演劇ドラフトグランプリ2023
2023年12月5日(火)日本武道館にて、『演劇ドラフトグランプリ2023』が開催されました。現地で観劇した感想をネタバレありでレポートします。
演劇や2.5界隈に詳しいわけではないただのオタクの感想備忘録です。
演劇ドラフトグランプリとは
演劇ドラフトグランプリって何するの?
演劇ドラフトグランプリは"役者が役者をドラフト指名"して舞台を作るという、大胆かつ夢のような企画です。
俳優の荒牧慶彦さんが中心となり、演劇界の可能性を広げるべく企画された演劇の祭典です。漫画やアニメを原作とした舞台で活躍する2.5次元俳優、その中で人気を博する荒牧慶彦さんがプロデュースを手がけるイベントなので、出演する面々も2.5をメインフィールドとして戦っている顔ぶれです。
20分以内、オリジナル脚本、衣裳替えなし、大道具の使用禁止、審査員は観客と漫画編集長……制約のもとに繰り広げられる演劇天空闘技場編、もとい夢の演劇バトルです。
役者にとっては夢の企画
役者は常に選ばれることの連続です。
オーディションを受けて役として選んでもらう。お眼鏡にかなえば制作からオファーがもらえる。役を演じるためにチャンスを待って、縁を掴んで繋いでいく。一歩しくじれば炎上して一寸先は奈落の底。
役者とは華やかな印象とは裏腹に、泥臭さや悲哀を背負った人たちなのかも。演劇に触れる機会が増えるたびにそう考えるようになりました。
役者が演劇を作る相手を"選ぶ立場"になってみたい、という願いは理解できる部分がありますし、普段がんばってきたからわがままを聞いてもらえる、ご褒美企画のような位置付けだと感じています。
豪華になり過ぎてしまって、仕掛ける方は逆に大変そうですが。
"心を動かされたチーム"に投票
驚くべき点は脇を固める面々がやたらと豪華なこと。ジャンプ、マガジン、サンデー、チャンピオン、ステージナタリー……ポップカルチャー・エンタメ界を骨組みから支える編集長陣が一堂に介して審査員を務める大胆な演出には、オタクとしてピュアに喜んじゃいました。
加えて本年度はレジェンド声優の山寺宏一さんを司会として迎えるという、とにかく豪華なラインナップ。
この催しにメインで出演されているのは、漫画やアニメの原作を舞台化した『2.5次元作品』で活躍している面々です。演出家・役者さんの立場からすると、編集長が見守る中で作品を披露するという大変なプレッシャーがかかる機会なのだと思います。今後の仕事の命運を掛けた本気の入札コンペのようですね。
"演劇ガチバトル"というテーマ性が素晴らしいのはもちろんですが、ただそれだけの催しでは星空のように散らばった数々のエンタメの輝きに埋もれてしまうのも事実です。
強めの要素でインパクトを与える、箔をつける、そんな商業的な視点も優れていると感じます。
推しがいるからではなく、"心を動かされたチーム"に投票してくださいというガイダンスが事前にありました。
こういった場で投げかけられる忖度なしの評価とは、作り手にとってそれは誉高い賞賛でしょう。純粋な"演劇ぢから”の評価ということです。
各劇団が真剣にやって、観客も真剣に観劇して、忖度なき一票を投じること。推しだからなんでもよしとするのではなく、その日の中でもっとも武道館に愛されたチームを公平性で讃えることはとても尊いように思えます。負けたチームがつまらない、ではないとも思います。
劇団『びゅー』テーマ:天気
アマテラスとスサノオが兄弟げんか
海が大荒れで大変
天岩戸に隠れたお姉ちゃん引っぱり出すために
スサノオは武道館に集まった人間たちに
手拍子と地ならしを呼びかける
五感を使って楽しませてくれる演出
日本神話をモチーフとしたお話で、iPadやモニターを活かした演出が斬新でした。神話×最新テクノロジーという、この世の摂理をついたような挑戦的な演出です。
ITは日本古来の神々と正反対にあるようで、宇宙規模の量子力学的には近い位置にあるのかもしれません。都市伝説好きとしては、神様宇宙人説などの雑誌ムー系のメタファーをほんのり嗅ぎ取りました。違ったらすみません。
出番が一番手、踊れてリズム感に優れた高野洸さんが座長ということで、客席を盛り上げるため手拍子や足のリズムで客席に火をつけようという原始的な演出実演タイムにはインパクトがありました。
ただ個人的な問題ですが、フラッシュモブウェディングが世界でもっとも怖いものの私としては、この手の客席巻き込みの時間はこころが潰れるのでちょっと辛かったです。曖昧な笑いを噛み締めながら手をふよふよさせました。周りの子は元気に手拍子をしていました。びゅーのおかげで会場がすっかりあたたまりました。
松崎史也さん夢女子かもしれない
私は漫画やゲームでもシナリオ重視派で、演劇における演出家さんという骨子のポジションが大好きすぎます。それ故に演劇ドラフトはどこを誰が担当するかなどを目に入ってくる以上は調べずに現地観劇しました。なのでこの演目が松崎史也さんのご担当だということを知らずに観劇しました。
この演目を松崎さんが手掛けたとわかったとき、意外なテイストで来たことにびっくりしました。五感をフル活用した演出をされるんだなと思いました。
会話は人間的で等身大。衣装はオシャレ系にスカしすぎてないけど華美でもあり登場人物のポジションがわかりやすい。音楽は得意な方に外注する。これらすべて五感をフル活用するための効果にこだわっている印象です。
役者さんの話し方や動きもボディランゲージ的な動作が多いなと感じました。まるで劇団演劇の基礎を眺めているような心地になりました。
松崎さん脚本演出の別作品『I'm donut?』を観劇した際に洗練された世界観が完成されていた印象があり、オタク向けの商業誌の漫画単行本を読んだときのような読後感がありました。
大衆向けすぎず、オタクっぽすぎずというバランス感覚でまとめることに優れている演出家さんですね。だからこそ漫画・ゲーム原作の2.5舞台は松崎さんの色に合っているんだろうなと感じました。
場面が転換しないまま進む"神と人間らしい会話劇"は神話というテーマから考えると意外な味付けでしたが、役者さんのよさや素材をたくさん見せてあげたい、という愛や思いが伝わってきました。下北沢系の演劇的な、会話劇が好きな方は好きそうだなとも感じました!
演目や順番の関係で前座のようになってしまい少しもったいなかったです。
また展開の中に演劇的なコロコロコミック的な人間味を加えて展開をテンションで飛ばしている印象でた。『学級王ヤマザキ』とか、『世紀末リーダー伝たけし』っぽい。
松崎さんは勝手にスマートな大人の印象があったので、憧れの先生がコロコロコミックのギャグを突然披露したときのようで、つい「フミヤ……!」と狼狽えてしまいました。松崎さんに夢見てる。松崎さん夢女子かもしんない。
松崎さんも役者さんももっといろんな角度の挑戦をしていただき、たくさん輝く演目を見せて欲しいなと感じました!松崎さんの演出をぜひまた見たいです!
北川尚弥さんに芸人役をやってほしい
役者さんは特に北川尚弥さんのお芝居がよかったです。北川さんは2.5のお仕事で色々なお仕事が途切れない役者さんという印象がありますが、イケメンなのに俺が俺がしていない、いい意味のシンプルさがどんな役にも染まることができて魅力なのかな。
でも奥底にはユーモアセンスが滲んでいて、間の取り方や抑揚に違和感がないのでストレスがなく、いてくれたら嬉しい役者さんのおひとりです。
ご本人は意外とお笑いとか好きなんじゃないかな?と思ったりします。ガツガツしていないのになんかおもしろいっていう不思議な魅力がありますよね。
いつかお笑い芸人役なんていかがでしょうか?
劇団『国士無双』 テーマ:宝箱
戦場のメリークリスマス
サンタやトナカイはプレゼントを配るため東奔西走
紛争地で孤独な目をした少年に出会う
プレゼントを生み出す不思議な宝箱を通して
よい子とは何か?という命題を突きつけられる
"善”を感じる中屋敷脚本
脚本がいろいろと考えさせられる内容で面白かったです。
中屋敷法仁さんは個人的に制作に入ってくれてるとテンションがあがる演出家さんです。光のわかりやすさのある本を書く人だと改めて感じることができ、テーマが戦争でギスギスしたものでも、善性とは何か?ってきな臭いものでも、やっぱり光の本でした。
演劇を信じる心、観客を信じる心。それらすべての性質の根っこにある善性や光の明るさみたいなものが、中屋敷さん作り出す演劇の魅力だとしみじみ思いました。
演出にオリジナリティがあるのにくどさはなく、宝箱以外のリアルな小道具が出てこないため、観客の想像力を掻き立ててくれる。観る側のイマジネーションを信頼している演出で、演劇を愛している人が作った演目だと感じました。
実力派の役者を揃えた国士無双
役者さんの味の活かし方が素晴らしく、芝居に底上げしてもらう演劇ってあるのだろうなと痛感しました。役者さん全員よかったです。
当て書きなのかキャラなのかがご本人と合ってたし、役者さんのポテンシャルが光っていてお芝居のレベルが高いと感じました。
心優しいサンタクロースに扮した座長の染谷俊之さんはエンタメ性が高くて器用な方という印象で、座組にいてくれると飽きないので助かる存在です。
2.5の世界で二枚目役者のポジションで息長く活躍していらっしゃる方の説得力を感じます。ぱっと目を引く華があってお芝居に凄みを出すことができる方なので、染谷サンタを中心に展開していくお芝居がダレずに締まって良かったと感じました。
優しいのに、その純粋さが怖い。このサンタクロースも染谷さん自身も『HUNTER×HUNTER』のゴンみたいだなって思います。純粋さは最強の攻撃力になる危うさと表裏一体、めちゃくちゃ純粋だから闇に振る時もジャン、ケン、グー!と一発なのだな。
染谷さんは二枚目なのに主演よりも、引っ掻き回す味付けとなる助演が合うと感じます。主演や演出は邪魔しない引き算ができるけど、会場の空気に緊張を張れる覇気みたいなものが魅力的。総じて汎用性の高い役者さんと言えるのかもしれません。
またドラフトPR動画で、"イケメンなのに意外とおもしろいける人"という印象のみだった長妻怜央さんですが、芝居が良すぎて本当に腰抜かしました。
単なる高身長イケメンアイドルグループの方ではないんですね。姿形以上にスターの存在感がある人だ。
言葉は冷たいけれど仲間を想う不器用な優しさがある、悪役を買って出るサンタクロース。あんなに難しい役をしっかりやりこなすなんて、ポテンシャルや芝居の実力がすごいと思います。まだ25歳らしいので、もっともっと経験を積んでいい役者さんになって欲しいです。
トナカイ2匹が最高すぎて、ゆるキャラ好きとしてはたまらないツボを抑えられてしまいました。鳥越裕貴さんは芸人並みの間の取り方や声の張り方・立ち振る舞いができる2.5次元界の三枚目役者の頂点だと思っています。
椎名鯛造さんはかっこいいのにかわいいふりをしているという、能ある鷹は爪を隠すタイプの役者さんだと読んでいます。実は鋭さのある性質的なものを、トナカイの姿でも見抜かれていましたね。ただのハンバーグじゃないぞと。油断するとこっちがミンチだぞと。
おふたりともすさまじく空気が読めるのでギャグパートに安心感があり、良質すぎるコメディーリリーフ的なエッセンスでした。
糸川耀士郎さんはキラキラしていないあの目、ギラって鋭くて虹彩があんまりない目がとてもいい役者さんですね。戦地の少年役が合っていました。ご本人から嫌な感じはしないのに、ちょっと悪い役が合うのはなぜだろうか。
糸川さんは過去に舞台『黒子のバスケ』を観劇した際に、赤司征十郎が合いすぎていてびっくりした記憶があります。そして黒バスの舞台は中屋敷さんが演出されていたんですね。今回の演目で糸川さんをあのポジションに持ってきた納得感がすごいですし、役者さんの素材の良さをしっかり抽出してくれるのが頼もしいです。
中屋敷さんの"エモ"は浅くない
中屋敷さんの本は光の善性やまっすぐさで進んでいく印象ですが、恋愛とも友情とも名付け難い繊細な関係値を描くことに長けている方という印象です。だからこそBLっぽさのある作品(ダブル、ドラマティカルマーダー等)の世界を舞台でも描けるのかな?と感じます。
染谷サンタと長妻サンタの、お互いが求める正義とは?善性とは?のコントラストや関係値が奥深いエモでした。中屋敷さんのエモは浅くないから、女性向け作風でも刺さるんだと思います。
また脚本に関する感想ですが、戦場の彼・彼女たちが求めてるのって『お腹が満たせてお金がある理想の自分』ではなくて『無条件に安全で愛されて無双できる自分や環境』のような気がして、皮肉なことにそんなものは武力やお金では手に入らないんだろうなと思いました。
それらは人生をかけて自分の手足で追い求めて培うもので、武器や盗みでなんて得られない。たとえ戦場に生まれたとしても、その事実は変わらないという人生の無情ですね。
幸せになりたくて近道だと思って罪を犯してしまうのだろうけど、1番遠回りしている。変な角度から問題にアプローチするせいで根本的な解決にいたらない。
現代も、人気者になってお金持ちになれば、整形すれば……などの形ならざる火力の強い武器が転がっていて、容易に手が伸ばせてしまう世の中です。武器を活かしてのし上がる人がいれば、武器に溺れて身を滅ぼす人もいる。明日は私たちがあの少年のように、銃を望んで手にしているのかもしれない。
その武器をどう使うのか?目的と手段が入れ替わって自分が飲み込まれることになるのか?
染谷サンタはそういう複雑な在り方を教えてくれようとしていたポジションなのではないかな?と思いました。ぐるぐると考えさせられる奥深い本でした。
劇団『品行方正』 テーマ:待ち合わせ
待ち合わせ場所がかぶってしまった5人
ちぐはぐな人たちだからすっかりカオスな空間に
思わぬところで点が線として繋がっていく
創作フレンチみたいな演劇だった
座長の七海ひろきさんをはじめとした個性豊かな役者さんたちの活かし方や要素の盛り込み方が楽しかったです。役者さんや演劇を愛している人、演劇的な体力がある人が作ったのだろうなという想いが伝わってきました。
三浦香さんの脚本演出は発想力とテーマを活かしたキャッチーさがあって、華やかでキラキラしていて、特に役者さんのファンは満足度の高い演目だと感じました。
玄人には受ける新進気鋭っぽさと女性ならではの感性があって制作からは重宝されそうですし、ご本人も演劇街道を生きてきた人で、あのびっくり箱アソート感が好きな人はたまらなさそうです。
三浦香さんは『Oh My Dinner』という作品を観劇した際にすごく楽しくて印象がよかった演出家さんでした。今回の演目ではどんな感想を抱くのかとても楽しみに観劇しました。
待ち合わせというテーマはありきたりになってしまいそうなテーマなのに、凡庸な作品にさせない発想力を感じました。展開が錯綜する勢いに飽きないですし、アドレナリンがどばどば出て演劇らしい楽しさがありました。ゴチャ煮感はあるけど下品さはなくて、ギャグ漫画っぽいけど女性誌のギャグ漫画の味付けがします。
楽しすぎるがゆえに、中盤以降はアイディアのスピードについていけなくて置いてけぼりになる感覚を抱いてしまいました。
私自身が演劇で会話や作品の展開がうまく咀嚼できない時は、作り手と自分に何かしらの乖離がある時だと考えます。三浦さんの芸術的なエネルギーが高レベルなことと、事実や要素から展開を読み取れるような規則性というよりは、アート的な作風なのでは?と考えました。私は理解しようとするときに論理的に咀嚼しがちなので、三浦さんはアーティストなのかもしれません。
説明しない部分はがっつり抜いているが(廣野さんがサイリウムを振りかざすシーンやスーツケースにCDが一枚だけ入っているだけのオチなど)、なぜそうなったのかがわからない部分があるものの、それがアソートボックス感になっていて、オリジナリティを感じました。『なんかわからんけど楽しいグルーヴ演劇感』がたまらん人には刺さりそう。
ラストのオチでスーツケースにCDを入れた意味がわからなくて、もしかしてお金で終わるとギトギトして嫌らしくなるからさわやかなエッセンスのニ段オチを加えたのか?と考えました。
私はさわやかな空気を纏った加藤大悟さんが1000万円持ち帰って、成金シンガーみたいになるブラックイケメンの一段オチで終わると思い込んでしまっていました。
ですがこれは私の価値観で起こる発想に過ぎないので、三浦さんの持ち味や発想を浴びることができてしあわせでした。新しい景色を見せていただきありがとうという気持ちです。
論理<感情、素晴らしい発想力。そういった発想力や生命力、エネルギーがない人だってたくさんいるから、馬力と可能性がある脚本演出家さんだと感じました。
演劇畑に感情が向いているからこそいい部分はたくさんあって、演劇文化に慣れている玄人には創作フレンチみたいで好まれそうな脚本演出だなと感じました。イマジネーションと演劇パワーをたくさん発揮して活躍して頂きたいです!
品行方正なのに癖つよしかいない
七海さんの活かし方は"これが見たかった"が詰まっていて最高でした。男装の麗人を嫌いな女性なんてこの世にいるのでしょうか……?
謎競技のダンスしてもかっこいい。悠々とした動きは宝塚歌劇団時代に培った研磨されし技術が遺憾無く発揮されていました。唐橋充さんとのシンクロという激レアなものが見れて楽しい!
宝塚を汚してはいけない、という女性に細胞レベルで組み込まれた敬意を感じる七海さんへの演出でした。
七海さんがウインクファンサしたとき、さすがの武道館も地鳴りして雌猫ちゃんになってしまいました。
かっこいいのに顔がみかんくらいのサイズしかなくて出演者さんの中で1番顔が小さくて、やっぱり女の子やの♡とこちらの情緒をおかしくされました
。
セルフコンプライアンス廣野さん
廣野凌大さんはパチスロ俳優として独自の路線を開拓し、人気をじわじわ出している役者さんです。
派手な見た目に反して頭の回転が速くて賢いから、芝居やサービスアドリブ発言のバランス感覚が鋭くて、芸能活動として滅亡しないコンプライアンスのギリギリを攻めていますよね。尖っているように見えて楽屋で会ったら意外と優しくていい人のパターンっぽい、と妄想してしまいます。
キャラ立ちしすぎていて、品行方正のメンバーが登場した時点で廣野さんや後藤大さんのチンピラみたいな着流し姿に笑いが起きていました。廣野さんはキャラ人気があるなと思いました。
廣野さんの売り方を迂闊に真似したら普通の方は一瞬で滅亡しますから、自分で手綱握ってコンプライアンスしっかりしているなぁと思います。
クズマネージャーとしてサイリウムを雄叫び上げながら叩きつけたり、スーツ姿のおしりが小さくてかわいかったり、要素が多かったです。
廣野さんの舞台上でもたくましく生き延びる生命力が天晴れでした。消されなさそうなスタッフさん投稿のポストを貼っておきます。
劇団『一番星』 テーマ:アイドル
アイドルが禁止された世界
人目を盗み、こっそりアイドルをする少年たち
アイドル臭を嗅ぎつけたアイドル警察が乗り込む
誰に観てもらうでもないダンスや歌やファンサが
警察の心を撃ち抜いて──
古き良き平成アイドルを刮目せよ
座長の荒牧慶彦さんを筆頭に、福澤侑さん、高橋怜也さんなど今をときめく2.5次元の世界で旬な顔ぶれが揃った座組です。
奇縁というほどにぴったりハマるテーマ"アイドル"をくじで引き当てた荒牧慶彦さんの"アイドルぢから"には脱帽です。
この演劇ドラフトを発足したプロデューサーでもある荒牧慶彦さんは、2.5次元ブームを牽引する人気者で、ファンサが上手で"お砂糖対応"と評されがちな2.5次元の王子様です。
そんなキラキラ面子を演出するのが、『テレビ演劇 サクセス荘』などで荒牧さんとお付き合いの長い川尻恵太さんです。
川尻さんはコメディが楽しい演出をされる印象です。サクセス荘はファン向けの、イケメンのお笑い担当がはりきってる感じの虚無番組かと穿って構えていたのですが、皆様えげつない角度の当て書きをされていたし身体を張っていて、しっかり面白かった印象です。
その川尻さんが、荒牧さんをいったいどんな"アイドル"に?と個人的にワクワクしながら観劇しました。
平成イケメン版の『純烈』さんみたいな、めちゃくちゃ欲しかった見たかったアイドルを提供してもらえた。
各メンバーの自己紹介口上みたいなのがあってよかったです。さすが役者さんが芝居でやりきってくれるので、武道館の空気を食ってアイドル様式美が成立してるのがよかったです。
テンプレートのアイドル、平成が生んだアイドル様式美、大好きなのでスカッとします。推しが武道館行ってくれたら誰でも泣く。
頭文字が手の痣「あ・ら・ま・き」www
里見八犬伝の仁・義・忠・烈みたいな痣のやつ〜?!もう怒涛の展開とノスタルジーにここはノスタルジックワンダーランド?やっぱり川尻さんおもろいわと笑いが止まりませんでした。
パロる対象が格上でテイスト違いすぎなチグハグ感と、さすが演劇人、意外と教養の笑いをしてくるのがよかったです。一周回ってワッと沸いてしまいました。
こういったこじつけでやたら運命がる行為すら、オタクの生態系いじってきてるのか?と勘ぐり、笑えてしまいました(オタクはやたら運命がる生き物)このグループはアイドルに憧れから入ってるからメンタリティがアイドルでもあり、なおかつファンでもあるのでしょうか?単なる里見八犬伝パロかもしれませんが。
布切れを集めたら荒牧慶彦の背中の星☆になるのがキラキラで色とりどりでかわいいし、魔法少女の変身トリガーみたいでグッと来ました。荒牧慶彦さんはアイドルではなく、魔法少女だったんですね。
当て書きの名バイプレイヤー川尻恵太さん
アイドルがテーマなのに"アイドルが禁止された世界"で開幕した演目は、ギャップがあって一気に引き込まれました。
川尻さんは当て書きと構成のバランスがお上手な印象があります。第一に正統派ですっきりした展開で観やすい。しかし会話やさりげないやり取りの中で、役者さんの真の魅力やおもしろを引き出す力がある脚本家さんですね。
一部芝居の二部ライブ構成、という大好きなテニミュ〜刀ミュ方式にテンションが上がりました。20分とは思えない大満足っぷりで、コスパよし。とても楽しくて気分が高揚して最高でした。
別作品のお話になってしまいますが、川尻さんが携わった作品で私が拝見した『テレビ演劇サクセス荘』『ゲネプロ7(脚本)』などは構成とキャラクターの関係のバランスがよく、読後感がスッキリする作品を作る方だなと感じました。
特に映画『ゲネプロ7 』は衝撃的でした。2.5次元の世界で活躍するキャストさんを起用した作品は"ファン向けのコンテンツ"というオタク受けに特化した着地を目指す作品が多い印象があります。しかし『ゲネプロ7 』は毛色が違いクオリティがあまりにもよかったので、2.5次元に興味が薄い辛口の友人に観てもらいましたが、高い評価をもらえた良作でした。
脚本を手がけた川尻さんの役者への当て書き抽出がかなり活きていたと思います。2.5で活躍するキャストさんを起用しても、こんなにも大衆向け・一般向けに通用しそうな毛色の作品が作れるんだ、と未来への希望を感じました。
上記などの背景から、川尻さんってコメディおもしろい印象が強いけど、その実は「人をめちゃくちゃ見抜く審美眼」にあるのでは?と感じます。
今回の"アイドル"も荒牧慶彦さんをどう持ってくるのかと楽しみにしていました。そのポジで持ってくるんだという驚きと納得、さらにファンも荒牧さんも自覚していなかった良さが引き立つ要素を見抜く鋭さがありますね。
審美眼を持つ人は尊敬しますしオタクは助かるしで、川尻さんのさらなるご活躍を願います。
脱サラアイドル荒牧慶彦さん(キモオタ語り)
東城綾や羽川翼が好きなオタクでしたので、荒牧さんの地味コートメガネ着脱からの変身展開、蛹から蝶々系アイドル荒牧慶彦さんは座席でハッッてなってしまいました。
地味なコートに黒縁メガネをかけた地味警察荒牧慶彦さんが、アイドルに目覚めて羽ばたく展開(しかも青担当、解釈合致)は、見たいものが全部見れてとてもよかったです。
あの座組で立場や年齢のバランスを考慮すると、いきなり遅咲きアイドル『純烈』さんみたいに出るよりも、違う立場の入りからアイドルの魅力に気付くという展開の方が痛々しさがなくてよかったと思いました。
完璧で究極の「地味」という武器。「地味」とは一見軽んじられる要素だけれど、役者やアイドル稼業においては隠れた脅威の武器だと感じます。
役を演じる役者、とりわけ平成〜令和の時代を駆け抜けたアイドル的な側面を持つ2.5次元の世界で活躍する荒牧さんが、なぜこんなに人気なのか?を象徴している鋭い本だと感じました。
私は2.5次元舞台のコスチュームやキャラクターメイクが似合うかどうかは"癖が少ない型整い"という法則があると考えています。
一般大衆ドラマや映画に出て人気が出るような役者さんは自我やキャラが濃かったりしますが、2.5次元舞台は役者の魅力的な自我が強すぎると、キャラクターを邪魔する二律背反が起きやすい分野だと感じます。
役を全うしすぎれば役以外の印象は残らないし、自分の印象を残しすぎれば原作人気ありきの2.5というコンテンツ構造が破綻してしまう。複雑な構造をしていると感じます。
しかしそれは"アイドル"という偶像にも反映されているように思います。アイドルとは異性から見た幻想であり虚構の存在、"オタクに優しいギャル"、はたまた"理解のある彼くん”くらい非現実的な妄想の産物で、擬似的に作られたユートピアです。
夢を提供してあげて、人の欲求たるキュンや恋心を掴むからこそ、大きなお金を動かすことができるのだと思う。
荒牧慶彦さんは不思議な役者さんで、自分の色はあるのに、高すぎず低すぎずな身長があって、標準体型で、濃すぎない顔立ちで、バランスがいいから真っ白な画用紙のような無機物感も併せ持っている。
あと根本的に人に合わせるのが上手な性格をされているんだと思うので、常にToカスタマーの人ありきの立ち振る舞いができる印象です。自分がどう見えているか、どうしたら喜んでもらえるかを自然と気遣って考えられるから"荒牧さんはアイドルっぽいな、このお仕事は天職だろうな"とファンながらに思っていました。
荒牧さんはファンの願望や希望を反映させた月のように、ファンの想いと共に昇るし、没落する時も共倒れとなるリスクは高い気がする。プライベートが充実している様子を見せたり、実際に結婚したらファンに拒絶反応が起きて芸能活動が崩壊するリスクを孕んでいて、煌びやかなのに切ない。そんな悲哀をファンながらに想います。
荒牧さんは理想を写し出したいオタクファンの深層心理にとって夢のような王子様だし、その実は月のような儚い存在だと思う。オタク特有の月例えをしてしまいました。
"アイドル"とて同じで、ステージ上では太陽のように振る舞うけど実際は月のような存在です。ファンは自分の中の最強の異性をアイドルに投影して想いを馳せ、羨望しているに過ぎないのかもしれません。
荒牧さんは羨望を投影されることに耐えうる器のあるタフででかい男だなと感じます。ご本人は天才的なセンスでやってるし、そんなつもりないだろうが。
俺のものさしでアイドルを作る福澤侑さん
赤担福澤侑さん、踊るとルビーよりも赤くすきとおりリチウムよりもうつくしく酔ったようにその火が燃えて夜空に煌々と光った、その正体は赤担当の福澤侑さんだった。福澤侑さん、銀河鉄道の夜?←踊る姿見てポエム綴られる役者さん、キモ被害者すぎて可哀想。
アイドルの福澤侑さん最高でしたね!嗚咽するかと思ったし心持ってかれて大優勝。
正直なところ福澤侑くんのアイドルみれるから月初の火曜日という社会人泣かせの日程にも関わらず現地に遠征して観劇することを決めたけど、完全に元取れました、大感謝!
侑くんのアイドル(赤担当❤️)が最高で最強のアイドル様すぎてたすけて、もうむり、とバキ沸き悲鳴をあげてしまいました。
福澤侑さんを中心にグループを引っ張るアイドルぢからにより会場は熱狂の大盛り上がりでした。しかし惜しくも優勝を逃した一番星、福澤さんは発表の瞬間に悔しさを噛み締めていることが伝わって来ました(私は福澤侑さんを双眼鏡で定点カメラしていたのでわかりました)。
お仕事に本気で向き合っている方なんですね。これ以上オタクをおかしくさせないでいただきたいです。好きです。
福澤侑さんはギランギランの中心に立つゴールドって感じはしないけど、赤い星の周りでまばゆいシルバーの輝きを放つ職人の一番星でしたね。
福澤さんの振付がかっこよくてキラキラしててよかったです。さすが現役アイドルさんの振付を担当されているダンサーの顔を持つ男ですね。短い稽古時間で振り付けを覚える役者さんもお見事です。
2.5次元で人気が出た役者さんのキャリアプランとして、新しいキャリアを開拓して道を示してくれています。一生キラキラな福澤侑さんの姿を見せてほしい。
人生でこんな気持ちにしてもらえる人はそう出会えないと思うのですが、福澤侑さんは多芸で地に足ついた裏方稼業ができるし、それでも熱量があるから表に出た方がいい人ではあると思います。
ご自身がプロで商品ということをわかっているからステージの上でやりきってくれる。見ててスカッとするし、癖にブッ刺さるオタクたちを魅了してアドレナリンでおかしくしてくれます。
表現力のマダムキラー松井勇歩さん
一番星で緑担当の松井勇歩さんは、大衆向け演劇にも勝負していけるような良い芝居をする役者さんだと個人的に感じています。松井さんが"アイドル"だなんてレアだから、ひっそり楽しみにしていました。
アイドルオタク♀の観点から"表現力"という才能や実力が意外と重要なことは知っていました。アイドルは上手くパフォーマンスを披露するのではなく、魅力的に歌い踊り人を惚れさせる表現がメインのお仕事なのです。
芝居が上手い人がアイドルをやると、魅力をしっとり伝えるアイドルになるんだなぁ。松井さんのアイドルはマダムに受けが良さそうだと感じました。ギラギラ輝きを散らすというよりは、じんわり光って華を添えるという、成熟した人の嗜みの種類になるんですね。
お耽美な高橋怜也さん
出演が発表されたときに人気の人だ!と思いました。高橋さんのアイドルなんてファンの子たちはうれしかったのではないかな?現地でアイドル姿を拝見できてお得感がありました。
ミュージカルテニスの王子様で跡部景吾役を務めていらっしゃるので跡部様の姿は拝見したことがありますが、素顔の状態でも色っぽくてかっこいいですね。
個性のある空気と独特な顔立ちが素敵な役者さんだと感じました。ビブラートがすごくて本当にお耽美な歌い方が上手いんですね。高橋さんは周囲をレベル的に自分より上の人で囲まれた座組の方が、魅力が伝わったり実力が伸びそうな印象を受けました。
跡部様役は選ばれるだけでも大変なので跡部役=人気が出る法則がありますが、スポットが当たるプレッシャーは重く、雌猫は騒ぎ、いろんなものが見えにくくなって大変だろうなと素人ながらにお察しします。
どうかいい裏方やスタッフと出会い、せっかくの光る可能性を潰すことなく大切に広げて欲しいなと感じました!
黄色担当がぴったりな木津つばささん
木津つばささんはお調子者としてふるまうのがお上手だという印象があります。『あいつが上手で下手が僕で2』で芸人に扮していた際に、木津さんは意外と論理的に笑いを構築する人という印象があり、本当は頭がいい人だと思う。
その辺りも"黄色担当”っぽさがありませんか?明るく振舞える人ほど、実際は腹の中で慎重によく考えているものだと思います。
アイドル向いてそうだなと思ったら本当に過去にアイドルをされていた時代があったんですね。過去に無駄や意味のないことはないですね!
お客様を喜ばせたもの勝ちって所はある。隣に座っていらした荒牧慶彦さんの花札をバッグにぶら下げた可愛らしい女の子が、荒牧慶彦さんがファンサうちわを持ってファンサ待ちのおねだり顔をした瞬間、「フォォォォ〜〜〜⤴︎」と雄叫びを上げました。
荒牧慶彦さんはあまり女性を傷つける発言をしないので、ファン層は可憐なお嬢さんが多い印象ですが、その雄叫びが鼓膜を震わせた瞬間に私は魂の躍動を感じました。つい『よっしゃ!』と胸中でガッツポーズしてしまい、その時の私はアイドルプロデューサー荒牧慶彦の気持ちにシンクロしていました。
荒牧さんがアイドル化してファンサを解き放ったときよりも、刑事の状態でファンサ待ちをしていた時の方が会場が盛り上がっていたのが不思議でした。普段と逆なのがおもしろかったですね。
劇団『恋のぼり』 テーマ:初恋
車いすに腰掛けた老人が空を見上げる
かつて沖縄で過ごした青春に想いを馳せている
太平洋戦争末期、沖縄の学生たちは塹壕を掘った
戦況が悪化し首里城にまで炎が迫る
豪の中で友人たちは身を寄せ合う
恐怖を耐え抜くために、恋の話をせがむのだった
質の良い演劇はカタルシス(浄化)が起きる
土まみれの国民服風衣装で俳優さんが出て来た瞬間に、ラストに戦時モノかぁと一瞬うっと詰まりました。しかしそのがっかりは見事に覆されることになりました。私は恋のぼりに投票しました。
質の良い演劇は、命を使い捨ての道具にするのではなく、カタルシス(浄化、供養)してくれるのだと思う。
胸を締め付ける淡い初恋と、戦争が隣合わせの日々の底なしの恐ろしさ、青春の潮騒を客席でびしゃびしゃに浴びました。質のよい演劇は役が立ってる空気に客席ごと引きずり込まれる4D体験ができるんですね。空で繋がって1945年の沖縄に20分間連れて行かれたようでした。
初恋を超えて友情という愛のお話
私オムさんの本がいい意味で2.5に期待してる以上の『演劇』だった。演劇のド本命になれるような素敵な本でした。2.5(それらの界隈におしあげてもらった人らの)って意味の言葉です。
恋という切り口から入ったが、描いていたのは"友情"でした。色恋肉欲的ではないし、想いを寄せるあの子の実体は出てこないけれど、砲弾で揺れるガマの中で友人に恋バナをして笑わせるのは間違いなく愛だと思うし、愛の話でした。
私は現地沖縄でガマを見た時の足がすくむ恐ろしさと、当時この穴に潜んでいたであろう少年少女の心を想ったときの胸の痛みを、生涯忘れることができません。だけど現地に行けない人や史実そのままを摂取したらキャパオーバーでおかしくなってしまう人もいると思います。
恋のぼりの演目はエグさを消してるけど空気は沖縄そのものだった。演劇ってそうやって要素を食べやすくお料理して、人様の人生や物語を空間を通して共有してくれるところが素敵だなって思いました。
萩野崇さんの芝居が骨太だが若手もいい
萩野崇さんの語りのお芝居は、夏目漱石のこころの一行目を読み出した時のような胸に染みる情緒がありました。演劇でありつつ、もはや文学でしたね。
車椅子の老人という語り部を通して覗き見る青春の風景、ベテランの演者さんの実力がなければ全く効果のない演出だと思います。今際の際の走馬灯の中に出てくる、青春時代の鯉のぼりたなびく風を頬に浴びました。
演劇的だけど、副交感神経が満たされる感覚。涙って浄化の効果ありますよね。
若手の演者さんの良さが引き出されていたのもよすぎる。
石川凌雅さん扮するピュアなおちゃらけ担当、小西詠斗さん扮するプレイボーイ、服部武雄さん扮する頭の固いやつ。全員、現実でもいるー!と唸ってしまう登場人物のラインナップですが、皆さん本当に芝居がいいですね。
玉城裕規さんは独特の空気感がある役者さんで、やっぱりいつも思っちゃうけど女優さんみたいです。沖縄という土地の寵愛と加護を受けた愛に溢れたお人柄が伝わるようなお芝居がいいですね。もっと評価されてほしいです。
小西さんはご本人のキラキラな印象に反してお芝居がしっかりうまい方だと思っているのですが、プレイボーイ風味もよかった。甘いだけじゃない感じはします。味付け変わっても芝居をものにできるのが凄いですね。
服部さんは失礼ながら詳しく存じ上げなかった方ですが、極端で堅物な人格のお芝居、よすぎました。ひめゆりの塔などで読むことが出来る沖縄戦で生き残った方の手記を読むと、当時の日本は実際にああいう方が多くて亡くなってしまった方もいたみたいですね。服部さんや私オムさんは現地の手記を読んだことがあるのかな?それくらいお芝居の解像度が生々しかった。
そしてNARUTOのシカマル役の人なんですね?本気で気づかなかったのでびっくりしました。役によってカメレオンしてしまうタイプだからご本人としての印象が残りにくいタイプですかね。芝居中と普段のおしゃべりの様子が違い過ぎて、芝居まじうまの者だとピンと来ました。
石川凌雅さんの素材からの爽やかないい子っぽさがいいエッセンスになっていて効いていました。戦争の悲しさや恐ろしさが、ああいう無垢でよく笑う子が怯えているという描写でよく伝わってきたし、辛い現実をユーモアで笑い飛ばせる強さこそが、人生の美しさなのかもしれません。映画『ライフ・イズ・ビューティフル』ですか?
若手が上の人に引っ張られてよくなる現象が起きていた。技術的に秀でていることが優れているとも限らない、若い子には若い子の財産がある。でもすべてが合わさって、よくなって、言葉なきメッセージになっていて本当にびっくりするくらい演劇観たー!という心地でした。
萩野さんと服部さんが根幹を担い、全員でお芝居を作ってた演劇の理想形ですね。今振り返っても納得の優勝だという感覚で満たされています。
一回マイナスに落として上げる天才的構成
最初は、あーあやっちゃったなと思いました。あくまで2.5っぽいフィールドでこの真面目なテイストの演劇やっちゃうんだぁと穿った入り方でした。しかも沖縄出身の座長玉城裕規さん=沖縄戦って安直な発想では?と一瞬警戒してしまいました。
そして順番的にこのテイストがトリは、外れだなと思いました。戦争モノで真面目な演劇ってお客様にしんどさを与えて負担を強いるもので、作り手の腕がないと、お取り扱いが難しいと思います。それまで盛り上がっていた会場が静かにずぅぅんて終わってしまう危険があると直感したのです。
私の価値観に過ぎないのですが、戦争や死ネタ感動にする行為って基本的に避けるようにしています。
作品や演劇の中でぽっと出されて最終的に殺されるキャラクターの取り扱いって、作り手にも泣いてるファンにも冷めちゃいます。
このことを私は『HERO現象(Mr.ChildrenのHEROの〜ダメな映画を盛り上げるために簡単に命が捨てられていく〜という歌詞より)』と呼んでいます。
人間という生き物は善性を振りかざして他人や尊厳を傷つけがちだと自戒も込めて思います。
しかしオムさんの本は気持ちが冷めなかったから、そういう善性の暴力みたいな側面もわかっている視点からのアウトプットだなと伝わってきました。
序盤の会話劇で早々に、座長である玉城さんの名前いじり(役の名前は違うのに玉城という名前にこだわる)が入ります。
その瞬間は、あっメタなんだ、苦手な劇の身内ノリみたいなおじさんの笑い!ってまたさらに引いたけど、そこから「玉城=片想いしてる女の子の名前」という意表をつく展開に繋がって、ハッってなっちゃいました。そうだこの劇団名は"恋のぼり"だったと。
そこで一気に空気が変わりましたし、会場が掴まれた感覚を肌で感じました。これは深いおもしろい演目かもしれない、と信じたくなりました。前のめりで集中して観劇することができて、物語に入り込めました。
一回がっかりさせて上げる、緩急をつけるのって脚本を作る時の基本的なテクニックという印象です。編集長の方も仰っていたけど、漫画で次のページをめくったとき、読者がアッと驚く仕掛けを散りばめれば、それが読者を物語に引き込む魅力という要素になると。
演劇でメタを入れ込んだ時に観客の気持ちが冷めるのか、はたまた役者の⚫︎⚫︎さんのメタだ♡と喜んでくれるのか、それらの温度感をお客さん目線で日頃から感じ取っていないと難しいテクニックだなと感じました。
私は基本的に小劇団ノリと揶揄されがちな身内ノリ・メタ笑いが苦手なので、2.5というフィールドでオタ活をしている中でもそのおじさん笑いに被弾することがあります。しかし私オムさんはそれらのおじさんノリを仕掛けの道具として使って、武道館の空気を掴むことに成功していたので、ゆるっとしたお見かけによらず賢くて鋭い作家さんだと感じました!
まるで私オムさんに変わり身のアンチテーゼをかましてもらったような心地になり、スカッとしました。脚本演出家が観客の代弁者となった瞬間から観客はその人の味方になりますので、友好的に芝居の空気に入り込んでしまいました。
笑いが起きていたのが、「付き合ってない女の子に初手で鯉のぼりを贈るのは重すぎる、やめといた方がいい」的に友人小西さんが助言したシーンでした。会場の空気「それはそう」ってなっていました。観客の女性の中に似たようなロマンチックハラスメントじみた体験があるから笑いが起きたのかな?
男性はロマンチストな人が多いので、たまに面白いですもんね。大真面目なロマンチック発想は思春期の男の子だとかわいいですね。しかしこれ本当に男性が書いた本なの?と驚きました。女性の角度からの男性のダサさみたいなものを突いている角度が生々しいですね。
そんな笑われてた鯉のぼりが、あんななみだのラストに繋がるなんて……情報の余白もとても鮮やかで、素敵な涙のラストでした。
鯉のぼりの白布というシンプルなモチーフが起点となって動いていくストーリーですが、白い布地がまるで観客の思い出の投影スクリーンのようでもありました。白妙に甘酸っぱい青春や恋心を写し出すことができて入り込めたのかなと思います。
本当に素敵な演劇を見せていただきました。
感想まとめとリクエスト
仕事できすぎナビゲーター
謎のパンクロックバンド風の衣装に身を包んだ田中涼星さんが中継モニターに映るだけで笑いが起きる→鈴木拡樹さんの漫談落語なみの小話で空気が切り替わって次のお話にスッと入り込める、という流れがよくできていてよかったです!
さりげなくお仕事をかなりしていた田中涼星くんと鈴木拡樹さん、"しごでき”でしたね。あのつなぎのポジションは地味ですが、ハンバーグのひき肉に入れる生卵くらい大切だろうなと素人視点でも感じます。
メインにもなれるし添えるだけの控えめポジションでも出力を調整できる、その素晴らしい仕事ぶりを卵俳優と名付けました。
田中涼星くんと鈴木拡樹さんは協調性の平和主義なチャーミングタイプなので、お仕事でも間接的に人と交ることが性に合うのかもしれないですね。
鈴木拡樹さんは特に、短いコメントの中でもまっとうなお言葉と同時に、小気味のいいジョーク(台本だとは思いますがアレンジも入ってる?)で笑いを起こせる実力、バランス感覚が素晴らしい。芝居や価値観の芯の通った感覚だけでなく、バラエティもできるんだとひたすら脱帽です。
演劇素人ながらに、鈴木拡樹さんはお芝居するときの空気を変える射程範囲の円が大きいんですよね。だからその他の場面でも空間を支配できる。人生は舞台、人は皆大根役者、良い役者は念能力者ですからね。知らんけど。
繋ぎに鈴木拡樹さんが入ることで一気に空気がリセットされて、次の演目に気持ちを持っていけた。やはり背中が大きすぎる男ですね。
演劇に何を求めるのか
演劇ドラフトを通して、私が演劇に求めているものは"カタルシス"なのかもしれない、ということを感じました。
カタルシスとは劇を観たとき観客の魂が浄化されることの意味で、お話や映画をみたとき悲しくて心が締め付けられる展開なんだけど、心が洗われるようなスッキリした感覚が好きです。
コメディをみて笑って気分転換する、悲劇をみて自分が過去に負った傷を受け止めて癒していく。受け手の性格や状態によって、演劇の受け取られ方は様々っていうお言葉の通りですね。しかしどれも演劇が持つかけがえのないエネルギーなのだなと感じます。
『編集部満場一致ではじまる連載も、誰も推してないでボツになる作品も、どちらもない』鈴木拡樹さん・ジャンプ中野編集長が同じニュアンスのことをおっしゃっていた記憶があるけれど、『どのチームの演目も個性的で素晴らしい。観客が何を求めてこの場に来ているか、何が刺さるかで投票するチームが変わるだけ』そんなお言葉の通り、まさに甲乙つけ難い接戦でした。
どのチームも熱量と真剣さが滲む演目だからこその納得でした。全チーム優勝取りに来てる感じがしてよかったですし、本気の創意工夫があってヒリヒリってやっぱりコンテンツの質を高めるんですね。競争で過度に人を傷つけるのはよくないけど、競争は本質的に質を底上げして高めるなとも痛感してしまいました。
"キュン"だけではてっぺんは取れないのかも
『推しがいるからではなく、心を動かされたチームに投票する』この演劇ドラフトというお祭りのポリシーに則り"心を動かされた"動機の種類が各々のチームで違うだけなのだと思います。
どの演目も素敵で接戦でしたが、恋のぼりが優勝した理由をぐるぐる考えてしまいます。私は恋のぼりか一番星どちらに投票しようか本当に迷って、僅差の一票でした。
テーマや順番は、要素のひとつではあったけど、結果にあまり影響や関係はないと感じました。
演劇がかくあるべきか伝統とか、それ自体は敬いますが、エンタメも職業もどんな事であっても貴賤の差はないと私は考えています。お客様の心を動かしたものには無二の価値があると思うのです。
アイドル推し活という観客に入り込みやすい諸刃の剣をうまく掴んでいた川尻さんはとても有能な演出家さんでした。アイドル(偶像崇拝)は人様の人生をエンタメ化して消費する非道な行為であるけれど、真っ暗な夜に道を照らしてくれる明けの一番星でもあるんだろうな。
恋のぼりが描いてたのは絶望の中を恋バナで生き忍んでいく強さや希望、人生の輝き、人の尊さで、美しかった。戦争モノどうこうって話ではなく。
優勝を逃したチームがダメとかではなくて、優勝したチームとそれ以外で差がついた部分は"交感神経と副交感神経"の差かな?と感じました。
交感神経とは絶叫に乗ったり激辛食べたり、推し活でお金詰む行為もそれに当てはまるのかな。人は交感神経への中毒性があるので興奮を求めるしお金も生みやすい。アドレナリンは本命にはなれないし、本命に位置付けると短命に終わりやすい。
しかし現実で愛に向き合う時いいことばかりではないから、2.5的なものはサブの位置付けやいっときの快楽かもしれない。それが悪というわけではない。逃げや道草が救ってくれる段階だって山ほどあるんじゃないかな、と演目の対比の中で思いました。
演劇というコンテンツも副交感神経の癒しやカタルシス、哲学の愛にまで引っ張れるように、質向上を目指していくべきなのかもしれません。知らんけど……
編集長のコメントがためになる
各雑誌編集長の皆様のコメントがぐうの音も出ないような素晴らしい納得感があり、さすが元編集者だと感動を覚えました。
編集さんはヒット作を産むために作家へアドバイスするプロなので、さすがの論理性を感じましたし、自分の中で抱いたモヤモヤもいいなって部分も的確に言語化してもらえてすっきりしました。凄まじい語彙スキルを見習いたいです。
ジャンプの中野さんは特に鋭いし、商業的ですね。売れる作品がかっこいいという王者週刊少年ジャンプの一貫性に貫禄を感じました。
個人的に感じた事ですが、得点点数は公開した方がいいのかな?と思いました。一票がどう使われてるか見えないのが不安だったことと、せっかく編集長の前で実力を披露できる場なので、ありのままの結果が出る方がヒリヒリして研ぎ澄まされそうだなと思いました。やや荒れそうですが。
ファンや業界的に、点数公開されてなんでうちの⚫︎⚫︎が⚫︎位なんですか?と怒る世界ではなくて、どの順位も素敵でダメな時もあるよね人間だもんね、って讃えられる世界にしていく方が、表現の幅や可能性が広がると感じるからです。
演劇ドラフトと2.5演劇の未来
『役者が演出家を逆指名する』という大胆な、しかし夢のような企画。"シアターコンプレックスTOWN"でネルケプランニング前会長松田誠さんと荒牧慶彦さんのコロナ渦配信対談がきっかけで生まれた企画だと記憶しています。
その配信をリアルタイムで視聴していたのですが、当時荒牧さんは2.5次元の王子様ではあったけど裏方のお仕事をしている印象はなく、松田さんが「プロデュース向いてると思う」というニュアンスのことを仰っていて、まさにその通りだなぁと外野ながらに共感したことを覚えています。
荒牧慶彦さんの身のこなしは2.5次元俳優という立場の人が求められるあり方の模範の先生のような説得力があると一方的に感じていて、そういう感覚がわからない子たちに指導してあげたら、役者さんもファンの子ももっとしあわせな子が増えるのになと思っていました。
そして演劇ドラフトグランプリが実現して、武道館で各雑誌の編集長を招いて演劇のガチンコバトルを繰り広げるなんて、本当に凄いですね!
普段は推しが出ているからという動機で観劇をする人が多い界隈なので、どうしても観るものに偏りが出てしまいがちなのかなと感じます。ですが演劇ドラフトグランプリは普段あまり触れる機会のない演出家さんや役者さんにちょうどよく触れることができて、魅力的な人を知るきっかけをくれるのでとても素敵な試みだと感じました。
またこれは思いつきですが、若手演者さんからの座長の指名編がみたいなと思いました。
キャリアがある座長が選ぶのではなく、逆にしてみたらどうなるのか見てみたいなと。破綻してめちゃくちゃになるかもしれませんが。そしてぜひ鈴木拡樹さんの座長姿が見てみたいです!
まだまだ発展途上の2.5業界、この先も成長を見届けていきたいです。荒牧さん楽しい催しをありがとうございました。来年の開催も楽しみにお待ちしています。
シアターコンプレックスTOWNにて2023年12月19日(火) 23:59までメイキング動画を配信中です。
演劇ドラフトグランプリ2023 公演概要
【開催日時】
2023年12月5日(火)
【会場】
日本武道館