絵を解放することと絵を消費すること
二日かけて絵を描いていました。
絵を描き始めると、「ああ私はやっぱり絵を描きたくて生きてるんだな」と言うしかないような、特別な時間が自分を包みます。
思うようにいかない筆運びに落ち込みもするし、色の選択を間違ったかもと引き返したくなる瞬間もあります。15分じーっと絵を見て迷って想像して選んだ色が調和の末に溶け込んで、泣きたくなるほど嬉しくなる瞬間もあります。
世に絵の上手い人はたくさんいて、それに比べたら全然描けてないとしょんぼりしたりもするんですが、
1人きりでたくさんの筆とペンを持ち替え持ち替え持ち替えて、「いま、ここ」にだけ存在することを一番楽しんでいる自分がいることを感じます。比較のない世界では、絵を描いてる瞬間が一番幸せです。
最近00:00studioさんで「絵を描いている今、ここ」のライブ配信もしてみました。
見てくださる方々とコミュニケーションを取りながら描く絵はとても新鮮で楽しいものでした。思った以上に海外から見てくださる人がいることに驚きました。コメントと、差し入れのアイコンがやっぱり嬉しくて、心がフワッと踊ります。
何回かに分けてライブ配信で一枚書き上げたので、その後の新しい絵をどうしようかな、とTwitterでアンケートをしてみました。
5分間で終わるアンケートでしたが、171名の方に回答いただけて、結果が出ました。「のろのろライブ配信 37%」「ダーっとタイムラプス 63%」。
なるほど、そうか。了解。と思って、作画している時間をずっとiphoneのタイムラプス機能を使って録画しました。休憩などを挟んで6回に分けて撮られた動画になりました。
絵を描き終わって、動画を簡単に編集しました。ぎゅうっと圧縮されたタイムラプスは毎回30秒程度だけれど、6回をまとめると180秒になります。そのままだと長いかなと思ったので、またぎゅううううと圧縮して編集して47秒にまとめました。
「タイムラプスがいい」とアンケートに答えた皆さんが63%ということでわかることですが、今はとにかく時間の奪い合いです。ライブ配信を何時間も見続けることは難しい。完成形まであっという間で見られるなら、そのほうが情報として価値があるということなのでしょう。
しかし、タイムラプスで撮られた動画をまた四倍速にしたのを見た時、これまで感じたことのない気持ちになりました。
ある意味で、初めてしっかりわかったのです。
「これは消費だ」
「わたしはこの絵を消費してもらおうとしている」
どんな絵を描こうかな、という構想から考えれば、22時間ほどかかった絵です。長いわけではないですが、短くもない。その時間にかけた逡巡も集中も後悔も喜びも、47秒の動画には残りません。
「こういうふうに書けばうまく書けるよ」
「作画にはこういうテクニックがあるよ」
というHow toを紹介する動画ならば、余計な情報のないまっすくな47秒の動画のほうが正解でしょう。でも私の絵はそういうHow toの要素をうちだしたものでもなかったのです。
ただ単に出来上がっていく絵が見れるだけ。タイムラプスの撮り方の単調さから伝わるのは「へ〜」という感覚だけでした。
どこかにアップしたら喜んでくれる人はある程度いるかもしれないと思いつつも、簡単にアップロードすることはできませんでした。
私はアーティストではなく漫画家です。「漫画は読み捨てられるくらいでいい」、と思ってたくさんの絵を描いています。でもその気持ちのすぐ後ろで、「それでも、100人のうち1人には100回読まれるような作品を作りたい」という思いがある。欲があります。
雑誌に一度だけ乗るカラーイラストの掲載料は、掲載場所で差はありますが白黒の原稿料の2倍〜3倍ほどです。販売等をしなければ、雑誌に絵を描くことで得られる収入はそのくらいです。それでもその一枚に何日もかけています。愛情と苦悩と喜びがこもっています。
私はどうやったらその絵を消費しないでいられるのでしょうか。丁寧に扱うしかないと思いつつ、普通に丁寧に扱えば、雑誌に一度載っておしまいです。
一枚一枚に魂をかけて、漫画自体に情熱をかけて、たくさんの人に愛されるものにしていくしかないと、当たり前のことに立ち返ります。
そうすることでしかこの絵の寿命を伸ばせない。見てもらうチャンスを広げられない。
出し惜しみをすることがマイナスになりがちな世界で、それでも「消費」になってしまうような出し方には敏感でいなければならない。想いを伝える努力と工夫をしなければならない。
絵を描く呼吸があって、その瞬間考えていることがあって、悩んで決断していることがある。そういう「温度」の乗る表現を、作画しながらもしていけたらと思います。
いい絵が書けたと思うからこそ感じたことを、つらつらと。
ここから先は定額購読の皆さんにだけ解放する部分ですが、せっかく編集したので47秒の絵のメイキングを載せてみます。
ものすごくあっという間にできていく魔法のような動画に、22時間格闘した私は「早すぎるぅぅぅ😂」となります。このくらいで描けたらいいな!
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末次由紀のひみつノート
漫画家のプライベートの大したことないひみつの話。何かあったらすぐ漫画を書いてしまうので、プライベートで描いた漫画なども載せていきます。
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