見出し画像

説教されたくなったら会いに行く

みなさんお気づきでしょうか。
まさに今が秋の大トロ、秋の霜降り、秋のシャトーブリアンであり、秋のスイカの真ん中部分だということを。
つまりは気温・湿度・晴れの多さともに年内屈指「秋サイコー」のど真ん中。
いかがお過ごしでしょうか。

いきなりですが秋色のポスターが映える「ミステリと言う勿れ」の映画レビューをしたいと思います。

本当は9月公開してすぐ見に行って、「やっぱり広島編はドラマより映画向きだったー!整くんは整くんだったー!」と納得してホクホクしていたのです。素晴らしく大ヒット!そのおかげか、思いもかけぬ様相をSNSで見かけることが増えました。

整くんのキャラクターについて、主に男性が「こんなキャラ男にいない。いたら男社会から排除される」「男のヒエラルキーの中でも最下層に押しやられる」「男なのに目線が女」「ポリコレ発言を繰り返すアフロ」と言われている・・・。な、なぜ・・・。

物語をちゃんと追ってキャラクターをわかっているひとならもう言わずもがななんですが、整くんは作中でもしっかり「友達が(ずっと)いない」のです。
男性社会というか社会全体からすこし乖離した立ち位置にいます。

「家に人は来ないし、友達がいなくても快適に生きている」キャラです。
人と同じお風呂(温泉とか)に入ることも嫌だし、人に自分の洗濯物を洗われるのも嫌だし、水泳などで裸を見せるのも絶対イヤ、人の家に泊まることも絶対イヤ。
過去に起因する何かの要因があって、人に決して懐かないふわふわアフロのオオカミなのです。

整くんが人をなかなか受け入れられないように、漫画でも現実でも「こんな奴受け入れられない」という人ばかりのなかで彼は生きています。

でも映画は大ヒットしているし、我が家の男子も女子も整くんが大好きです。整くんの映画見に行こうね、とずっと楽しみにしていて、漫画も読んだしドラマも何度も見返していました。
小学生の男子には「受け入れられない」という感覚はなく、整くんはそばにいたらめんどくさいかもしれないけど自分を持った面白い人。

整くんにはしっかりとしたキャラクターがあり、私も作中の刑事さんと同じように、自分たちと違う視点から「常々考えていたんですけど」と整くんが言ってくれるのを待ってまうし、繰り出される思考のアウトプットをおとなしく聞いてしまう。
これまで言葉にできなかった違和感に、深い根があったことを教えてくれるのです。

仕事と復讐のベクトルは同じだから、薮さんにとってやりがいのあることだった。でも生きてる時の家族に関わることにはやりがいが見出せなかった。

子供を産んだら女性は変わると言いましたね。
問題はあなたが一緒に変わってないことです。

「ミステリと言う勿れ」一巻より

子供をスパイにしちゃダメです。自分が話したせいで親の足を引っぱってしまったことを、一生悔やむから。
子供って乾く前のセメントみたいなんですって。
落としたものの 形がそのまま跡になって残るんですよ。


‘’女の幸せ‘’とかに騙されちゃダメです。男の幸せって言葉がない時点でおかしいですよね。
もし本当に家にいて家事と育児に専念することが楽で幸せだったら、男の人もやっているはず。
‘’女の幸せ‘’って言葉はおじさんの理想と願望で
おじさんがいってるだけの言葉だ。
そんな言葉を真に受けなくていい。

「ミステリと言う勿れ」広島編より

「ミステリと言う勿れ」は、説教されたくなった時に見る作品です。
なんなら小学生でさえもその説教が聞きたくて映画を見てるし、ドラマを見ています。

整くんが物語の後半で言う「ずっと考えていたこと」は、物語のエピソードに関わりつつもそこを超えて、人間の弱さや卑怯さに触れてきます。そこに無自覚だったことを「ああ、そうか」と受け入れられる人だけに響くよう(その他の人にはムカつくように)に差し出してきます。

この物語を好きだと思う人はきっと、心がまだ「変わりたい」と思っていて、足元の不確かさの理由を知りたいともがいている人なのではないでしょうか。
子供も大人もこのめんどくさい整くんめんどくさいけど出会いたいと思っているように見えて、大ヒット(今現在37億円のほんとに大ヒット)をよかったなあと喜ぶ自分がいます。

田村由美先生は私が学生の頃から尊敬する素晴らしい少女漫画家です。
一見普通に見えてやばい人間を描くのがとても上手な先生だと私は思っています。
人には多面性があるということをとことん中心に持ってきます。

そしてそれを「そんな見せ方で?」という盛り上げ方で暴いてしまうのです。
その構成力、キャラクターの精神を裸にさせる展開の見せ方、読んでる側がゾッとしたりハッとしたりする展開が田村由美先生はたまらなく得意で見事なのです。

少女漫画のカテゴリの作品を「こんな男いねえ」という男の人もいますが(わたしも青年漫画の女性キャラに「可愛いけどこんな子は現実にはいないな」とよく思っています。そしてそういうものだろうとも。)、少女漫画だろうがなかろうが琴線に触れれば素直に心を開く漫画読みの老若男女みなさんのことを頼もしく思っています。

田村由美先生の長期連載作品は情熱的で熱いものが多いのですが、「ミステリと言う勿れ」はクールでシリアスな筆致で進みます。
整くんはいつも厚めの服を着ているので、もしも夏が舞台になったらどうするんだろう・・・と心配してしまうくらい冬ばかりで進む連載作品です。

作品に合う合わないはもちろんあるのですが、ドラマも映画ももちろん漫画もおすすめなのです。
「よくこのロケーションを見つけてきたなあ」と感心するくらいいろんなロケ地を繋ぎ合わせて漫画の世界観を作り上げ、柴崎コウ、町田啓太、萩原利休、原菜乃華、松下洸平のキャスティングで「これぞ映画だ」という華を散りばめた「ミステリと言う勿れ」、劇場公開している今駆け込んで観るのも良いのではないでしょうか。

広島編の中で、特別に光る宝石に思えたセリフがあります。
「これを言われたことで救われる人がたくさんいる。私も」と、手を握り締めました。

下手だと思った時こそ、伸び時です

「ミステリと言う勿れ」広島編より


「下手だと感じるのは上手くなってきたからだ」と。これから上手くなるタイミングなんだと。
下手だと思った時に投げ出さなかった人だけが伸びていくことができるんだ、というこのメッセージは、
伸びてゆきたい全ての人の背中に、綺麗でしなやかな骨を添えてくれるでしょう。


いつも購読ありがとうございます。
有料部分はこの秋見たもう一本「マイエレメント」。
ディズニーの本当の魔法はこの惑星級のイマジネーションなのではないかと思ったことについて書きました。よかったら読んでみてくださいね。

ここから先は

1,249字 / 1画像
多分長生きしてしまうので、ひみつのないしょ話に付き合ってくれる愛情深い人だけ購読お願いします。ちはやふる基金の運営と、多方に寄付活動もしているので、その寄付先を増やします。どんな方が読んでくださってるのか知りたいので、コメントくださったら覚えます。

末次由紀のひみつノート

¥800 / 月 初月無料

漫画家のプライベートの大したことないひみつの話。何かあったらすぐ漫画を書いてしまうので、プライベートで描いた漫画なども載せていきます。

サポート嬉しいです!ちはやふる基金の運営と、月に3本くらいおやつの焼き芋に使わせて頂きます。