漫画家のリアル朝礼から見えた景色
22日の日曜日に行われた「漫画家のリアル朝礼」のことを、記憶が新しいうちに書いておきます。
新宿のロフトプラスワンで行われたリアルイベントは、ツチノコ漫画家(愛内あいる先生が書いてくださった力作!かわいい!!)の宣伝漫画でよくわかるのですが、いつもは人に会うことも顔出しすることも少ない漫画家が9名一堂に会してのトークイベント。
平日の朝に行われている【漫画家の朝礼】clubhouseがインターネットから飛び出しての企画でした。本当は1月に予定していたものが、コロナの第六波で3月に延期になり、5月に延期になり・・・やっと実現したのです。
「ほんとにやるのかな」とみんなが思っていたものが、二週間前から準備が加速。
なかはらももた先生と冬乃郁也先生がイベントに慣れていたのがとても光る時間が始まりました。そしてモデレータとして部屋を管理してくれている𥱋瀨さんがどんどん整えて進めてくれる裏朝礼DM。
「Tシャツ作りましょうよ」「缶バッジ作りましょうよ」「企画がなんか必要ですね」「視聴者へのプレゼントも作りましょうよ」
こう言った提案が提案されるだけじゃなくて、「じゃあ〇〇のサイズでラインは1ミリでアイコン風なのをみなさん書いてください」とフォームも用意されていく・・・・
そこにすぐさま「了解。描きます」とイラストをアップする漫画家たち。即日で整列するアイコン。
いや絶対これいつもの仕事よりレスポンスがはや・・・
いつもの仕事がゾウ亀だとしたら、この仕事の速さはダービー馬・・・。
私たちが本当はかなり「やればできる」ことがバレてしまう。
裏を返せば(自粛
私なんかは「出せ」と言われたものを「ハイっ」と言って出すくらいしかできなかったのですが、他の先生方の動きが本当に素早くて能動的!!
どんどん作業は仕上がっていって、お客さんにアピールするための漫画家さん各人の宣伝活動&Twitterのspaceトークの甲斐もあって、75名の定員は無事完売となりました。すごい。ありがとうございます。
でも恐ろしいことに、当日の朝起きたら9:10。9:40には家を出るのに!!!このスットコドッコイが!!と出かける準備をしてたら、Apple Pencilがない。また!?またなくなったの!?今日絶対いるのに!
仕方なく家族のApple Pencilを借りて、朝ごはんも食べず出かける電車の中。あれも忘れたこれも忘れたが走馬灯のように頭の中を駆け巡ります。死にそうになることはあんまりないんですが、「あれもこれも忘れた走馬灯」はしょっちゅう見るので、もう何度か死んでる計算になる気がします。いいかげん生まれ変わったらいいのに。
そしてなんとか新宿のロフトプラスワン。ライオンのような金髪で尖った靴のお兄さんが眠そうに歩いています。そうここが歌舞伎町。地下に入るのが惜しいくらいの晴天!
イベント会場は、ライブハウスのようであり「トークイベント専用」らしく掘りごたつ式の壇上で、面白い仕組み!奥には桟敷席があって、2箇所に分かれて漫画家が座ることに。途中で席替えがあります。
サイン会をさせてもらった時も、生きて歩いてるファンの方が目の前に来てくださることがもうとんでもなく生き生きとした体験で、緊張するやら嬉しいやらでなんていうか、発射前のロケットの中の宇宙飛行士並みに感情が忙しかったんですが、たくさんの方が集まってくれるリアルイベントというのはまた違って・・・・
見えるんですよ。皆さんのことが。
当たり前かもしれないんですが、頷いてくれたり、笑ってくれたり、喋る人の方向に体を動かしたり、そうやって反応してくれていることが全部見えるんです。
まるで大きな鯨の体内に一緒に飲み込まれた同志のような、または同じ生き物の中の細胞になれたみたいな、そんな不思議な感覚がありました。
なにせclubhouseの毎朝の朝礼は70〜40人くらいのリスナーさんで毎朝やっていて、いつもかなり正直に「いまやっていること、悩んでいること」を話している場。もしかしたら編集者や家族よりも、「今日の悩み、今日のタスク」を知っている皆さんなのです。
その皆さんが、同じ空気を吸って同じ場で同じ話題に笑ってくれている。
なんかあらゆる反応が伝わる速度が早い。漫画家さんたち同士もそう。
いわゆる「話が早い」。
なんでしょうこのホーム感。
積み重ねてやっと達成できる連帯感なのかもしれません。
「大人の文化祭みたいだね」と先生方皆さんでお話しして、何度もそんな言葉が出て来ました。
漫画家はたぶん、文化祭の中心メンバーになれない・ならないタイプの人が多い気がするくらいに、基本陰キャです。陽の当たる大きな行事に背を向けて来た日々しか記憶にありません。
でも・・・・
勇気を出して飛び込んだ方が楽しいことは多いのだと、ツチノコだった自分に言って回りたい。中学生でも知ってるようなことを、ここまで来てやっと実感するとは。
積み重ねてやっと達成できる・・・・といえば
「登壇者の本だったらどの本でも、一人一冊持ち込んでもらえたらサインします」ということで、お客さんに希望の本を持って来てもらったのですが、
私のデビュー作の単行本を持って来てくれた方がいて、しかも初版。
初めての単行本だったのでよく覚えてるんですが、2万5000部しかない初版本(今考えたら多く感じますね?!その頃漫画にとっていい時代だったのです…)
その奥づけには1995年の文字。27年前の一冊・・・・
「こんな機会でもないと、この一冊にサインをもらうことはもうできないと思って・・・」と差し出してくれた貴重な単行本を見た時に、本当に手が震えました。自分の家にももうあるかわからないのに。
他にも「これをお持ちだなんて!」というような懐かしい単行本、思い入れのある1話がある単行本を皆さん持って来てくださってたのです。思いや愛情の底知れなさをこんなに強く濃く感じる瞬間が、新宿の地下で起きるなんて。ちょっとビックバンが起こってました。私の中で。
見えないところで積み重ねて来た時間が、ブワッと目の前で火花みたいにはじけて、また私の手から持ち主の皆さんのところに戻っていく・・・。
「こんな大事な一冊へのサインに、とんでもない作画ミスをしたらどうしたらいいんだ」とず〜〜〜っと思いながら、一冊一冊サインさせていただきました。こわくてこわくて幸せ。なにそのホラー映画の流れる結婚式みたいなの。
素敵な瞬間はまだあって、小沢かな先生の折原みと先生への思いの丈を語る時間が一番最後に待っていました。
13歳で初投稿する時のペンネームは、折原みと先生にちなみたくて「りと」という名前にしたこと。初投稿作の主人公の名前も折原先生の「卒業までの1000日」の主人公からつけたこと。「折原です」と自己紹介の時に言うのが折原先生のスタイルだったのを見習って、「小沢です」とデビューしてからずっと自己紹介していたこと・・・・・。
みんなもらい泣きですよ。
私もですが、お客さんも「ええ話や・・・」とうんうん頷いている。誰かを大好きになって、その気持ちと一緒に育ち、大人になってもその思いが消えず応援を続ける気持ちを、ここに来てくれた皆さんはみんなわかってる・・・・。
歌舞伎町の地下に楽園が生まれた瞬間でした。
愛内あいるせんせいは受け答えがとてもハキハキ気持ちのいいかわいこちゃんで漫画もうまいし紹介漫画のツチノコかわいすぎだし、
冬乃郁也せんせいはあらゆる話がロジカルに整理されてて「頭がいいってこういうこと?」と唸らされるし「ネームを感情曲線で書く」話なんかやったことなさすぎて学びが多いし、
ひうらさとる先生は私が一番「こうなりたい」と思う漫画家の姿でそれがなんとそう思ってから35年変わらないし(35年・・・・・?????)
小沢高広先生はいつも優しく冷静に面白がりながらGOとNOを教えてくれるしメリットとデメリットもしっかり言ってくれるし声が校長先生だし、
妹尾朝子先生は目を見張る運動神経とバランス感覚を持ちつつ時折見せる臆病さにいつも萌えてしまうし髪色のオシャレさは尋常じゃないし(当日は深〜〜い紫だったんですよ。濃いアメジストみたい)
折原みと先生は、私の中でもレジェンドなのに、わたしが変なマスクをしててゼロ巻きが食べられないのを悲しんでいたら「これで隠す?」と冊子を開いて隠してくれて・・・・そんな優しさある?あるんですよ!折原先生はどのエピソードも優しさでできている!
なかはらももた先生はずっと店員さんかのような働き者っぷりで、声も一番出ていて機動力も一番で、ファンの皆さんと接する呼吸の素晴らしさも輝いていて、ほんとにYouTube登録1000人をみんなで願う流れになり、
そして𥱋瀨さん・・・!この中で唯一漫画家でない方なんですが、幾つもの顔を持つスーパーサラリーマン。朝礼の土台であり屋根であることを強く感じる今回のリアルイベントでした。本当にありがとうございました。
長々と書いてしまいましたが、言いたいことはたった一つ・・・。
チャンスがあったらいつでも飛び込んでみたらいいよ。リアルなことは特にだよ。極上の楽しさがきっとあるよ。
現場からは以上です。
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末次由紀のひみつノート
漫画家のプライベートの大したことないひみつの話。何かあったらすぐ漫画を書いてしまうので、プライベートで描いた漫画なども載せていきます。
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