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君の心の別腹に入る

悲しいことがあったので聞いてください。いや読んでください。まあ、悲しいことなのでじっくり書かずに箇条書きにします。

◆1年5ヶ月ぶりに美容院に行き髪を20センチ切ったのに家族に全スルーされた。

◆1年5ヶ月ぶりに駅ビルでライラック色の綺麗なシャツを買ったのに、帰って袋を開けたら違う服が入っていた。

◆今日卒業のはずだった歯医者さんで、ニュー虫歯が発見された。

◆返品交換しようと持って出たシャツの入った紙袋を紛失した。

◆紙袋を探しながら街を歩いてたら、「そろそろ髪をカットしようかなーとか、カラーしようかなーとか、ないですか?カットモデルどうですか?」と声をかけられた。

昨日カットとカラーしたばかりなのですみません……というか細く虚しい声を聞き、お姉さんもめっちゃ「やばい」という顔。

まあ100点満点で言うとマイナス195点くらいでしょんぼりしてました。これ11時の時点でマイナス195点を記録してるので、なにをどう頑張っていいのかもうわかんなくて、とぼとぼ歩いてました。

落ち込むと、その「悲しさ」を過剰に美しくラッピングしようと脳が働きます。そんなこと本当は思ってなかったのに

「1年5ヶ月も美容室に行けなかったのも買い物に行けなかったのも、仕事と家事育児をがんばったからなのに・・・私はこんなに頑張ったのに・・・なのに20センチ切ってもそんなことは誰にとってもどうでもいいことだというの・・・(実際どうでもいい)。元気がない子供を自転車に乗せて学校に送って行って自転車に置き忘れた交換する予定のシャツの入った紙袋が、なぜかどこにも見つからないし、お店に取り違われていることを電話したら「お店に持って来られますか?」と言われるし、え、買って帰ったものなのに、時間と交通費をかけて交換のために持っていくのが普通なの?(私のいる駅くらいまで持ってきてくれるかと思ってた)そしてなんでまた虫歯になってんの?なんでカットモデル声かけられるの?そんなにボサボサ?!世界って過酷!!!!」

とネガティブ魔人になってました。午前中から。

呪術廻戦を読んでから、「あー、呪いってあるわ。この呪いが大集合したら宿禰にくらいなるわ」と思うことがあったんですが、今朝程度のわたしの気持ちもまあ言ってしまえば立派な「呪い」。

小さなアンラッキーや小さなやるせなさが「呪い」になっていく様を、自分自身の午前中を使って実感していました。

本当に大したことないのに、傷ついていることは本当で。

しょぼしょぼ。とぼとぼ。

その時ふわっと思い出しました。今朝clubhouseの漫画家の朝礼で冬乃郁也先生が「米山舞さんの個展がとてもよかった」と教えてくれたのを。

でも予約制でもういっぱいみたい、とも聞いていました。

ダメもとで検索してみました。

ほんとにいっぱいだ。

あ、でも。

今日の12時に、残り一名の表示。

残り一名!

わたしのための、残り一名だ!

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12時からの40分入れ替え制の個展が、原宿のカトル・バンで開催されていました。

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かっこいい!

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かっこいい!!

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かっこいい!!!

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買っちゃったーーーーー!どれも良かったけれど、木に印刷されているというところが新鮮で、買っちゃったーーーー

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悲しいことや考えなきゃいけないことや悩んでる仕事でいっぱいの時、どんなに優れた物語も文章も頭に入ってこない時ってあるじゃないですか。

疲れてる時にONE PEACE 1~98巻を差し出されても、「うっ」ってなるじゃないですか。面白いのがわかっていても、今それはお腹に入らないよ・・・という状態。

でも思うんです。そんな「お腹いっぱい」の時でも、入るものがある。

別腹に、入るものがある。

受けたストレスを「食べる」ことで軽減することが人にはあります。

私も食いしん坊だからその傾向があります。

でも、

自分は今、「お腹が空いている」のか、「心がお腹が空いている」のか、ちゃんと考えるようにしてから暴食をしなくなりました。

傷ついたら「パンケーキ食べたい」という思考回路だったのですが、「いや、今身体はお腹すいてない。そのエネルギーは身体は必要としてない。心がお腹すいているんだから、食べ物じゃなくて心が欲しがる作品に触れるべきだ」と思えるようになったのです。

でも、心にもいろいろ入ってて、良い作品を見ても楽しむ余裕がない・・・そんな時にやっぱり人は「食」に走っちゃうんだと思うんです。

そんな時に、大事なのは「別腹」が動き出すものに出会うことなんじゃないか・・・。

有名な実験でこういうのがありました。人はお腹いっぱいでも、「好きな食べ物」を見たら胃が動き出して、余白をうんとこしょと胃の中に作り始める・・・というもの。

別腹をこしらえてでも、お腹に入れたくなる作品に出会うべきなのです。

別腹に入ることができる作品、それは、ほどよく短くて、濃いもの。密度の高いもの。

米山舞さんの作品は、一点一点はとても濃くて、美しくて、そのレイヤー構造の深さに目がバシバシ喜んで、でも40分で出なければならない個展のルール。

悲しくてしょぼしょぼしてる私に、別腹があることを教えてくれました。

その鋭利な美しさが、ストンと入ってきました。

心がお腹すいていたんです。

甘いんじゃない、苦いんじゃない、生命力と美のパワーが、私の胃と背骨の間にするりと入ってきて、新しく生まれてくる知らない生き物の最初の一歩を目の前で見たような、新しいその世界に自分も誘われたような、そんなみずみずしい気持ちになりました。

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なのに、米山舞さんのこの個展、無料・・・・・・!!!嘘でしょう?びっくりしました。

https://www.anicoremixgallery.com/exhibition/mai-yoneyama-ego-2021/

原宿の街をさっきより背を伸ばして歩いて帰るとき、さっきカットモデルの声をかけてきたお姉さんを見かけました。
綺麗な赤のカラーリングの絶対1ヶ月以内に美容院行ってるでしょう?というおしゃれガールに「そろそろカットどうですか?」と声をかけていました。

声かけは、ボサボサな人限定じゃない。

背筋がまたもう少し伸びて、帰りの電車に乗りました。

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濃くて、短い、美しい作品を私も作りたい。
パワーをくれた米山舞さんの作品の輝きに感謝を。

紙袋はまだ見つからないんですけど、私は元気です。

シャツ、どこ行った。


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