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レスとラブ

「とうとう利用しちゃったわ〜」

夫とのセックスレスに不満を持っていた友人が、性的満足を満たすサービスを利用した。
それでどうだったかというと、ちょっと困っているという。

「お金で割り切ってるのはいいけど、何度も利用してると情が湧いちゃうっていうか……」
「恋愛感情わいちゃった?」
「そう思いたくないけど、サービスの時間以外を知りたくなるんだ」

とても苦しそうに友人はそう話した。

性欲の問題はとても複雑で、単純ではない。
でも、世の中はこの問題をいとも簡単に断罪する。
割り切れない感情も、表現しきれない感情も、全て法的な問題として簡単に処理しようとする。

女性として愛されたい。
体を愛でてほしい。
その欲求がどうしても伴侶では満たされない場合、そのことを外に求めるのは本当に世の中が言うほどの悪なのだろうか。
人が法律で縛られたら、心も魂も、一生縛られていなくてはいけないんだろうか。そんな疑問がたくさんの人の中に渦巻いているからこそ、浮気やら不倫やらは問題視されていても消えることはないんだろう。

「旦那さんはなんて?」
「やっぱりあんまりいい顔はしてない」

驚くことに、彼女は夫に了解を得てサービスを利用している。
どうしてもその気になれないと言うパートナーに、これ以上求めることは不可能という結論が出たからだ。
それでも性格は合っているし、親友と言えるほどに心を許し合っている二人なので、離婚は考えていないという。

「性欲が薄い人の方が安全に生きられるよねえ」

友人は自分が性欲を持て余していることに辟易しているようだった。

「まあ、犯罪的なものには問われづらいよね」
「でしょ? 子供を産む義務がなくなったら、性欲は自動で消えるってふうになったほうが今の世の中は楽に生きられるのに」
「そこまで思い詰めてるんだ」
「あんたみたいに恋愛は興味なしって顔で生きていたい」
(それはそれで悩みはあるんだけどね。この子に言っても共感されそうもないから、言わないだけ)
「結婚って、なんか……悲しいね」

結婚もしていない私が言うのは説得力がなかったかもしれない。
でも、好きな人と暮らしていて、子どももいて、何も不自由がないのに、性の部分だけ満たされないっていうのは、見ていてとても苦しそうだ。

食欲と睡眠欲は自分で満たすことが可能なのに、どうして性欲だけは一人じゃ満たされないんだろうか。
そこを満たすことだけは、どうしてこんなにも縛りつけられているんだろうか。

「私、これからは好きなアイドルとか探して“推し活“をしようと思う」

友人はそう口にして、やっぱりまだ寂しそうだった。

「そんなんで満足できるの?」
「できる! 満たしてみせる!」
(誰への宣言なのよ)
「私が何をやっていても旦那は認めてくれるし。これって愛情だよね?」
(面倒くさいことから逃げてるだけじゃないの)

ついそう言いかけてやめた。
そんな真実、気づきたくないからこそ、彼女たちは今の問題にクローズアップして関係をつなげているのだから。

安全で安価なトキメキと性欲と愛情。

何か大事なものを見失っているように思えてならない。
友人が見失っているのは、慣れてしまって追及しなくなった相手への興味そのものなんじゃないだろうか。
もちろんそれは自分への興味も失っている証拠でもあって。

(外から見たら十分に幸せそうなのに)

それでも、こんなにも苦しんでいても、パートナーと別れない道を選ぼうとする彼女の中に、私は「彼女なりの愛」を見たのだった。

END





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