最終回のちはやふる
思うにほとんどの漫画は、漫画家が個人的に発見した「これ面白い!」から始まっているものです。
それは偶然発見したものだったり、経験して感じ取ったものだったりするのですが、「これ面白い!」「面白いコレが、まだ世界に知られてなくない?」という気づきがスタートです。
多くの場合はその『個人的に見つけた面白さ』に共感した編集者と一緒になって、あーでもないこーでもないと構成を考え、資料を集め、取材をして深め、祈るような気持ちで旅を始めるのですが…
ちはやふるの場合はその流れが逆でした。
「競技かるたを長年やっていた担当編集者」が、漫画家にその面白さを伝えるところから始まりました。
担当さんは「競技かるたの漫画をいつか誰かに描いて欲しくて講談社に入社した」と言っていて、
そんなことある??というようなその志望動機が私を始めに動かしました。
そこから私はさまざまな「これ面白い!」に出会います。
百人一首の中身の成り立ちの面白さ。
競技かるたのルールの面白さ。
競技かるたの男女比の面白さ。
競技かるたの年齢構成の面白さ。
競技かるたをがんばる人の熱意の面白さ。
自分の感じる「面白い」をかき集めていく取材の日々。
そして漫画家と編集者は「伝わらなかったらすぐ打ち切り」という厳しい連載の旅に出ます。
旅は命懸けです。
本当の命は懸けませんが、作品の命は懸かっています。
これまでどれだけの作品が「あんなに取材したのに打ち切りで日の目を見なかった。取材させてくれた人に申し訳ない」とお蔵入りしているでしょう。
連載スタート当初、見えていたストーリーは大体4巻の終わりくらいのものでした。
そこからもなお物語は伸びて、5巻で若宮詩暢が登場した時にはあの子たちはもう自分で勝手に動き出すくらいに「個」になっていました。
面白い子に、個に、たくさん会いました。紙の上で。
でもそれはきっと、取材の中でかるたを頑張るみなさんが見せてくれた「面白い」の断片で、その断片をいっぱいくっつけて乱反射するキャラクターが生まれました。
応援してくれる読者さんは、その漫画家が見つけた「面白いこと」を感じ取って作品を買ってくれています。
「これ面白い」と感じたものを、「面白い」と感じてくれる読者さんにパスできた、、、そう思う時、取材先のみなさんのエピソードが、語ってくれた想いが無駄にならなかったことに心の底から安堵しました。
1巻が出る時に、単行本の袖にこう書いたことを強く覚えています。
連載作品が私にとってどれほど特別か、本当に文章では伝えられないくらいの切実な思いがありました。今思い出しても眉間からこめかみにぐわーっと力が入るくらい。
まんがで伝わったでしょうか。
どれだけ苦しく、楽しく幸せだったか。
15年までの長い時間をもらえると思っていませんでした。こんなに長く楽しい時間を過ごせたのは、間違いなく読んでくれたあなたのおかげです。
最終話が出ます。
この旅は247首で終わりみたいです。
あなたのおかげで担当さんの夢が叶い、私に宝物ができました。
どうぞ、出来立てホヤホヤの物語のラストを受け取ってください。できればこの長い絵巻が、あなたの「外側のエンジン」になりますように。
↑ちはやふる48巻まで無料で読めるよ。そのまま247首までおいでよ。
↑毎日新聞の諸隈記者にインタビューして頂いた記事が出ました。福岡出身の諸隈さんは、何度も取材を重ねてくれた信頼している記者さんです。連載終了直後に諸隈さんとお話しできてほんとに良かった。楽しかった。
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末次由紀のひみつノート
漫画家のプライベートの大したことないひみつの話。何かあったらすぐ漫画を書いてしまうので、プライベートで描いた漫画なども載せていきます。
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