今日、たぶん、誰かが死んだ。
夢枕に立ったのは知らないおじさんだった。"おじさん"というのは相対的な姿で、なぜなら夢の中の自分は二十代だったからだ。「君とは1時間くらい口論したけれど、実に変わった奴だったよ、君は。」と言われたのだが身に覚えがない。「そうでしたっけ、すみません急いでるので。」とりあえず誤魔化してその場を離れようとする。おじさんは時間的に仕事帰りで、少しシャツが乱れていた。ネクタイを緩めさあ帰ったぞ、という出立ちだった。正直ちょっと冴えない格好だった。「覚えているかい、熱く口論した後なのに君は言ったんだ、それにしてもちょっとここ冷房効きすぎてますね、とね。」緩めたネクタイに手をかけながら懐かしそうに笑っている。身に覚えがない。ただ知らないと水を刺すのも野暮ではある。「その節は色々お世話になりました。おじさんもお元気で。」適当に相槌を打ってその場を離れた。懐かしそうに見送るおじさんの視線をなんとなく背中に感じる。身に覚えはないものの確かに自分なら言いそうな気もした。でも誰だったかは思い出せない。多分人違いだと思うよ、知らないおじさん。