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『これは恋とはちょっと違う』#テレ東ドラマシナリオ

【テーマ作品】

サブスク彼氏

【あらすじ】

 松村杏奈(27)が中学生の頃から推しているアイドル・平山亮太(32)の突然の引退。杏奈はショックを受けて会社を数日休んでしまう。心配した同僚の林田葵(27)が心の傷を癒すために『サブスク彼氏』を勧めたことから物語は始まる。


 杏奈が平山に少し似ているという理由で選んだサブスク彼氏のユーキ。実はユーキの正体は変装した平山だった。平山とは気がつかず、サブスク彼氏にハマっていく杏奈。
 ある日、平山は杏奈が自分のファンであったことを知る。杏奈がずっと応援してくれていた知り、平山は杏奈に恋心を抱く。


 平山は杏奈に告白をするが、杏奈の返事はNO。ファンとしてアイドルを諦めてしまった平山を叱責する杏奈。お互いに一生アイドル、一生ファンであることを約束する。

【登場人物】

松村杏奈(27)彼氏居ない歴=年齢のOL
平山亮太・ユーキ(32)元アイドル・サブスク彼氏
林田葵(27)杏奈の同僚

【本編】

◯杏奈の部屋・室内
一人暮らしの松村杏奈(27)の部屋。部屋は平山亮太(32)のポスターやうちわなどで溢れている。
杏奈が泣きながら平山のグッズをゴミ袋にまとめている、
杏奈N「推しは推せるうちに推しておけ。とはよく言ったものだ」
杏奈、袋から落ちた平松の写真を拾い上げ、ためらいつつも袋に戻す。
杏奈N「アイドル戦国時代と呼ばれて早十数年。この国では沢山のアイドルが生まれ、そして消えていく」

○イメージ・スポットライト
アイドルらしい衣装を身に纏った平山亮太(32)がスポットライトに照ら
されている。
平山「僕、平山亮太はこのステージをもって、アイドルを引退します。みんな、今日までありがと〜〜〜!!!」
平山、マイクを置いて去っていく。

◯杏奈の部屋・室内(夜)
すっかり綺麗になった部屋。平山の
グッズがまとめられたゴミ袋だけが部屋の片隅に置かれている。
杏奈、スマホに保存した平山の写真をスクロールしながら、
杏奈「(ため息)亮太くんはもう居ないんだ…こんなに悲しくてもお腹は空くんだなあ」
杏奈の部屋のチャイムがなる。
モニターに映る林田葵(27)の姿。
杏奈「え!?葵!?」
葵「差し入れ持って来たー開けてー」

× × ×

葵が持って来たピザを食べる二人。
葵「あんたが会社3日も休むからこっちの仕事が増えて大変なんですけど」
杏奈「ごめんってば」
葵「推しだかなんだか知らないけど、別に死んだ訳じゃないんだからさ」
杏奈「何言ってんの!?死んだも同然だよ!だってアイドルが一般人になったらもう応援できないじゃん。つまりそこで私たちの関係は終わっちゃうの!」
葵「私にはよくわかんないけどさ。あ!これを機に彼氏でも作ったら?」
杏奈「中学生の頃から亮太くん一筋だもん。他の男なんかまじで人間じゃない」
葵「まったくあんたって子は」
杏奈「大体、葵だって彼氏いないでしょ」
葵「いるよ、ほら」
葵、杏奈に彼との2ショット写真を見せる。
杏奈「うわ、ガチじゃん」
葵「どう?彼氏に見える?」
杏奈「え?違うの?」
葵「これね、サブスク彼氏なんだー」
杏奈「サブスク彼氏?」
葵「知らない?一ヶ月間定額で彼氏借り放題なの」
杏奈「彼氏借り放題?」
葵「そう!月々3万円の土日祝日デートプランから15万円の毎日送り迎えプランまで色々あるんだよ」
杏奈「15万!?」
葵「私は一番安い3万円のプランだけどね。どう?やってみない?」
杏奈「でも、私には亮太くんが」
葵「何言ってんの。私たちもうアラサーだしさ?身をかためる前に、いろんな彼氏と遊んどいた方が楽しいって。癒し系、可愛い系、ワイルド系、体育会系、サブカル系なんでも選り取り見取りだよ?その亮太くん?みたいなのもいると思うよ」
杏奈「亮太くんは一人しかいないもん」
葵「もう亮太くんはいないの!騙されたと思ってさ、一緒にやろうよ」
杏奈「でも」
葵「私の紹介で2週間無料でお試し出来るから!」
杏奈「タダ!?」
葵「どうやる気になった?」
杏奈「うーーん」
葵、サブスク彼氏のアプリを開いて
葵「ほら見て!イケメンが勢ぞろいなの!!」

◯杏奈の部屋・外観

◯同・室内
杏奈がやけにめかし込んでいる。
杏奈「はあああ。頼んでしまった。サブスク彼氏」
スマホの画面に映っている、『ユーキ』と書かれた男の写真。眼鏡をかけ、カツラをかぶってイメチェンをしているが男はどう見ても平山。
杏奈「…だって亮太くんに似てるんだもん」
杏奈の部屋のインターフォンがなる。
杏奈「はい!!!」
モニターに映る平山。
平山「杏奈?突然ごめんね、会いたくて来ちゃった。開けてくれる?」
杏奈「お……。い、今鍵開けます!」
杏奈、慌てて口紅を塗りなおす。
杏奈「すごい…想像以上に完璧な設定」

× × ×

杏奈に続いて平山が部屋に入ってくる。
杏奈「どうぞ」
平山「寂しくさせてごめんね」
平山が杏奈を後ろから抱きしめる。
杏奈「わ、リアル」
平山「かわいいね、今日の服。俺のためにオシャレしてくれたんでしょ?」
杏奈「あ、ありがとうございます」
平山「何緊張してんの?いつもの杏奈らしくないぞ」
杏奈「は、はい」
平山「タメ口でいいってば。ほら、こっち向いて俺の名前呼んでごらん」
杏奈「えっと、ユーキさん」
平山「なんでさん付けなの?いつも呼び捨てじゃん」
杏奈「…ユーキ」
平山「え?聞こえない。ちゃんと目見て言ってよ」
ここで二人、初めてちゃんとお互いの顔をみる。
杏奈「…亮太くん」
平山「え?」
杏奈「間違えた。ユーキ」
平山「杏奈」
平山、杏奈の頬に手を添えて顔を近付けキスをする体勢。
杏奈、反射的に目を瞑るがキスされる事なく平山が耳元で囁く。
平山「オプション料金三万円だけど、どうする?キスする?」
杏奈「し、しません!!!」
平山「ふふふ、かーわい」
平山のポケットに入っているアラームがなる。
平山「本日はご利用ありがとうございました。お試し期間の2週間は毎日30分無料でお試しいただけますので、またご利用ください」
杏奈「はあ」
平山「ありがとうございました」
平山、そくささと部屋を出て行く。
一人部屋に取り残される杏奈、その場に崩れ落ちて。
杏奈「な、何なのこれ…し、刺激が強すぎる
…思い出しただけで心臓が…ハアハア。アイドル界では握手が最接近なのに、タダで抱きしめられて三万円払ったらキスまで出来るってどうなってんの…サブスク彼氏の沼深すぎ…」
葵からの着信。
葵の声「どうだったー?サブスク彼氏やばくない?」
杏奈「ヤバいよ!ヤバすぎるよ!何これ!!!」
葵の声「騙されて良かったでしょ?」
杏奈「思ったよりも、まあ、良かった」
葵「ハマりすぎないように気を付けてね。オプション付け過ぎて破産する人結構いるらしいから」
杏奈「大丈夫。お試し期間終わったらやめるつもりだし」
葵の声「とか何とか言って私よりハマっちゃったりして」
杏奈「それはない、そこまでじゃないって」


◯杏奈の部屋・外観

◯同・室内
杏奈、平山に膝枕をされている。
カップルのようにイチャつく二人。
平山のアラームがなる。
杏奈、立ち上がろうとする平山を止めて、
杏奈「後10分ここにいて?」
平山「延長料金5000円です」
杏奈「いいよー」
平山がアラームを10分にセットして、カップルごっこを再開する二人。
平山「甘えん坊の杏奈も好きだよ」
杏奈「えへへ」
インターフォンがなる。
杏奈「もう!誰よ!デート中なのに。ごめん、ちょっと待ってて」
平山「うん」
杏奈が部屋から出て行く。
クローゼットの中でものが落ちる大きな音がする。
平山「ん?」
平山がクローゼットを開けると杏奈が捨てられなかったアイドル時代の平山のグッズが土砂崩れを起こしている。
平山「…俺じゃん」
杏奈が部屋に戻ってくる。
杏奈「宅配便だった〜ユーキがね、この前可愛いって言ってたワンピース(クローゼットを開けている平山の姿が目に入り)あ!!ちょっと何してんの!」
平山「この人のファンだったの?」
杏奈「うん。…でもね、もうアイドル辞めちゃったんだ」
平山「いつから好きだったの?」
杏奈「中学生の時に一目惚れしてね、本当に大好きでね。全然お客さんが居なかった頃からイベントとか握手会とかめちゃくちゃ通ってたんだー。私の青春だね」
平山「ありがとう」
杏奈「何でユーキがお礼言うの?変なの。見て!この写真の亮太くん超かっこ良くない?」
平山「やっぱりさ…アイドルやめて欲しくなかった?」
杏奈「うん。悲しいよ。でも今まで沢山幸せな気持ちにしてもらったし、亮太くんがアイドルを辞めた方が幸せになれるなら、私たちファンはその選択を応援するしかないよ。亮太くんには幸せになって欲しいから」
感極まった平山が杏奈を抱きしめキスをしようとするが、寸前で杏奈に止められ、
杏奈「今日は延長したからしません」
平山のアラームがなる。
杏奈「今日もありがと、またね」
平山「う、うん。また」
何か言いたそうな顔をしたまま、部屋から出て行く。
杏奈、平山に思いを馳せながらグッズを片付ける。

◯同・外観
平山の後ろ姿。

◯同・室内(夜)
仕事終わりの杏奈が帰宅する
杏奈「疲れた疲れた〜」
コンビニの弁当を食べ始めようとすると、インターフォンがなる。
杏奈「はーい」
モニターに映る平山の姿。
平山「杏奈」
杏奈「え?え?今日は頼んでないよ」
平山「わかってる。今日はユーキとしてじゃなくて、亮太として来た」

× × ×

向かい合って座る平山と杏奈。
杏奈「ねえ、ユーキ。どういうこと?」
平山「…俺と付き合ってください!」
杏奈「告白のオプション料金はいくら?」
平山「ううん、これはタダ。タダっていうか、ユーキとしてじゃなくて、今日は亮太として話を聞いて欲しい」
眼鏡と帽子を取る平山。
杏奈「嘘…」
平山「平山亮太です」
杏奈「嘘嘘嘘!え!本当に亮太くん!?どうして!え!?」
平山「本当に亮太くんだよ」
杏奈「…何でこんなところにいるの?何でこんな仕事してるの?」
平山「今までアイドルで恋愛禁止だったからその反動というか、結構給料も良いし」
杏奈「嘘でしょ…」
平山「杏奈、今までずっと応援してくれてありがとう。今度は彼氏として杏奈のことを幸せにしたい。俺と付き合ってくださ
い!」
杏奈「…ごめん、無理」
平山「え!何で!俺のこと好きだったん
じゃないの!?」
杏奈「好きだよ、今も」
平山「じゃあ」
杏奈「勘違いしないで。私が好きなのはアイドルの平山亮太。サブスク彼氏をやってる亮太くんなんか見たくなかった」
平山「はあ?意味わかんねえよ」
杏奈「一般人に戻って、人肌恋しくなって彼女が欲しいなら他あたってくれる?」
平山「杏奈、そんなこと言わないでさ」
杏奈「なんかガッカリ。亮太くんってこんなに普通の人だったんだね。アイドルだった時はキラキラしてめちゃくちゃ魅力的だったのに。こんなことしてて楽しい?」
平山「勝手に期待して勝手にガッカリすんなよ。俺だって辞めたくて辞めた訳じゃない!」
杏奈「自分で辞めるって決めたんでしょ!?その決断をファンがどれだけ悲しんで、それでも受け入れて、頑張って亮太くんの門出をお祝いしたファンの気持ちはどうなるの!?」
平山「続けたかったよ、出来るなら!でも30過ぎたら急に人気がなくなって、どんどん若い子たちが出て来て、賞味期限切れのレッテル貼られて、もう潮時じゃん。どんなに俺がアイドル続けたくたって、需要がなきゃ成り立たないんだから」
杏奈「どうして?私の周りにはまだたくさん亮太くんのこと応援してるファンが沢山いるよ。需要あるじゃん」
平山「昔からのコアなファンでしょ」
杏奈「そうだよ、ダメなの?」
平山「ダメに決まってんじゃん。人気がなくちゃギャラも安くて生活も安定しない。確かにファンのみんなは応援してくれるよ?でも所詮ファンはファンで、いつファンを辞められりゃうかもわからない。実際30過ぎてから沢山のファンが離れていった。怖いんだよ、…一回良い景気を見ちゃったから、下り坂は」
杏奈「何それ!つまんない!!私の好きな亮太くんはもっと野心家でガッツがあってやりたいことを絶対に諦めない人だよ」
平山「だからもう限界なんだって」
杏奈「本当はまだアイドルでいたいんでしょ?」
平山「…うん」
杏奈「亮太くんは沢山の人に元気を届けるすごい仕事をしてたんだよ。誰にでも出来る仕事じゃない。辞めたって私みたいに亮太くんのことを思ってる人は沢山いる。ねえ、亮太くんがまだアイドルをしていたいなら、その方が幸せだと思うなら、まだ続けててよ」
平山「でも」
杏奈「もっとファンを信じて!私は一生亮太くんのファンでいる!」
平山「…これからも応援してくれる?」
杏奈「もちろん」
平山「絶対?」
杏奈「絶対!」

◯イメージ・スポットライト
大人っぽい衣装に身を包んだ平山の姿。
平山「みんないつもありがと〜!自分勝手に急に引退をして不安にさせてしまってごめんなさい。平山亮太、死ぬまでアイドルでいること宣言します!これからもっとみんなに元気を届けられるように頑張るので、応援よろしくお願いします!」
平山、アイドルらしくウインクをする。

◯杏奈の部屋・室内
平山のグッズで溢れた、元通りの部屋。
杏奈と葵が出前の寿司を食べている。
杏奈、葵が何かを話しているが相手をせずにスマホで平山の映像をキャーキャー言いながら見ている。
杏奈「やっぱりかっこいいーーー!」
葵「ねえ、私の話聞いてる?」
杏奈「ごめん、亮太くんがかっこよすぎて何にも聞こえなかった」
葵「あんたすっかり元どおりの生活に戻ったね」
杏奈「そりゃそうだよ、亮太くんと一生ファンでいるって約束したもん」
葵「もうサブスク彼氏やめちゃうの?」
杏奈「うん。亮太くん復活したし。どうせ身
にならない恋ならアイドルのオタクして応援してる方が私は幸せ」
葵「あっそ。ねえ、アイス買いに行かない?」
杏奈「さんせ〜い」
サブスク彼氏のアプリからメッセージを受信する。『本日でお試し期間は終了です。継続して契約しますか?はい・いいえ』
杏奈、迷いなく『いいえ』をタップしてアプリを消去する。
握手会で撮った平山との2ショット写真が待ち受けになっている。

(了)

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