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2と3と荒牧と友達のあいだ


2023年12月9日発売『2と3のあいだ』を拝読致しました。2.5次元俳優としてトップ集団を走る荒牧慶彦さんが日経エンタテイメントで連載していた1年間の連載+ターニングポイントとなる業界人との対談、グラビアをまとめた一冊です。



『必ず時代が来る』‪

漫画やアニメ等のポップカルチャーに救われてきた私自身にもふりかかる言葉を、荒牧さんはこれまで何度も語ってきて、間接的に励まされました。

見守っていると自身の過去がなんとなく癒えていく、未来に向かって一歩踏み出す勇気が持てる。荒牧慶彦さんのご活躍をこれからも見守らせてもらいたいなと思えるインタビューの数々が大好きです。日経エンタさん、ありがとう\(^_^)/

あまりにも自分の魅せ方をわかっているおかげで、本心を覗かせてもらえる日はくるのかな?と遠巻きに背伸びしながら、荒牧さんを取り囲む人々との対話の中で荒牧慶彦の頭の中をちょこっと覗かせてもらえました。
素晴らしい対談まとめ本でした!

2と3と荒牧とあらまとんのあいだ


◾️テレビお笑い界を築いてきたレジェンドP佐久間宣之さん

テレビプロデューサー佐久間宣之さんの2.5次元に対するお言葉は、優しいオブラートに包んでくださりつつも刺さるものがあり、ああよくここまで的確に言ってくれた……というスッキリした気分になりました。
多少の社会経験がある目線からすれば、社会的な地位を築くほど成功していらっしゃる方はどの分野の方も言語化の能力に長けているように感じます。なるべく語弊がないように、優しく傷つけないように、でも問題の核の部分はズバッと指摘するその語彙力に脱帽しました。

オタクの閉鎖的な村社会感がキモくて足を引っ張っていること、皮肉にもファンの熱気が足枷となり第三者の世界から見たときに印象を悪くしている悪循環、それらはオタクとして長年過ごしてきた私自身も見てきて感じていました。
しかしその排他的な熱狂や身内ノリは、一種のバリアではないかなと思っています。多くのファンがオタクに対する排斥の歴史の中で見下されて傷ついてきたことへの裏返しで、好きなものを穢されたくないからなんだと思います。オタクってすごく純粋で繊細な子たちなんだと思うな。住み慣れた村をいきなり開拓されようものなら、誰だって暴れてしまうものなんでしょうね。
受け答えの中で荒牧さんはそのあたりの感覚を繊細に理解していたので、だから大炎上しないんだなぁとしみじみ感じました。

その熱狂があってこそ数字や実績を築けて、ニッチな層に深く突き刺さるものを提供してきた。そういうオタクの中でのスターや王子様の地位を築ける人が限られることも、まごうことなき事実かと思います。そのバランスを掴むことは素人目からしてもとても難しそうです。

ビジネスとして見たときに、今勢いがありつつ近しい界隈がどこか?という市場分析、そのような一般営利企業が当然のように行っている分析を露骨に出すと嫌われがちなのが芸術やオタクの界隈でもあるのかなと。しかし冷静に要素を切り分けて引いた目で見れたら、結果的に自分たちの愛する世界に対する偏見はもっともっと減ると思ってます。
そしてそれがひとりの力ではなし得ないことも素人目にわかるので、荒牧さんのような協調性とリーダーシップを併せ持つ人の登場はすごい財産なんだろうな。この対談、異世界の交わりを通して感じました。

◾️日テレのちち・橋本和明さん

カミシモやロクマチでお世話になった橋本和明さんのインタビューは、なんだが"父親の愛"を感じてなぜか私が泣いてしまいました。
苦しい思いもいっぱいしてほしい、ってお言葉は一見厳しいですが、なんととてつもない信頼という大きな愛なんだろうかと涙涙涙です。

荒牧Pがやっていることは演技素人がエチュードからはじめるようなもの、とはまさにその通りですね。私はある程度一般企業で社会人経験を積んだので、社会的な場での作法や話法はある程度わかっているつもりですが、いきなりスポットの降り注ぐ観客の目線が突き刺さる舞台にひっぱり出されて、台本も頭に入っておらず真っ白になってオチもつけられなかったら、生き地獄ですもんね笑
もうこんな役目やめたいつらいくるしいってブツブツ弱音を吐いてしまいそうです。演劇ドラフトでPの苦しみを知った、荒牧さんのように……

経験が浅いだけで、どちらが表が裏が上下とかはないと私は思います。ひとりでは仕事は出来ないからです。
どんな分野でも、ある程度成熟した大人としての地位が身につきはじめる30歳を越えて、まだ無知な自分や恥をかくことに直面するような新しいフィールドに足を踏み入れられる荒牧さんの勇敢さが素晴らしいと思います。
そういった男らしさを尊敬してるし、私もそういう人でありたいなとパワーをもらえます!

世はまさに万人総アイドル時代、SNSが身近になったことでどんな人でも表現者になり、"推される力"が試される時代でもあると感じます。
元々表現者である方々は、演技力や既存ファンという武器がある。しかしだからこそ、その他の身近な"推し"にファンの分母を食われないように爪を磨かなければ。
自分の内面の核にどんな価値観や魂を持ってるのか?個々の力で何をアウトプットするのか?をあけすけに見抜かれてしまう、本物しか残れない厳しい時代の到来なのかもしれないなとも感じます。

荒牧さんは冷静な部分は保ちつつも、ファンのみんなのためにという献身が偽りなく伝わってくる。だからこそ大失敗はしないんじゃないかなという信頼がある。
そういった分厚い社会性やちゃんとしてる顔の下に、いたずらっ子ワルガキ(好きな子にだけいじわるする)のような無邪気さと繊細さを持っているとファンは勝手に思っています。荒牧さんのことをなんか見捨てられないな〜という感覚にさせるのもまた、荒牧慶彦さんの魅力なのかなと感じます。

◾️愛の演出家松崎文也さん

2.5演劇の世界真っ只中で実際に活躍されていて、その世界をよくしようという想いの伝わってくる松崎さんのお言葉が美しく散りばめられたインタビューでした。とても荒牧さんに近しくて現実味を帯びた言葉で、私までグッと来てしまいました。
側で見ててくれて、認めてくれる人がいるということは、荒牧さんがそれだけ誠実に仕事に打ち込んできたことの証明なのだろうなと感じました。

私はミュージカル 『I'm donut?』の脚本演出を担当されていたことで松崎さんをしっかり知ることとなりました。
語弊を恐れずに言えば、個人的には、松崎さんが演出を手がける代表的な2.5作品である舞台 『A3!』を観させてもらった時よりも、こっち系の原作のない舞台の方が好きだなと感じました。人それぞれに刺さる演劇や原作は違うので単なる好みの話ですが。
原作ものの舞台を観た時点ではスルーしていた制作陣を一段深く知って、そのよさが理解できるということは、とても幸せなことだと感じました。

本書でも取り上げられていたミュージカル 『I'm donut?』ですが、ドーナツの店舗を舞台化するという前代未聞の挑戦的なオファーだったと思うのに、真摯に作品作りに取り組んでいらっしゃることが伝わるとても素敵な演劇で、病室でドーナツを貪りながら私も輪になってワァァと泣きました。

何よりも松崎さんが店舗に足を運んで、ドーナツが作られていく工程の音や香りや作り手の想いを、五感を全部使って、松崎さんの培った愛の価値観で昇華して反映した舞台だったと思いました。一見自分とは縁が遠いようなドーナツというテーマを昇華して、観客に共感させて心を動かす層まで濾過してくださっていて、すごかったです。
松崎さんは荒牧さんを見守る目線、書かれる本、人に寄り添い等身大のあたたかさだけれど、ぬくもりばかりではなくて、黄昏というかちょっと苦味やノスタルジーもあるような本で、病室でドーナツを貪りながら私もワァァァァと泣きました(再放送)

『演劇ドラフト』第一回目では優勝を勝ち取った、脚本演出力が見事な実力派制作さんですね。
本当にこんな素敵な人材が業界にいることに驚きましたし、これも荒牧くんが見せてくれた新しい景色だと感じました。

◾️2.5トップオブトップ鈴木拡樹さん

素人の私からしても、鈴木拡樹さんのお芝居はすごいと思います。周囲のオーラから役に変えて芝居をしているという、それっぽい感想が出てきてしまう鈴木拡樹さんのお芝居は圧巻です。
あえてこの言葉を使えば『2.5次元の領域を超えている』と感じますし、荒牧さんが尊敬している人に挙げるのも大納得の役者さんです。
現に最近はこれまでのテイストやスタッフ陣とは異なる演劇に出演するなど、実力でのし上がり活躍の場を広げている、名実ともに備える役者さんだと感じます。

2.5次元ブームの火付け役となった『刀剣乱舞』のミュージカル派のオタクだった私ですが、鈴木さんや荒牧さんが出演していたのは舞台版の方でした。その『刀ステ』の圧倒的な座長様として人気を博している鈴木拡樹さんに対して、オタクの友人たちとよく言っていたのが"鈴木拡樹は2.5のトップオブトップ"という表現でした。外野特有の呼び捨て、すみません。

数字や実績でたとえそれ以上の水準を持つ俳優さんが他にいようが、私たちの目線からするとなんか理屈ではなく鈴木拡樹さんが2.5のトッププレイヤーなんですよね。それは理屈ではないので、漠然と納得させる存在感やオーラの重厚感がスターたる風格なのだと思います。
ただ鈴木拡樹さんが役の情報をコツコツ集めたり毎日走ったりしているというエピソードは外野の耳にも入ってくるので、相応の鍛錬を積み重ねているから芝居に凄みがあるのだという納得感はありました。

宮本武蔵『五輪書』に書かれている千鍛万錬という言葉が、鈴木拡樹さんにはぴったりだと感じています。武芸の達人ですら日々の鍛錬でメンタルのブレをなくし霊性を備える重要性を説いていたので、やはり鈴木拡樹さんほどの役者にはある種の霊性が宿っているのだと思います。

荒牧さんの言葉を一部抜粋で、"これは『2.5舞台じゃない』と区別したり、そこにこだわらなくてもいいと思う"、この部分にすごく共感を覚えました。
それに近しい発言をするような2.5に関わる一部制作者さんや俳優さんをお見かけする場面が多いのですが、お世話になっている界隈に対してコンプレックスが滲み出てる発言をうっかりしちゃうのって、たぶん想像力が足りなくなるくらい"芸能モラトリアム"とか"コンプレックス"の真っ只中なのかなぁ、自分のことでせいいっぱいで苦しそうだなぁと傍から眺めていると思います。

自分が取り組んでいることを認められていない人に、誰がわざわざついていきたくなるの?と私ならば思うので。自分の取り組んでいることを恥じずに認めていきたいし、好きなことに関わってくれる人たちにも、どうか2.5を否定することなく自分のがんばりを認めてあげて欲しいなと願います。おまえどの立場やねんって感じですけどね。

そこで荒牧さんの考え方の角度や、鈴木拡樹さんの諸々を受け入れているどっしりした心が、己が成して積み重ねてきたことへの説得力や自信なのだろうなと伝わってきました。そういう劣等感みたいな部分をすっかり飲み込んで、ジタバタしていない鈴木拡樹さんは名実共に矛盾がなく、かっこいいですね。ずっとレジェンド役者でいてくださいね。


◾️だいちゅきな佐藤流司さん

佐藤流司さんはミュージカル『テニスの王子様』のデビューの頃から知っていて、2.5でずっと人気の男、集客力のある男です。ご本人は"俺は受ける人を選ぶ"的な内容のお話されている場面が多いと感じるけど、私にもちゃんと刺さってますし勝手に親近感を抱いています。

対談すごくよかったです。
先述した2.5次元ブームの火付け役となった『刀剣乱舞』のミュージカル、舞台、それぞれの花形の二枚目・看板役者として座組を牽引してきたのが佐藤流司さん・荒牧慶彦さんだと感じます。それぞれ違う場所だけど同じフィールドで重圧を背負ってきたおふたりだからこそわかりあえる部分があるのだろうなぁ、とエモさを感じました。

佐藤流司さんは粗暴な見た目に反してとても頭のいい人、IQの高い人だなと感じます。皮肉多めのユーモアセンスがあって、でもコンプライアンスや空気を読むことを理解していて近場がよく見えているのでなんでも拾うし、実際は責任感の強い人なのではないかな?と感じています。だから舞台上や番組内にいてくれるととても安心するし楽しいです。

荒牧さんと佐藤さんの会話は視座が高くてテンポが速い、お互いに理解し合えてる部分は端折ってどんどん喋るから凄まじいスピードで会話が進んでいく感じがすごく好きです。ふたりがどこ見て何言ってるかわからないってファンの人も多そうですね。佐藤流司さんは頭が良すぎて都度状況を説明してあげないと置いてけぼり食らった気分になって怒っちゃうファンの子がいるのかもしれないですね。佐藤流司さんが速すぎるのかと勝手に納得しました。
おじいちゃんになっている自分たちみたいな高い場所から見た広い先が見えているふたりだからこそ、制作をやってみよう、新人を見出してあげなきゃ、って発想になるんでしょうね。

数多のオタクをメロメロにしてきた佐藤流司さんの記憶にはすっかりないと存じますが、私が「ミュージカル『刀剣乱舞』」に送り込んだ男性客に対してばちごりと撃ち抜くファンサをした加州清光に扮するあなたは、その顔立ちと愛嬌で男性客の心までもがっつり鷲掴みにしていました。私はその男性客が目をギンギンにして加州清光の画像をどアップに表示したiPadをかざしながら私に「この顔が!この顔が!」と必死でファンサ報告をしてきたときの鬼気迫る勢いが、生涯忘れられません。あの瞬間確実に、佐藤流司さんの功績が世間からの2.5の価値を1上げました。知らんけど。

佐藤流司という男のことを私は心から信頼しています。こんなに空気が読めて才能がある人がプレッシャーを感じたり精神的に弱っている場面を見かけることがあり、表に出る活動ってとても大変なんだなと痛感します。
賢いかわいいかっこいい佐藤流司さんのことを私も素直に好きですし、ずっと表に出て輝いていて欲しいな。2.5をはじめとした業界を牽引するおひとりであって欲しいです。応援しています!芝居も2.5も辞めないで!


◾️感想まとめ

荒牧さんは色々な経験を経て社会性が高く、真面目でとても頭が良い人だと感じます。大学を卒業して一般就職の道を捨てて2.5次元舞台の世界に飛び込んだ人なので、より一層周囲からの反発や排斥の体験はしんどかっただろうなとお察しします。
他者の目という壁を飛び出してチャンスを掴める勇気があった人だからこそ、他の人ではできないことができるし、ファンの気持ちがわかるんだと思うな。

でもそういうバランサーの実力がある荒牧さんの存在を、私の中で本気で認めた瞬間があって、そのときに2.5って文化になるのかも?と腹落ちしました。自分の中で2.5に対していい感情ばかりではなかったものが、剥がれていく感覚がありました。

漫画やゲームが大好きで長年オタクとして過ごしてきた私の中にも、見下されや偏見の目線を感じてきた悔しさがくすぶっているのだと思います。
しかし歴史を振り返れば、2.5のようなコンテンツだけでなく文化、生活、すべてにおいて、黎明期の新しい事を始める人には逆風が吹くものなんだろうなとも理解しています。

世の中は変化に対して向かい風が強いこと、頭ではわかっていても当事者は辛いですよね。
世の中や自分たちの立ち位置が俯瞰で見える人ほど、他の人が見えていない部分が見えている。根本の部分を変えようとして、見えない人から反発が起きるから、君主は苦悩するのだろうなと想像できます。

私事ですが、幼少期からオタク文化を愛していた私も、せっかく大学行ったのだから真っ当な就職をしろ、オタクを辞めて女の人生を生きなさい、という反発が辛かった記憶が根深いです。
今は、わかる範囲が広くてオタクなんて、たくさんの同胞オタクのために社会的アプローチができてはっぴー\(^_^)/と開き直って生きていますが。

荒牧さんのように物事が広くわかる人はしんどいこともあるだろうなと私は思います。ですが、周囲を大きく巻き込んで変えられる影響力がある、それも広く物事がわかる人だけだと思います。
勇敢だけど、他人の気持ちを慮れる本質的に優しい荒牧さんだからこそ、今後も2.5次元のトッププレイヤーやプロデューサーとして羽ばたいてほしいです。荒牧さんが活躍することで、業界やそれを愛するファンを光に導いてくれるのではないかな。

荒牧さんがもっと輝いて多くの演劇関係者さんや我々オタクを光の方角へ導き、救ってくれることを願っています。
羊飼いによって聖地の一番星に導かれし子羊より☆

日経エンタさん、ありがとう\(^_^)/

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