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「それは私の仕事じゃないから」じゃないわ

7月7日の夕刻に出た4度目の緊急事態宣言。その波紋が、冷えた赤いグラデーションで周囲に広がっていくような七夕でした。

国が出した東京の緊急事態宣言で、一瞬で消し飛ぶ小中高の修学旅行の話。林間学校中止の報。準備をしていた生徒さんたちの涙を慰めようもない親御さん達の憤り。

赤く暗いのは、希望を奪われた悔しさの波です。

夕方にちはやふる基金の代表理事から「かるたの高校選手権は開催の方向ですが、もしこれで宣言が出た地域の高校が出られないなんてことになったら・・・」との話を聞き、目の中にバチンと電気が走りました。

例えば、30校を超えるかるた部が参加してくれた東京都予選。例年なら2校出場枠があるのに今年はコロナ対策で1校だけが全国大会に出られます。

そこには「たかが2が1になっただけ」なんてとても言えないくらいの無念さがあるのです。

それが「0」になるとするならば、その説明には圧倒的な説得力が必要です。

でもその東京でオリンピックはやる・・・?

どう説明すればいいんでしょうか、生徒さんに。予選大会でも、日常生活でも、感染症対策のためにいろんな不便を強いられ、その中でも気を遣いつつ競技かるたの練習してきた生徒さんの毎日に。

オリンピックのために来日する報道関係者には14日の隔離期間がないことも、選手村では飲酒がオッケーという報道も、予定されていたワクチンがぜんぜん数が足りないことも、営業時間を短縮される飲食店の保証が全く追いついていないことも、それなのに東京都議選の投票率が42.39%で史上二番目の低さだったことにも、全部に無力さと怒りを感じているのに、

私はどこかで「でもそれらに文句を言うのは私の仕事ではないんじゃないか」と線を引いていました。

声をあげてくれている誰かを見守ったりRTしたりすることはあっても、自分の言葉で強く示すことは「それは私の仕事とは違う」のではないかと一歩引いて。

それがどれだけ消極的で卑怯なことか。

かるた高校選手権に際し、緊急事態宣言が出た地域の代表校はどうなるか?という影響が迫ってきてやっと「それはひどい」と言わなければと思えるほどに、私は残酷でした。

自分自身納得のできないこと、怒っていること、それをちゃんと言葉にしなければ、大丈夫だと思っていた足元さえも失ってしまう。

楽しく元気な物語だけを描いていくのが仕事なんて言っていられなくなるのです。

ちはやふる基金という競技かるた支援のための組織を作ったのは、漫画を読んでかるたを始めてくれた若い選手皆さんを応援するためです。参加者が何倍にも増えた高校選手権の運営が厳しいことを知り、その盛況と運営の苦労は私にも責任があると思ったからです。

社会に対して「こうなってほしい」と思うのならば、「これは私の仕事じゃない」ともう言っていられない。残酷な線引きをして、まだ奪われてない仕事を大事に守って、それで読者と物語を守ろうとしていても、結局それは単なる保身にすぎません。コロナ禍で強く感じるのは、世界は繋がっていて、どの悲劇も自分と関わりがあるということです。

決まりに従う諦めの良さも、怒りをおさめる冷静さも必要な時がありますが、「ふざけんな」と言うべき時に言うのが選挙権を持つ人間の振る舞いです。

コロナは憎いですが、もっと憎いのは「まあ仕方ないよね」という現状維持の空気です。仕方なくなんかないし、出来ることはあるし、のびのびとスポーツも趣味もエンターテイメントも楽しむ権利があるのだと、バランスを欠いた政治の決定に言っていかないといけない。

個人的な怒りを人に伝えることにどんなプラスの効果が、と思いつつも、同じように怒りを言葉にすることをためらう人にも受け取ってほしい気持ちです。

オリンピックができて、修学旅行や文化祭や競技かるたができない矛盾を、子供達に渡したくないのです。

(緊急事態宣言が出た地域の高校の出場は関係各所で検討中ですが、最大限決定校の出場が叶うよう求めていきたいと思っています。どんな決定をしても、それに対する批判がある・・と責任のある団体はいつも各所に配慮をしています。どこも大会と生徒さんを守りたくて、ギリギリのところでの判断を迫られつつ踏ん張ってくださっています。見守っていただけたらと思います)


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