赤シャツ

先日、池袋のブリリアホールでやっていた舞台「赤シャツ」を見た。
このご時世というのもあってどこかへ赴いて何かを見ること自体が久しぶりだったのだけど、舞台も綺麗で脚本も面白くて、上質なものを摂取したな〜!!と大満足した。

せっかくなので感想をしたためておくけれど、わたしにはこれが良かったとかあれが汚かったとかってアカデミックに舞台を評論する力はないので、自分が思ったことを自分なりに書きます。


※めちゃくちゃネタバレしています!



「赤シャツ」は、夏目漱石の「坊ちゃん」を坊ちゃんの登場人物である赤シャツというキャラクターの視点から描いたもので、いちおう事前に坊ちゃんを読んでおこうと思ったのだけど、なんだかんだでだらだらしていた結果半分くらいしか読んでいない状態で当日を迎えることになってしまった。

半分しか読めていない状態での感想だけど、まず赤シャツ役がジャニーズWESTの桐山くんだったのがかなり引っかかった。
「赤シャツ」という舞台で主演が桐山くんなのだからそりゃそうなのだけど、それでも登場したときにアレ!?桐山くんこの役なの!?と新鮮にびっくりした。
小説の赤シャツは色白で細っこくて女みたいに喋るいけ好かない洒落た奴というかんじだったので、色黒でガタイの良い、ジャニーズの中でも男らしい印象の桐山くんが演じてるのは異様だったし、そんな桐山くんがちょっぴりナヨナヨした喋り方をするのになんだかものすごい“癖(へき)”を感じたというか、桐山くんに赤シャツ演らせた〜〜〜い!!という強い想いを感じたのだった。

しかし癖だけっていうわけでもなく、その浮いた配役のおかげで赤シャツのほころびみたいなものが際立っていて、色黒でガタイの良い桐山くんが「男らしくなりたいなあ…」と言いながらみじめに泣くシーンとか、きっと色白の細っこい洒落男がやるより訴えるものが大きかったと思う。

赤シャツは小細工で徴兵を逃れた過去を持ち、最初はそのことを得意にすら思っていたのだが、真っ向から戦争に巻き込まれて死にゆく同世代の男たちや、それによる悲劇がのしかかる女たちを見て、自分の小賢しさを責めるようになる。
さらに舞台オリジナルキャラクター(正しくは小説にもちょろっと出てくるけど名前すらないキャラ)である弟の武右衛門(松島聡ちゃん)は赤シャツを軽蔑のまなざしで見つめ、兄のような卑怯者にはなりたくないという反動から軍人を目指している。

松島聡ちゃんがブログに“兄弟という関係なのに敬語を使ったりとずいぶん上下関係があるのが気になった。当時の家父長制も関係してるのだろうけど…”というようなことを書いていたのを事前に読んでいて、聡ちゃんも家父長制とか言うんだな〜と思うだけで何も考えていなかったのだけど、あのブログはかなり賢いというか(上から目線っぽくて申し訳ない…)、今となっては武右衛門という自身の役柄を通してかなり良い導入を作っていたな〜と思う。

そう、赤シャツはとにかく家父長制とかホモソーシャルとか男らしさについて訴えかけているところが大きくて、前述したとおり小細工で徴兵を免れた男が「男らしくなりたいなあ…」とみじめに泣くのだけど、それをいかにもホモソーシャルから外れていそうな白くて細い男じゃなく、逆にホモソーシャルではいかにも強者でありそうな黒くてデカイ男がやるのに意味があった。桐山くん演じる赤シャツは、本質的には卑怯者くせに、表面的には得をして生きていけてしまうのだ。
そして小賢しさとは対極に位置する“無鉄砲”な坊ちゃんや山嵐、そして兄を反面教師にする武右衛門は、まさに正直者はバカを見る的な展開をたどる。
(最終的に武右衛門が原作小説の坊ちゃんの冒頭をたどるというつくりになっていて、そこのカタルシスがすごかった!)

赤シャツは最後、俺みたいな卑怯者が甘い汁を吸うような世界じゃ真に無垢なやつらがバカを見る、そんな国に住みたいか?みたいなことを悲壮感たっぷりに語った。
そもそも坊ちゃんを赤シャツ視点で切り取って現代に上演することへの意味もギチギチに詰まっていて、演劇、ひいては芸術の社会における役割もしっかりやっていてすごく良かったです。
(わたしはかなり坊ちゃんや山嵐のような無鉄砲サイドの人間なので、「100年後にはあのような無垢なやつら絶滅してるかもしれない」と赤シャツが嘆いたときには心がアッチアチになってしまって「ここにいるぜ!!」と叫んで席を立ち上がるところでした)(※そのくらい届いたぜという意味です)

ただ、その“つい小狡い手を使ってしまう己に苦悩する男らしい男”というのにやっぱりめちゃくちゃ強い“癖”を感じたのは確かで(見せ方含めスケベだな…と感じるシーンも多かった)、やっぱりエンターテイメントってメッセージ性も萌えもどっちも大事だと思っているので、結果としてめちゃくちゃ良いものを見たなー😄🌟と思った。

日頃、ジャニーズJr.を中心に“魂がほとばしり過ぎてわけがわからないもの”をメインに摂取しながら“上っ面だけで何も言っていないもの”にブチ切れているので、ひさしぶりに“しっかりしているし魂もこもっている上質なもの”を見て、そうだ…ここまでちゃんとやって良いんだ…と、冷や水ぶっかけられたみたいな気持ちにもなった。
以前Mステで三浦大知を見たときも同じ気持ちになりました。

あと桐山くんのことは詳しくなかったのだけど、無数のカルマをすべて受け止めアイドルの顔で去って行ったのでスターじゃん!とシビれました。

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