypt>
1 <Mox Jet>
1 <Mox Pearl>
1 <Mox Ruby>
1 <Mox Sapphire>
1 <太陽の指輪/Sol Ring>
4 <アメジストのとげ/Thorn of Amethyst>

[Lands]
4 <古の墳墓/Ancient Tomb>
4 <魂の洞窟/Cavern of Souls>
4 <エルドラージの寺院/Eldrazi Temple>
1 <カラカス/Karakas>
5 <平原/Plains>
1 <露天鉱床/Strip Mine>
4 <不毛の大地/Wasteland>

(引用元はこちら


マナを縛る能力を「クリーチャー以外の呪文」に絞ることで、マナ加速を容易にし、かつ<魂の洞窟/Cavern of souls>でカウンター耐性を得つつ、クリーチャーで盤面を制圧するというコンセプトは現在まで変わっていません。(登録時は異界月の発売前なので、<異端聖戦士サリア/Thalia the heretic cathar>は入っていません)

Eldrazi shopsでの弱みであった無色マナを二つのレイヤーに分ける方法よりも、白マナと無色マナの二色構成にして、マナ拘束の手段を<アメジストのとげ/Thorn of amethyst>に絞ることで、クリーチャーの多いデッキに最適化させたといえます。クリーチャーに対して強い除去能力を持ち、初手からオースに対処ができるようにもなっています。

当時は<アメジストのとげ/Thorn of amethyst>が4枚積み込めましたから、いかにして相手のカウンターを無駄打ちさせつつ<アメジストのとげ/Thorn of amethyst>を着地させるか、というのが駆け引きのひとつでした。

5.Tier1に近づく白エルドラージ

2017年の初春頃、MTG Goldfishで、このアーキタイプが「White Eldrazi」ではなく「Displacer Tax」という名前で掲載されるようになりました。
この頃から使用者が増え始めました。当時は霊気紛争が発売され、<逆説的な結果/Paradoxical outcome>を採用したデッキがトップメタを飲み込もうとしていた頃です。

<逆説的な結果/Paradoxical outcome>を採用したアーキタイプは大まかに3つに分けることができました。

1つは、現在も「Paradoxical storm」と言われるアーキタイプで、軽量アーティファクトを大量展開し、<逆説的な結果/Paradoxical outcome>で回収し、大量ドローしつつマナ加速をして勝ち筋を見つける基本的なタイプ。
2つめは、<ドルイドの誓い/Oath of druids>と掛け合わせ、<グリセルブランド/Griselbrand>のドロー能力を①に足したParadoxical oath。
3つめは軽量アーティファクトを<逆説的な結果/Paradoxical outcome>で回収して、ドローを得つつ、<僧院の導師/Monastery mentor>のトークンを大量に展開して押し切るParadoxical mentor。

<逆説的な結果/Paradoxical outcome>を採用したデッキに有利に働くのはコスト増加の妨害ができるMUDや白エルドラージでした。しかし、<抵抗の宝球/Sphere of resistance>は全ての呪文のコストを増やしてしまいますから、<アメジストのとげ/Thorn of amethyst>の「Non-creature spells cost (1) more to play」は非常に重要な要素でもありました。なぜなら、<逆説的な結果/Paradoxical outcome>を採用したデッキは殆どクリーチャーを積んでおらず、白エルドラージ側は影響をほとんど受けないからです。加えて、<迷宮の霊魂/Spirit of Labyrinth>や<エーテル宣誓会の法学者/Aethersworn canoist>といった対策カードを白が擁していたことが、発展の一翼を担っていたと考えます。

<封じ込める僧侶/Containment priest>と<安らかな眠り/Rest in peace>の存在があり、メタの中に居たオースへも、立ち回りは容易でした。

一方で、マナを縛る戦略があった上に、霊気紛争で<歩行バリスタ/Walking Ballista>を手に入れたMUDはよりアグロにシフトし、このデッキで太刀打ちするのは困難になっていきました。

6.2017年8月28日――アメジストのとげ:制限

 最近、紙のマジックでも「Magic Online」でも、ヴィンテージのメタゲームは「Shops」と「Mentor」の2つのデッキの多さと強さによって不健康な状態に陥っていました。最近12回のVintage Challengeの結果が、トップ8の40%がShopsで30%がMentorということからも裏付けられています。両デッキとも強力で、多様性を否定し、そして対戦して苛立つような戦略を擁しています。
―― 2017年8月28日 禁止制限告知

遂にその日がやってきてしまいました。白エルドラージはshopsではないのに、shopsがしでかしたことのとばっちりを食ってメタゲームの外に追いやられてしまったのです。

《アメジストのとげ》はShopsデッキにおいて、比較的強力な妨害カードです。これはこのデッキのクリーチャーによる脅威を阻害しません。こちらではなく《抵抗の宝球》を制限することにすると、他のアーキタイプへの被害を避けることができます。Shops以外のクリーチャー・デッキでも、《アメジストのとげ》は使われています。しかしながら、現在のメタゲームにおけるShopsの強さと制限によって他の強力なデッキが弱まることを検討して、より影響の大きい変更をすることにしました。
―― 2017年8月28日 禁止制限告知

これによって、白エルドラージは<アメジストのとげ/Thorn of amethyst>を失いましたが、<輝きの乗り手/Glowrider>を再発見し、生きながらえています。

しかし、(2)と(W)(2)の速度は致命的でした。使用者は減っていき、デッキリストに登録されない週もしばしばありました。悲しいことですが、これもひとつのアーキタイプの歴史です。

願わくば、いつかのエキスパンションでこのアーキタイプが息を吹き返すことを願ってやみません。

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