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読んでもらうためにはどうしたらいい?

私が料理人であるならば、
「今めっちゃ旬なのは鯵!たたきにしても焼くにしても旨味が乗ってて最高。鯵を選ぶときまず目を見るんだ。生き生きして黒く澄み、光っているものを選べ。甘じょっぱいたれにしっかりと漬けたアジの刺身を、ご飯に乗せて食べるのが最もおすすめだよ」と言うでしょう。

でも漫画家なので言いたい。
「ちはやふるをいつか読むんなら、絶対今だよ。なんてったって最終回前だからね。最終回の直前って、こんなに美味しいタイミングあるかい?」

私はホラー映画が好きで、すごく怖い映画を見て「なんでこんなの見ちゃったんだろう」と思いながらまた違う怖い映画を見てしまうという楽しみ方をします。そしてあまりに落ち込むと「プラダを着た悪魔」を見てコンディションを整え直します。

挑戦的で刺激的な映画を見て「うわあやられたー」と倒れ込み、回復薬のように「プラダを着た悪魔」を摂取するのです。
その回復薬があるからむちゃくちゃ怖そうな作品にも向かっていけます。なんならもう再生機器は何もなくても脳内で「プラ悪」が自動再生ができるくらいです。(「プラ悪」とか初めて言いました)

そして、自分の漫画が誰かの「プラダを着た悪魔」になれたらどんなに幸せなことだろうと思うのです。



仕事がうまくいかなかった時も、自分の頑張りではどうにもならないことに見舞われた時も、自己嫌悪がどこまでも止まらない時も・・・・
どこか一冊でも読んでもらえたら心の一部が回復するような、そんな作品に。

ホラーの巨匠スティーブン・キングは言います。ホラーにおける「敵」は3種類に分類されると。
■ドラキュラ(外側からやってくる敵)
■フランケンシュタイン(自分を作った敵)
■ジキルとハイド(自分の中にいる敵)

千早にとってライバルの詩暢はドラキュラ(外側からやってくる敵)であるし、新にとって祖父はフランケンシュタイン(自分を作った敵)であるし、太一にとっては過去の自分がハイド(自分の中にいる敵)です。

あなたにとっての敵も、このうちのどれかなんじゃないでしょうか。

各々の「敵」をどう乗り越えるかを50巻かけて描いてきました。
敵さえも幸せにできる戦いがあると信じて。

これまで連載を一緒に追いかけてくれた方はお分かりかと思いますが、
傾きを決めない天秤に乗る、最後の砂金。
それが乗るのはどちらの皿かというのが、もうほぼ今すぐにでも読めるのです。
7月1日発売のBeLoveで。


スティーブン・キングはまた言います。
現実の恐怖と折り合いをつける手助けをするためにホラーを作るのだ。』

私は自作に対して言うでしょう。
『現実の情熱の居場所を見つける手助けをするため漫画を作るのだ』

ちはやふるは情熱に対しての物語です。かけがえのない何かを見つけてしまった者と、それを持てない者の話です。
現実の世界でこれほどまでの情熱を抱くことが難しいから、架空の世界での奮闘を見守れるのだ、という話ではありません。
心の中の子供を、深い眠りについている子供を、揺り起こすのです。君の名は情熱であると教えるチャンスを私にください。

リカチ先生講談社漫画賞おめでとうございます!!!

一足早く我が家に届いた最新号のBelove。昨夜のうちにこれを読んだ家族が、私が寝ているベッドに駆けつけて言います。「これで49巻で終わるってよく思ったね!?全然終わらねーよ!でも君は天才だよ!」

だったらいいなあ。私はただただ、あなたに届けたい。

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