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「First Love」のパズルの一片を握りしめ沼に落ちる9月

2022年11月に配信が開始されていたのに、いまごろ見るNetflixオリジナルドラマ「First Love」。
体調を崩していた9月上旬、朦朧としながらリモコンを動かしやっと見たのです。

https://otocoto.jp/news/first-love1115/


そしたら。。。

ものすごく単純で申し訳ないのですが、たぶん人生が変わってしまいました。
私の。

物語が私の核の部分に触れて、入り込んできてしまった。

まだ見てない人に対してはどんなふうに、どこまで書いていいのかわからないのですが(だから早く見て)、
9月に入って5回くらいこの「First Love」を見たのです。

自分の中に入ってきた物語の要素を見つめると、【物語を語ること】と【あなたの物語にすること】の大事なエッセンスが見えてくるように思えたので、noteに書いておくことにしました。

誰かが言った。人生はまるでジグゾーパズルだと。
どんなキラキラな思い出も、運命の女神を呪いたくなるような理不尽な仕打ちも、人生にとってはかけがえのないピース。
なくした切符、12月のワンピース、青の時間という名のインクのシミ、冬の海岸の親密な時間、自分の名を乗せた火星探査機、同い年のポップスター、叶わなかった夢、実らならなかった恋、離れていった人たち
あの日の過ちも私の絵を埋めているの?
どんな出来事も、人生にとってはかけがえのないピース。
でももし、大切なピースをなくしてしまったら?

First Love第一話冒頭より


1999年12月9日、宇多田ヒカルのデビューの日に16歳の誕生日を迎える野口也英(やえ)のそれから22年間の人生がこの物語。
時系列がさまざまに入り乱れて16歳から40手前までの也英ちゃん(満島ひかり・八木莉可子)と並木春道(佐藤健・木戸大聖)の状況が私たち視聴者に語られていきます。

物語は緻密で、どのアイテムもセリフも単独での投げっぱなしにならず、どこかで波紋として広がり、目印として光り、宝物として再発見されます。

その細かさがあまりに見事すぎて、「5回も見てしまう」ような執念深い視聴者(私)を産んでしまう要因となってます。細か過ぎて丁寧過ぎて全部説明できない(だから早く見て)。

一番大事なシーンの話をしちゃうので、ネタバレが嫌な人はここから先は読まないでほしいのですが、


ライラックの花言葉は「思い出」「初恋の香り」

8話目の終盤で流れる「First Love」、ここが屈指の名シーンなことに異論がある人はいないと思います。
(満島ひかりさんの演技の猛烈なうまさは、その内面への引き込み力と言うしかないです。あそこにはほんとうに、也英ちゃんしかいなかった。)

也英ちゃんが16歳から何度も聞いたであろうあの歌、事故があった後も聞くことがあったであろうあのヒット曲、それでも開かなかった記憶の蓋が、「息子とイヤホンを分け合ってポータブルCDプレイヤーで聴く」というフラグが立ってやっと開きます。

あのシーンで脳裏に浮かぶショットの差し込み方に、私は初めて「物語の真髄に触れた」という気持ちになったのです。
也英ちゃんが見ていたもの、見ていたのに覚えていなかったもの、見ていたのに大事だと気が付かなかったもの、それらが1秒に満たない煌めきとして、身体の記憶としてフラッシュバックした瞬間。

目が合ったこと、見守られていたこと、涙を見たこと、笑顔が特別だったこと、悲しませたこと、あれらは全部視聴者として私たちが与えられていた情報で、彼らの物語を分けてもらえていた伴奏者として、主人公也英ちゃんの代わりに握らされていたパズルのピースだったのです。

パズルのピースを私たちが持たされていた。
うまくはまらなくて苦しんでいる主人公たちがそこにいた。

小泉今日子演じるお母さんが「也英ちゃんは私の特別な子」と送り出す瞬間のように、私たちも間違いなく也英ちゃんを応援していたのです。

「この子に幸せになってほしい」という気持ちに集約される見事な流れ。
私たちがパズルのピースを持たされていたのだから当然です。
「彼女たちの話」ではなく、「自分の話」になるほどの構成力に、何度も何度も真新しい朝が来た瞬間のようなまぶしさを感じました。

このキャラクターに幸せになってほしい」

どれほど深くそう思わせることができるか。
いろんな描き方がありますが、私が心惹かれて、何度も何度も立ち返りたいと思うのはこの部分なんだと、改めて強く教わった気がします。

過酷な運命に手に汗握り、不器用さに奥歯を噛み締め、小さな幸せに親友のように泣く。

物語が魅力的であるための肝はここです。

重ねられる細かな人物の癖、思いもかけないところをつなぐ繊細なエピソード、それらは全部「この感情と運命は本物」と作り手が信じて作り込むことで積み上がります。

運命の恋なんてみんながみんな出来るわけじゃない。

でも人生が一度きりならば、今そばにいる人を運命の人と思わないでどうするのでしょうか。今歩いているこの道を、この人生を宿命と思わないでどうするのでしょうか。

そんなふうに、なんてことない視聴者(私)の生き方にも波及してきます。
「人生は飛び込まなくっちゃ」と言った旺太郎の言葉に揺さぶられます。


北海道の美瑛に行った時の写真を掘り返してみたり


宇多田ヒカルは「同い年のポップスター」という枠を超えて、時代を変えた本物のスターです。
16歳の彼女が「Automatic」で世間の横っ面を張り倒した後、3thシングルで「First Love」を出したときもとてつもない衝撃でした。
「こんな歌をこの年で作ってしまって、この名曲に宇多田ヒカルは一生呪われるのではないか」と当時思ったことを今でも覚えています。
この歌を超える歌を作ることは決して簡単なことではない。
デビュー当時の煌めきを超えることができないアーティストは何人もいて、そのイメージがあって勝手に宇多田ヒカルを心配していました。

でも宇多田ヒカルの「First love」が宇多田ヒカルデビュー20周年の「初恋」につながり、ドラマ「First Love」の企画が立ち上がり、花火を一万本振り回して円環を描いたような強く輝く初恋の物語が生まれて、世界中に執念深い視聴者(私)を生んだこと。

そのときにまた気がつくのです。
堂々巡りをしているような日々でも、勇気を出せば、動けば、身体の芯から抱く夢は叶うこと。

也英ちゃんの一度も使ったことのない仕舞い込まれたパスポートにも、その先があったのです。

「時々ストリートビューで妄想旅行するの。ソファの上で行った気になってる」
「それ、そんなに難しくないですよ。道中退屈しないための本と、ポケットにほんの少しのお金さえあれば」
「マスカラと同じ。運命ってほんのちょっとの匙加減で変わっちゃうんです」

First Love 第9話より

磨かれた物語のようにわかりやすくはないけど、自分の人生を磨けるのも自分だけ。

「今度は君の物語を聞かせてください」

そう綴られた手紙をもらった気持ちになって、私もまた一世一代のラブストーリーを描かなけらばならないという気持ちになりました。
描けるかわからない、ではないのです。
物語の核に触れて、生まれ変わったような気持ちで生きていける、こんな幸せな物語の味わい方はないのです。

そんなふうな物語を、やっぱり私も作りたい。


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