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【結城友奈は勇者である考察】日本神話との関係性②西暦勇者の武器

こんばんは。来覇(くるは)と申します。

今回は勇者であるシリーズと日本神話との関係性についての考察第2弾となります。
小説「乃木若葉は勇者である」に登場した5人の西暦勇者、乃木若葉、郡千景、土居球子、伊予島杏、高嶋友奈が用いている武器について日本神話との関係性を踏まえて紹介していきます。


1.西暦勇者の武器

まずは西暦勇者がそれぞれ用いている武器から紹介していきます。

西暦勇者は七・三〇天災の際、それぞれが神社にて武器を見つけます。
それらは通常ならば何の変哲もない古びた武器ですが、神樹に選ばれた勇者が戦う意思を示して握ることで各地の土地神に由来する霊力が宿り、バーテックスに対抗できる武器となります。

以下に示したものが、それぞれの勇者が手にした武器と武器に宿す霊力になります。

乃木若葉→刀(生大刀)
郡千景 →鎌(大葉刈)
土居球子→施刃盤(神屋楯比売)
伊予島杏→クロスボウ(金弓箭)
高嶋友奈→手甲(天ノ逆手)

2.乃木若葉

まずは乃木若葉の持つ武器『生大刀』について考えていきます。

乃木若葉が七・三〇天災の際に手にした刀は、もともと出雲大社に奉納されていたものですが、平安時代以降に作成されたありふれた刀に過ぎませんでした。
そんな錆びついた刀ですが乃木若葉が握った瞬間、瑞々しい輝きを帯びた『生大刀』に姿を変えました。

『生大刀』の霊力がどのようなものであるかも小説「乃木若葉は勇者である」内で詳細に描写されています。

古の時、《無数の武器》の名を持つ地の神の王がいた。
彼は仲間の神と共に、自らの国と子たちを守ろうとしたのだ。
かの王の持つ神器の中に、冥府に由来する一本の刀がある。
単純で。それゆえに美しく。並ぶものなき殺傷力を持つ武器。
その名は《生大刀》

『乃木若葉は勇者である上巻p13』より引用

《無数の武器》の名を持つ地の神の王については「神世紀との関係性①天の神、神樹、中立神、造反神」ですでに語った通り「八千矛の神」の異名をもった国津神であるオオクニヌシと考えられます。

そして、『生大刀』はオオクニヌシがもつ武器の中でも特別なものとして日本神話で語られています。

日本神話において、『生大刀』は元々スサノオの持ち物でした。
オオクニヌシが葦原中国を平定するための力を得るため、根之堅州国にいるスサノオのもとを訪れ、スサノオの課すいくつもの試練を突破したことで手に入れたのが生大刀、生弓矢、天詔琴と言われています。

これらを用いてオオクニヌシは葦原中国を平定し国津神の王となります。

『生大刀』が冥府に由来すると評されているのも、根之堅州国が冥界である黄泉の国と同じ場所にあるという説からとられているのだと考えられます。

つまり、乃木若葉の持つ『生大刀』は神樹の中心であるオオクニヌシと造反神であるスサノオに由来する力の宿った武器であるということが考えられます。


3.郡千景

次に、郡千景の持つ武器『大葉刈』についてです。

郡千景は七・三〇天災の際、バーテックスの戦闘に巻き込まれることはありませんでしたが、偶然訪れていた神社にて神様へのお供え物として社に奉納されていた刃を見つけます。
この頃は柄もついてなく折れた刀の一部分と言われていましたが、郡千景が勇者としてのお役目をする際には大鎌の形をとっていました。

郡千景の持つ鎌に宿る霊力『大葉刈』についての描写は以下になります。

かつて農耕をつかさどる地の神の一人が、死した友人の喪屋を怒りのままに切り捨てるという暴挙を行った。
その際に使われた武器が《大葉刈》。死者をも冒涜する呪われし刃。

『乃木若葉は勇者である上巻p80』より引用

日本神話にはこの逸話と同じような話があります。


『大葉刈』はアヂスキタカヒコネという国津神が持っていた武器でした。

ある時、アメノワカヒコという国津神が亡くなり葬儀が行われた際、アメノワカヒコの妻の兄であるアヂスキタカヒコネがたまたまアメノワカヒコと瓜二つな容姿をしていたために、周りの人たちからアメノワカヒコが生きていたと勘違いされてしまいます。
死んだ人に間違えられたことで怒ったアヂスキタカヒコネは持っていた『大葉刈』で喪屋を切り倒し、壊してしまいます。

こうした日本神話の話から、「死者をも冒涜する呪われし刃」と評されたのだと考えられます。

また、『大葉刈』は別名で神度剣や十束剣と呼ばれているように日本神話では明確に剣として扱われています。

「結城友奈は勇者である 花結いのきらめき 乃木若葉の章」においても、郡千景は神社に奉納されていた刃を「折れた刀の一部分なのかしら……?」と予想しており、「結城友奈は勇者である 勇者史外典」でも剣の一部であるかのように見えます。

『結城友奈は勇者である 勇者史外典上巻』より

元々の依り代となった武器も剣のようであり、郡千景が手にしたことで宿った霊力である『大葉刈』も剣であったにも関わらず、なぜ郡千景の持つ武器は大鎌になったのでしょうか?

ここからははっきりとした描写がないため予想となってしまいますが、バーテックスを鏖殺したいと思う郡千景の内なる思いに応えて、一振りでより多くのバーテックスを倒すことのできる大鎌の形になったのかもしれませんね。

4.土居球子

続いて、土居球子の武器である施刃盤に宿る力『神屋楯比売』についてです。

土居球子は西暦勇者の中で唯一、武器を手にした瞬間の描写がない勇者となります。彼女を導いた巫女である安芸真鈴が出会った時にはもうすでに「鉄でできた円盤のようななにか」を持ってバーテックスと戦っていました。

土居球子の持つ施刃盤に宿る霊力『神屋楯比売』についての描写は以下になります。

神屋楯比売とは、土地神の配偶神にして『楯』そのものたる存在である。
(中略)
攻撃をするための武器ではなく、守るための防具。
『杏を守りたい』という願いを具現化したような神器。

『乃木若葉は勇者である下巻p60』より引用

この説明にある通り、土居球子の力の本質は楯となっています。
土居球子自身はその活発な性格から施刃盤を投げて戦っていましたが、本来は障壁を展開し敵の攻撃を阻むように立ち回るのが正しい使い方だったのかもしれません。

また、『神屋楯比売』で気になる点はその力が神そのものであることです。
『生大刀』や『大葉刈」は神社に奉納されていた古い武器に、神話で神が持っていた神器の力が宿る形でしたが、土居球子の持つ施刃盤には神器ではなく神そのものである『神屋楯比売』が宿っています。

この『神屋楯比売』は神樹の中心であるオオクニヌシの妻であり、後述するコトシロヌシの母親にあたります。
その名が示す通り神屋、つまり神の住む神殿を守る楯としての役割を持つ守り神であるといわれています。

まさに、伊予島杏を守りたいと願った土居球子にふさわしい楯だったのだと思われます。


5.伊予島杏

続いて、伊予島杏の武器であるクロスボウに宿る力『金弓箭』についてです。

伊予島杏は七・三〇天災の際、いつの間にかたどり着いていた神社にて勇者の力に覚醒し、何かに導かれるように神社に奉納されていた弩を見つけます。

伊予島杏の持つクロスボウに宿る霊力『金弓箭』についての描写は以下になります。

伝承によればその黄金の弓と矢は、たった一射で洞窟の岩盤を貫き破壊したという。それだけの破壊力を秘めた武器だ。

『乃木若葉は勇者である下巻p60』より

『金弓箭』は日本神話において、キサガイヒメが用いた神器でした。
キサガイヒメは息子であるサダノオオカミを生んだ際、誓約として『金弓箭』で岩屋を射抜きました。
すると、その矢は岩屋を貫き光り輝く洞窟となりました。これが現在の加賀の潜戸と言われています。

たった一射で岩盤を砕き洞窟をつくるほどの威力は日本神話の中でも有数の破壊力であるといわれています。

伊予島杏を守りたいと願った土居球子に対して、強い土居球子にあこがれた伊予島杏の内なる願いにこたえ、強力な破壊力を持つ神器の力が宿ったのかもしれません。

6.高嶋友奈

最後に、高嶋友奈の持つ武器である手甲に宿る力『天ノ逆手』についてです。

高嶋友奈は七・三〇天災の際、奈良県御所市の神社に奉納されていた古い鉄の手甲を手に入れます。

高嶋友奈の持つ手甲に宿る霊力『天ノ逆手』についての描写は以下になります。

それは地の神の王子の一人が、天の神から殺された時に放った呪詛。天を憎み、恨み、呪い、それら尽く滅せよと願った、彼の憤怒そのもの。

『乃木若葉は勇者である下巻p178』より

『天ノ逆手』を打ち、地の神の王子と呼ばれる神はオオクニヌシの息子であるコトシロヌシであると思われます。

日本神話において、葦原中国を治めていた国津神であるオオクニヌシに対して天津神は、「葦原中国は本来、天津神であるイザナギとイザナミが作った国であるのだから天津神が治めるのがふさわしい」と言い、葦原中国を明け渡すように通告します。

これがいわゆる日本神話における『国譲り』となります。
オオクニヌシは葦原中国を天津神に明け渡すかどうかの判断を2人の息子であるタケミナカタとコトシロヌシに委ねます。

しかし、天津神で最強の武神と呼ばれるタケミカヅチの前に、タケミナカタは敗れ、コトシロヌシは服従することとなります。

その際にコトシロヌシが打ったのが『天ノ逆手』と言われています。
まさに、天の神により自らが治めていた土地を奪われた国津神が天の神に対して行った最後の抵抗が『天ノ逆手』であり、国津神から天津神への呪詛そのものと言えます。

余談ですが、天津神に敗れ殺されたタケミナカタは諏訪大社の祭神であり、「白鳥歌野は勇者である」において白鳥歌野が守護していた諏訪地方の土地神となります。

白鳥歌野が武器として用いていた鞭に宿る力『藤蔓』も、タケミナカタが使用していた神器であり、遠い諏訪地方で戦っていた白鳥歌野も神樹の中心であるオオクニヌシの息子であるタケミナカタの力を得て戦っていたことがわかります。

話を戻しまして、『天ノ逆手』は勇者であるシリーズにおいて重要な力として語られます。
「結城友奈は勇者である 花結いのきらめき」において赤嶺友奈は天ノ逆手の特別な力についてたびたび言及しています。

友奈の因子を持つ人は、すなわち天の逆手を持つってことだから。

『結城友奈は勇者である 花結いのきらめき 花結いの章 第31話』より引用

そりゃあ高嶋先輩や私ら友奈の拳には、天の神に対する呪詛……キラーがついてるから。

『結城友奈は勇者である 花結いのきらめき 花結いの章 第28話』より引用

また、「乃木若葉は勇者である」では『友奈』という名前と逆手の関係性が語られています。

ただ、独特な習慣は続いていた。生まれた時に特定の行動—―たとえば逆手を打ったりした女子には、大赦から英雄・高嶋友奈にあやかり、『友奈』という名前が贈られる。天の神に対するささやかな反骨なのだろう。

『乃木若葉は勇者である下巻p205』より引用

これらの描写から、生まれた時に逆手を打った女子には『友奈』という名前が与えられ、その中でも友奈因子を持つ者には『天ノ逆手』の力が宿り、天の神に対するキラーがつくことになります。

他の西暦勇者の力が他者に受け継がれているような描写がない中、明確に時代を超えて受け継がれ、神世紀301年に結城友奈が天の神を撃退したことにつながったことを考えれば、神樹にとっても『天ノ逆手』という力は天の神を倒すために必要となる特別な力という位置づけだったのかもしれません。


7.まとめ

ここまで西暦勇者5人の武器とそこに宿る力について、日本神話との関係性を見ながら考えていきました。

ここで、5人の武器に宿る力について改めて考えてみると、そのすべてが神樹の中心である土地神の王・オオクニヌシと関係の深い神から力を得ていることがわかります。

『生大刀』はオオクニヌシの武器ですし、『天ノ逆手』のコトシロヌシや『大葉刈』のアヂスキタカヒコネはオオクニヌシの息子、『神屋楯比売』はオオクニヌシの妻にあたります。また、『金弓箭』のキサガイヒメはオオクニヌシがまだ年若いころ、兄に殺されてしまうという事件があった際、オオクニヌシを生き返らせた神としても語られています。

神樹は土地神の集合体と言われているので、こうした神々も神樹の一部として四国を守る壁や勇者に力を与える存在となっているのだと思います。

神世紀の勇者と異なり、明確に土地神の力が宿っているとされる武器でバーテックスに立ち向かう「乃木若葉は勇者である」はまさに人が土地神の力を借りて天の神に立ち向かうという構図がよく表れていると思います。

8.最後に

いかがだったでしょうか。

今回は「乃木若葉は勇者である」に登場した勇者の武器と日本神話との関係性について考えていきました。

西暦の時代を描いた「乃木若葉は勇者である」には勇者であるシリーズの中でも特に神話と関係の深い描写が多く、日本神話を知ることで一層物語への理解が深まり楽しんでいけるようになっていると思います。

みなさんが気付いた勇者であるシリーズと日本神話との関係性や、今回の勇者の武器に関する考察で私とは異なる解釈があるという方はコメントなどでぜひぜひ教えていただきたいです。

それでは今回は以上となります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。


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