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インナーチャイルドは言葉を持っていない

ずっと困っていた。

幼いころに、いろんな形でいろんな人から虐められていた私を救ってくれなかった母を許せないことを。
パニック障害になった時に話も聞かず「入院」させようとした父のことを許せない自分を。

辛い体験も確かにあるのに、すごく愛された良い思い出もあるから苦しかった。

食の細い私をピクニックに連れて行ってくれた。
私が喜ぶだろうとブランコを作ってくれた、出張の時は可愛いお土産を買ってきてくれた父。
休みになると必ずどこかに出掛けて美味しいものを食べさせてくれたり、遊ばせてくれたりした。
衣食住に困ることはなく、望めばだいたいのものは買うことができた。
大学に行かせてくれた。
眠っている私の頬にキスをした母を知っている。

これらのことが拮抗して、「親を責めるなんてとんでもない」「愛されていたんだから過去のことは許して流そう」そう思っていた。

なのに、許せない過去は何度も戻ってきて私を苦しめていた。

そして、事件は今日やってきた。

私は「無視」に弱い。
これがトラウマを刺激することがとても多い。
LINEなんかは最たるもので、既読スルー、未読スルーは気が狂うほどに「私は何かやってしまっただろうか」「嫌われただろうか」と思って追いラインしてしまうのだ。SNSが苦手なのも、やっぱり自分の意見や存在をスルーされるのが嫌だからかもしれない。

そんな中、海外にいる息子が私からのLINEに返事をしないことにモヤモヤとし、他の友人などに対するものと同じ恐怖を感じた。
これは普通じゃない。
息子が私を嫌いになったり故意に無視したりすることはないと知っている。
心から信頼している息子に対し、体が「恐怖」を体感していた。

「これはおかしい」

その日、偶然「血と轍」という漫画に出会っていた。
母親との歪んだ関係を深掘りしたサイコスリラーのような……戦慄が走るような内容だ。

直接私の体験とは関係のない内容であったけれど、親との関係が歪んでいたと言うところが私のトラウマを刺激した。

「まずい、号泣してしまう」

そう直感し、私はなんとか自宅まで小走りに戻り、なんとか部屋に滑り込んだ。
途端、理由のない涙が頬を流れおちた。そして、意味のわからない悲しみが溢れてきて止まらなくなった。

途中、「無視しないで」「なんで助けてくれなかったの」と口に出る。
さらに涙が落ち着いてきた頃に冷静になり、大人の私が理解したのは、以下の通りだった。

「親には事情があった。親にも悩みがあった。親も子供だった。それは大人の私は知っている」

「でも子供の私には関係のない話だ」

「子供時代の私は傷ついた。大人になってからもアダルトチルドレンの私は継続して傷つき続けていた」

「だからあの時、なんで助けてくれなかった? なんで向き合ってくれなかった? と、怒るのは当然だ。怒っていいのだ」

これらを口にしてみたら、胸と背中がスッと軽くなって冷静になった。

これは「大人の私が理解していることを子供の私に押し付けていた」ということかなと思っている。
だから理由のわからない悲しみと怒りが止まらなくなったのだ。
だって言語をちゃんと操れない子供の感情だから。

インナーチャイルドの傷はとても強かった。
あんなにきつい思いを押さえつけていたのだから、そりゃあ不安障害にもなるだろうし、人を信用できなくもなるだろう。

無視が怖いのはすぐには治らないし、普通に無視っていうのは嫌なものだ。
(ちなみに私が受けた幼少期のイジメは、暴力ではなく無視だった。そして集団ではなく個人だった。信頼したいと感じている親友に近い状態の友人だった。それを知っていた母は助けても庇ってもくれず、オロオロしていたのを覚えている。)

子供にとって近しい大人(親である必要は絶対ではないと感じる)というのは絶対的で、安全であるべき存在なんだなと痛感した。
自分がそんな大人であれただろうかと、息子の心を今も気にかけている。

機能不全家族の連鎖を何としても止めたいと思い、私は、息子に自分と同じ傷を負わないよう気にかけてきたが、完全には防げていないかもしれない。
それは私自身がアダルトチルドレンで、相当に病んでいた自覚があったからだ。

何年かして息子から過去について何か文句を言われたら、それは正面から向き合って話そうと思う。

私のインナーチャイルドの傷も、すぐに癒すことは難しいかもしれない。
それでも少しずつ自分の感情を無視せず、根気強く向き合おうと思う。

とはいえ、息子には「LINEにはスタンプ一個でいいから何かしら返事をしろ」としつこく言いたい。



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