幸せな仕事をしたので見てくれ3(漢和辞典編)
かつて漫画で「暇だからネットサーフィンでもするか」というセリフを「ちょっと古いので『ネットしとくか』に変えませんか」と編集さんに指摘されて直したことがあります。
「ネットサーフィン」みたいな新しい言葉がもう死語に!と慄いたものですが、でも辞典をめくり始めると「これはネットサーフィンならぬ辞書サーフィンではないか」というくらい辞書の海を右往左往。
そしてそれが頗る楽しいことに気が付きます。
まず「辞書」と「辞典」はどう違うのかを調べて、だいぶコンパクトな波乗りを楽しみました。
ネットサーフィンと違って、辞典サーフィンはヤバい場所に連れて行かれないところがいいところです。
うっかり課金もされないし、うっかり個人情報も盗まれないし、偽情報をつかませられることもありません。
間違った書き順も、嘘の意味も載ってない整った世界で、ふと目についた単語を深追いする時、えもいわれぬトリップを感じます。
ああもう。
漢和辞典のことを書こうとしていたのに国語辞典の話をしてしまっているのは、ひとえに私がひたすら辞典サーフィンをしてしまっていたからです。
「ヤバい」って言葉は載ってるのかな。と思って調べるじゃないですか。
「やばい」の古くからの意味と、最近の「感情が危ないまでに昂り動揺する」という意味までしっかり教えてくれています。
でも気になるのはこの「新語③」という表記。
「③」ということは、この「やばい」までの約1151pの間にたった2個①②の新語があるということ?
知りたい・・・!
となるじゃないですか。
どうやって調べたらいい?1ページ1ページ目を皿のように調べるわけにいきません。辞典の前後ろを確認して、きっとなにか索引があるはずと探します。
あやしい索引が見つかりました。
この「ことばの移り変わり」の中にきっと、新語①②③があるはず・・・。たった15個なのでローラー作戦をとってもいいのですが、この15個のなかから「新語」と説明を加えられるものをピーンと見つけたい・・・!
怪しいの、まず「ニート」でしょ。
当たった〜〜〜〜〜!②でした。
あと一個は?
「就活」とかは新しいんじゃいかな?と思って調べてみましたが、違いました。空振り。
なんだろう??
皆さんも一緒に考えてみてください。
うーん、うーん、、、、
まさかの「新語」が①・・・・・!
おまえ・・・・お前だったのか・・・・。新しかったのか。確かに、そう言われればそうなのかもしれないが、騙された感が強い・・・。
また遊びすぎてしまいました。
「何やってるんだ?」と思うほど、この右往左往が楽しいのです。こんな観点で言葉と向かい合うことが、どれほど脳のいつも使っていない部分を刺激するか。そして「新語って辞書的にも新語なんだよ」って誰かに言いたくなるのです。立派なコミュニケーションツールです。
そして漢和辞典です(やっとこ)。
まずはカバーガールとして描かれた「漢ちゃん」こと「漢 七海」のイラストのメイキングを紹介します。
「寒色系」の国語辞典は「青空女子」だったので、旺文社さんから「暖色系」というリクエストを受けていた漢和辞典イラストは「黄昏女子」とフォルダ名に描いていました。
漢ちゃんが読んでいるのは『高校入試 入試問題で覚える 一問一答 社会 改訂版』。
高校入試に向かう漢ちゃん。前向きに一語一語飲み込みながら、心に入れ込みながら、社会の中の自分の位置と社会の広さを学ぶ明るい夕暮れの絵が描けました。吸収力のありそうな瞳が描けたので気に入ってます。
漢和辞典を私もこの機会にめくってみたのですが、国語辞典に比べて手に取る機会が少なかったので(勉強不足)、今更ながらにびっくりしたことがたくさんありました。
まず皆さんご存知でしたか。部首のさんずいは「3画」じゃなくて「4画」だということを・・・(バカ)
さんずはい「水」(4画)をもとにしてできているから・・・・・!!!
言われてみればそう・・・・
さんずいはご存知の通り「液体の性質、状態」を表す漢字に使われます。
さんずいだけでも使ったことのない、読めもしないような漢字がこんなに。私たちはすぐ「言葉が足りず」失言をしたり、「言葉にならない」なんていって声を詰まらせたりしますが、すぐ辞書に土下座すべきです。言葉はもうたんまりとある。使いこなせてないだけです。
「使いこなせなくてすみません」です。潔く。
「さんずい」と同じように、「てへん」も「3画」じゃなくて「4画」!!「手」が由来だから・・・・。知らなかった(バカ)
「しんにょう」って「行く・進む」などの意味を表す部首だったんですね。言われてみれば、「迅」「速」「辿」・・・移動するという意味が通る。「通」も移動する漢字。
「へん(偏)」と「つくり(旁)。
「偏り(かたより)」と「傍(かたわら)」。
意味を司る「へん(偏)」と音を司る「つくり(旁)」は、お互いに「自分だけではどうにもならい」と運命の片割れを待ち焦がれている存在。まるでお箸のようです。
部首にそれぞれ成り立ちがあり、意味がある。
その当たり前のように思っていたことが、漢和辞典を眺めているとどれだけふんわりとした理解だったかわかります。
漢字には「私はこんな魂で生まれた」という情報がすでに入っているのです。「私にはこのような呪いがすでにかけられている」という情報でもあります。
本も看板も地名の表示もあなたの名前も、全部が濃い運命の呪文のように見えてくるのです。
「鬼」の部首から生まれる漢字や、鬼のつく熟語の多さ。
「この恐ろしいものの情報をきちんと人に伝えないといけない」と、いつかの誰かが思ったのだと感じる時、漢和辞典全部がまるで地図みたいに思えたりするのです。
知らない漢字、使ったことのない文字、それらがこんなにあることに途方もない気持ちになりますが、辞典は「言葉の世界でここまで行った人がいる」という標なのではないでしょうか。
知識や経験や感覚を細かく細かく誰かが表現して残してくれていることも、それが辞典になって手元にあることも、全然当然のことじゃないなあ…と辞典を撫でながら思いました。
「由紀ちゃんのイラストの辞典、買うよ〜。うちにある辞書、もう30年も前のでびっくりした」と友達が言ってくれハッとしました。
言葉の意味や性質がパッとわかるように私たちは学校で習ってきたはずなのに、うっかり忘れているし、その文字の祈りの強さも禍々しさも感じなくなっている。
今一度思い出すために、大人にこそ漢和辞典は必要なんじゃないかと感じました。
これだけの薄い紙に印刷されているのに、どのページも字がくっきりしていて裏写りがなく読みやすい。
辞書サーフィンの楽しさをもう一度味わってもらうきっかけになったら、これほど嬉しいことはありません。
皆さんも「気になる言葉」にたくさん出会えますように。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000109.000055026.html
そして、私のダメな辞書サーフィンを定額メンバーの皆さんに贈ります。
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末次由紀のひみつノート
漫画家のプライベートの大したことないひみつの話。何かあったらすぐ漫画を書いてしまうので、プライベートで描いた漫画なども載せていきます。
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