頑張りすぎる人が壊れないために
ちはやふる基金で予約販売をしていた冬の青春セットというものがあります。こちらはオリジナルエコバックとペンケースとちはやふる48巻(サイン入り)を1000セットご用意するというもので、皆様のおかげで1月中に無事完売となりました。
ちはやふる基金の活動に優しい応援をいただき、メンバー一同深く感謝しております。ありがとうございます!
そして2月10日にちはやふる48巻が発売になったのですが、11日に基金セットが届いた方もいれば、いま現在サイン本がまだお手元に届いていない方もおられる状況です。お待たせしてしまい大変申し訳ありません。
1000冊のサイン本を作るということがどういう作業か、記念に勢いよく noteにまとめておきたいと思うと同時に、
私が今回感じた「ああこうやって人は壊れていくんだ」という予感と、「それを止めるにはこうしたらいいんだ」という方法を書いていきたいと思います。
思えば、楽しくも過酷な二日間でありました。
◼️1000冊の漫画のシュリンクを剥がす
まずなにが大変かって、これですよ。漫画にいつもかかっている薄いビニールのカバーを1000冊分剥がすのです。印刷されてシュリンクのない状態のものを貰えたらよかったんですが、そういうこともなかなか難しく、講談社の会議室を借りて基金メンバーのほか出版社社員さんにもお手伝いいただき、必死のシュリンク剥がしの作業。指サックが必須で、静電気との戦い。剥がして剥がしてどんどん捨てられていくビニールカバー。想像を絶する戦いが繰り広げられていました。
・・・・と書いていますが、私はその後のサイン入れの作業に備えるべく、自分の仕事場を掃除していました。
その時に大発見が。
春に発売予定のわたしの百人一首勉強ノート(発売予定なんですよ、信じられない)に収録されて然るべきページが、裸でぽーんと仕事場に放置されていました。
一首ごとにノートを作ってルーズリーフにまとめていた個人的な勉強ノートなんですが、藤原定家、紀貫之、和泉式部、権中納言敦忠などなど、有力な百人一首の歌人のノートが残っていてはいけない場所に残ってる。ありえない。
あわてて担当さんに連絡してお渡し。
シュリンク剥がしの戦士になる予定だった担当さんは大慌ててその場を離れ、出版してくださる予定の別編集部に「まだこのページを入れるの間に合いますか」と走ることに・・・・。すみません!!
よかった、今見つかって本当によかった。百人一首勉強ノートなのに、藤原定家さまが入っていないという恐ろしい事態になるところだった。
そんな薄氷を踏む思いのする現場。シュリンクが剥がし終わった単行本が基金メンバー有志のレンタルした大型車に乗って仕事場に届いたのは2月7日午後3時半。半分の500冊が届きました。
ここから突貫工事でサインと特製スタンプ&ナンバリング付けが行われます。ナンバリングとは、購入者さんと単行本のナンバーを紐付けるためのもので、ここに間違いがないように繊細な注意が必要になります。
スタンプの作業が思った以上に重労働なのです。均一にインクが乗るようにと思うと、じっくりと全身を使って力を込めないといけません。
途中私たちの心を乱したのは、北京五輪の男子フィギュアショートプログラム。その時ばかりはしばし手を止めて見入りました。精神と肉体の限界と闘う選手皆さんへの尊敬が溢れ出します。
「肩が凝るな」なんて言っていられません。
発売日の2月10日にできるだけ近い日付で皆さんの元にお送りしたい・・・!という一念で、7日のうちにできる限りの数をグッズの配送を担ってくれてる会社に送り出さなければなりません。
フォーゼロスタジオで配信しながら、キャラクターのリクエストにお応えしつつサインを書き(だいたい10冊に一冊くらいキャラクターイラストを描くようにしていました)
この日は夜7時までの作業で240冊を送り出すことができました。
二日目はそこからのこり760冊のサイン。
◼️2日で1000冊にサインとメッセージを書く作業
サインを書くよりもスタンプを押す作業の方が早く(スタンプは三つあるから)二日目のお昼過ぎには1000冊のスタンプが押し終わりました。(基金みなさんの努力に感謝!!ありがとう!!)
あとは私がサインを書いてから、ナンバリング。
ああどんどん描かなければ・・・・。
手を止めない私の前に、100冊ごとにお菓子が差し出されます。
私の好きなお菓子がフルコースの一品一品の料理のように、時刻やテンションに沿って差し出されます。このお菓子をコーディネイトしてくださったのは歌人の天野慶さん。
つまりは「休め」という合図。
私はやっぱり頑張りすぎてしまうタイプなのです。このくらい普通だろう、と思っているのですが、その普通がもうおかしい。10時間机について、10時間ペンを握ってしまって、まさに「根を詰める」働き方をしてしまう。
もっともっとがんばらなきゃと思っている人間が「手を止めて休んだほうがいいよ」と言われたらどう思うと思いますか?
「うっせーわ」と思っちゃうんです。
もっとやれる、もっと走れると思っている人間に思いやりの気持ちは通じません。
「もっと頑張れるのに止められた!」と恨まれるだけです。頑張り屋といえば聞こえはいいですが、一言で言ったら仕事人間は人でなしです。
◼️おやつの時間の大切さ
でもそこで「おやつの時間ですよ」と好きなものを差し出される…
え?うれしい・・・・
え?なにこのきれいで素敵なお菓子・・・・
止められて「うっせーわ」となりそうな心がほろりと丸くなる・・・。
天野慶さんはおそらく頑張りすぎてしまう人をたくさん見てきているのでしょう。一番作業が過酷になる二日目の夕方に「蒸気でアイマスク」を差し出して、「いま、少しでいいので目を休ませてください」と提案することも忘れません。
仕事柄こういうマスクを貰うことも度々あるのですが、正直言って2度くらいしか使ったことがありません(寝る直前とか)。目を閉じてできる仕事がないからです。目を閉じたくないんです。休ませるという発想がもう「敵」くらいの気持ちがあることを感じました。
私がサインを終えるのを次の作業のために待っている基金メンバーがいることが目の前に見えるのに、どうしていま「蒸気でアイマスク」をして手を止めることができるのか!?
しかし、たくさんのお菓子を用意してまで私を休ませようとしてくれている天野慶さんの存在が、気持ちが伝わってきます。
「休んで・・・・!無理をしないで・・・・!」
私は装着しました。「蒸気でアイマスク」を。
手を止めて、じんわり本当にあったかくなってくるこのアイマスクに、目を労ってもらうことにしました。私の目は何も映しませんが、その場にいる基金のメンバーみなさんが心なしかほっとするのを感じました。
目を蒸気の力で温めてもらいながら、頬杖をして思います。
休むのって勇気がいる。
休むためにはだれかの愛情がいる。
頑張りすぎる人が壊れないためには、ペースを見つめて止めてくれる人が必要・・・。
それをたった一人でできる人もいるかもしれませんが、長い間ずっと、と思うと難しいときがあります。太陽やペットや他の家族などの自分以外存在のペースとあわせることが、長く活動を続けるために大切なのです。
目の前しか見えず「うっせーわ」となりそうな時に、勇気を持って休めるように、いつでも心に他者を。自分を大事にすることが自分以外を大事にすることになるのだ、と思い出せるように、ここに書いておきます。
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末次由紀のひみつノート
漫画家のプライベートの大したことないひみつの話。何かあったらすぐ漫画を書いてしまうので、プライベートで描いた漫画なども載せていきます。
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