明るさ調整平松さん

宗谷岬の漁師さんへ、オンラインでのギターレッスンに挑戦ーライブ実現の夢に向けた一歩【奇跡だらけの稚内編①】

元・プロギタリスト、現・音楽スクール『オトノミチシルベ』代表の海老澤です。「音楽をはじめたい人が、1秒でも早くはじめられる世界」を目指して、海老澤がノーギャラ&旅行実費もお構いなしで全国行脚する様子を、『オトノタビビト』と題してこちらのnoteで綴っています!
※詳しくは初回こちらの記事へ→「沖縄県うるま市で、たった1人へのギターレッスンー音楽をやりたい人が、1秒でも早く始められる世界を作るために

奇跡の始まりは、Twitterから。

前回でうるま市の生徒さんが手を挙げてくださったこちらのツイートですが、実はもう1つ、奇跡の出会いを紡いでいました。

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Monaこと稲葉くんは1回も会ったことない高校軽音部の後輩ですが、こんな素敵な前振りの後に、まさかの……

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本当に、宗谷岬から。そんなことあります?!
Gypsyさんこと宗谷岬在住の平松さん、なんと普段は……

漁師さん(春は毛ガニ、秋は鮭漁)です。

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平松さん(右):北海道宗谷岬出身。中学卒業後に漁師であるお父さんのお手伝いをしながら、ギターに触れ始める。20歳の時に猿払に住んで働く。23歳のときに2年ほど東京の高円寺に住んだあと、再び宗谷岬に戻って漁師業でお金を貯め、1人でNYを回ったことも。1年前に一念発起してギターを購入、独学で練習を続ける。好きなミュージシャンはビートルズ、The Birthday、Oasisなど。

村には音楽教室も1つもないし、ギターをやっている仲間とも出会わない。だけど自分自身で東京に行ったり、ニューヨークに行ったり世界を広げて、すごい人たちをたくさん見てきた。もっともっと世界を広げて「いつかライブのステージでギターを弾いてみたい」という夢を語って下さいました。

しかし漁師も大切な仕事で、もちろん離れる訳にもいかない。村にいながらもっとギターが上手くなれる方法はないのか?プロギタリストと知り合いになれたら上手くなれるかも!...とTwitter検索をしていたときに、まさにタイミングよく、奇跡のように僕のツイートを見つけたとのことでした。

Twitterで見ず知らずの僕に連絡をするのも、相当の勇気だったと思います。あとから聞いたところ、稲葉のフリも背中の後押しになったそうです。(ファインプレー、稲葉!)

こんな奇跡のようなご縁を大切にしたいし、平松さんの想いにも応えたい。現地行きを即断するとともに、今回は今まで楽器では難しいとされてきた、Skypeでのオンラインレッスンにチャレンジすることにしました。

平松さんにはこれから、月2回・3ヶ月間の無料オンラインレッスンを受けていただきます。これをロールモデルにして、もっともっと地理的環境による体験格差をなくしていきたい。

前回のうるま市から、一気に最北端へ……。第2回にして日本列島をまさに縦断。距離にして実に1,538Kmのオトノタビの幕開けです!

そしてこの旅、裏側でもう1つの奇跡が。

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7月2日のTwitter投稿から、宗谷岬行きを決めた翌日。その旨をfacebookに投稿すると、『オトノミチシルベ』ドラム講師であり、古くからの友人でもあるTatsuyaから「故郷です!」と返信が。
ノリで今回の旅の同行をお願いすると快諾してくれたのですが、よくよく聞いてみると彼には「いつか地元に東京のミュージシャンを連れて帰って凱旋LIVEをしたい」という夢があったそうで...。
これをきっかけに仲間が集まり、クラウドファンディングでの稚内凱旋LIVEの物語がはじまります。これはまた、後編で詳しくお伝えします。
※最終的に、1回も会ったことない前フリの稲葉はこの旅に同行することになります。

それぞれの夢をのせて、最北の地へ。

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やってきました、最北端!!

北に来るほどうまくなる

「ラーメンは北に来るほどうまくなる」のパワーワード(基本、最北端推し)

明るいラーメン

最北端のラーメン、実際かなり美味い……!(ホタテ塩ラーメン)

宗谷草原

宗谷丘陵。ただただ、目の前に広がっていく草原と海と空の美しさは、言葉では表し尽くせない。


初日は軽く観光したあとに、夜は平松さんがお手製のBBQをふるまってくださるとのことで、ご自宅に招待いただきました。

到着すると自宅内の倉庫に案内され……えっ、倉庫内でBBQ??
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目の前に広がる光景は、まさかの1人1網。僕たちの想像するBBQ(昼間に河原で身を焦がしながらウェイウェイ★)と全然違う……。

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タコやホタテ、めくるめく海の恵みたち。どれも歯ごたえがあって味が濃い……!!新鮮な海鮮BBQってこんなに美味しいのか。

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夜になれば、BBQとは思えないサタデーナイトフィーバー……!!
※写真は流氷とともに宗谷岬に流れ着いた『オトノミチシルベ』ボーカル講師のTAKUROCK氏(後編で登場します!)


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キターーー!!!!平松さんが獲ったイクラ(醤油漬け)!!!!!!一粒一粒の弾力がすごい……イクラから夢が弾ける……

もう我々のBBQの概念を、根本から覆してくれました。海鮮というコミュニケーションツール、強い。東京だったら絶対に経験できないことで、本当に楽しかった。材料から器具まで全て1人で準備してくださって、平松さんのおもてなしの気持ちが何よりありがたいです。

オンラインでのギターレッスン開始!

2日目は再び平松さんのご自宅にお邪魔して、実際に東京の先生とSkypeを繋いでオンラインレッスンを開始します。平松さんの家までの道を忘れてちょっと迷ってしまい、電話します。

海老澤 「すみません、近くまで来てるんですが目印とかあります?」
平松さん「今、庭に鹿が2匹きてるので、それが目印です。」

加工済み鹿

鹿がランドマークになる。そう、宗谷岬ならね...

とはいっても、普段は鹿が庭まで来ることは滅多になく、それが2匹も同時にくることは初めてとのこと。これもちょっとした奇跡。鹿さんとっても可愛らしい、しかしどこかの農作物を荒らしていると思うと心苦しい。


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お昼のレッスンに向けたSkype回線チェック!の前に、海鮮チェック(うまい!二つの意味で)が入ります。平松さんのお手製の海鮮丼……リアル漁師メシ、思わず拝んでしまう美味さです。見てたらもう一度食べたくなってきました。

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カレンダーには、我々のライブの日付がしっかりと赤丸されています。

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平松さんはご自分のギターを持っていますが、メインのギターは『Paul Reed Smith Wood Library』!これは、かなりお高い良いものですよ……!

平松さん「もともと他のギター目当てで御茶ノ水の楽器屋に行ったんですが、こいつにビビっと来てしまって……かなり予算オーバーしてたのですが、買ってしまいました。」

このギターのお値段、サーモン皿に換算するとおよそ6,000皿分(スシロー)くらいはあるのではないのでしょうか。


幸せな腹ごしらえもしたところで、まず普段の練習を見せていただくことにします。平松さんがおもむろに繋いだのは……『Rocksmith(ロックスミス)』!

『ロックスミス』は実際のギターを繋ぎながら、画面上に流れてくる譜面に沿って演奏する、いわゆる”音ゲー”の一種。いやよく出来たソフトだなあと思って聴いていると……ん……?

音、めっちゃ遅れてるじゃん!!!!

問題は『ロックスミス』そのものではなく、周辺環境。簡単に説明すると、演奏したギターの音はPCに一度取り込まれてからスピーカーを経由して出て来るので、タイムラグ(レイテンシと呼びます)が避けられません。平松さんの使用していたMacBook Airでは0.5秒くらいのレイテンシがありました。しかし平松さんは最初からこれで練習しているので耳が慣れてしまっていて、音が遅れていることに気づけない。

情報格差が、ここにあるなと思いました。近くにギターを弾く人がいたら……例えば軽音部にいてみんなで聞けば「これ、音遅れてない?」と誰かがすぐに気づく。ネットを頼りに独学で頑張っていたからこそ陥った罠であると思います。これだけでも、今日ここに来れてよかった。

『ロックスミス』が上手くなりたいなら、このやり方でもいい。でも平松さんには、いつかバンドがやりたいという夢があります。楽器としてのギターのスキル向上を目指すなら、このままではいけない。音出し環境を再構築することにします。

平松さんはガジェット類が好きで、アンプもちゃんと2台持ってらっしゃいました。まずはそれを設置しましょう。設定をかちゃかちゃといじり音を出してみると……うん、ばっちりです!まだ音の正確さにピンと来ていないようでしたが、直に慣れて来るでしょう。


次に、譜面の読み方です。平松さんに普段使っているものを見せてもらいました。ネットからダウンロードしたものとのことですが……

ああ、これも……めちゃくちゃ練習し辛い楽譜です!

ネット上でダウンロードできる楽譜には、癖が強いものも多いです。例えばアーティストがライブなどその時々のニュアンスで弾いているものなどを全部忠実に譜面に起こそうとしているもの。1番と2番でも微妙に違っていて逆に分かり辛い。例えば6〜1弦をダウンストロークする際、ピックが1弦に『偶然』触らなかったであろうケースを忠実に記譜してしまっていて「1本だけ引かれてない、なぜ?!むず!!」となる。無料の楽譜があるのはとても有り難いですが、こういう楽譜の読み辛さが、挫折する人を生む理由の1つにもなってしまっているのも事実。

これもあるあるなのですが、やはり宗谷岬で1人でやっていると気づけない。前回のうるま市と同じく、今回も一緒にいられる時間は短くても、今後ずっと糧として使える知識を持ち帰ってもらいたい。ということで「ミュージシャンの共通言語」である譜面の読み方についてレクチャーさせて頂きました。

平松さんは「これが知れただけでも、独学数年分の価値があります。」とおっしゃってくださいました。

ロックスミスも譜面も、これまでの”当たり前”だった環境を覆したので、順応していくのは時間かかるだろうと思います。でも、ライブをするという夢に向かって頑張ってもらいたいです!

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それではいよいよ、これから3ヶ月間お世話になる講師の方と回線を繋ぎます。『オトノミチシルベ』ギター講師の、西山昌一郎先生です。

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これも奇跡なのですが……なんと平松さん、西山先生が実際使っていたピックを持っていらっしゃいました。東京で好きなアイドルのライブに行ったときのバックミュージシャンが西山先生で、その時先生が投げたピックが放物線を描いて平松さんの手に……!吸い込まれることはなく、運良くピックを拾った近くの女性に「欲しい」と言って譲ってもらったのだそうです。

では、(本物の)回線チェックです。意思疎通、全く問題なし!平松さんはいいスピーカーを持ってらっしゃるので、むしろ1階のリビングまで西山先生の声が聞こえてる。たぶん庭の鹿にも聞こえてる。

平松さんは少し緊張した様子で、西山先生と今後の進め方や、次回レッスンの日程調整の会話をしています。1年間ご自身で練習してただけあってしっかり演奏はできますので、これはもう曲から始めましょうと、課題曲を決めて練習することになりました。

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実際のギターを使って、ミニレッスンに入ります。うん、Skypeでも音は余裕で聴こえます!
さらに、オンラインならではの良さも……Skypeだと、カメラに寄ることで手元の細かい動きを映し出すことができる!対面レッスンだとここまで近くから手元は見れないので、細かい部分の確認はむしろオンラインの方がやりやすいと感じました。

回線トラブルも一切なく、終始なごやかにレッスンは終了。
この日の夜に開催したドラム講師・Tatsuyaの凱旋LIVEも、平松さんは最前列で、まっすぐに聴いてくださいました。終了後はすぐ「明日の漁が早いので……」と帰っていかれましたが、そんな中でも夜遅くまで残り、最初から最後まで、LIVEを見届けてくださいました。

情報格差をなくし、音楽で繋がれる世界に

レッスン後、早速次回レッスンへの改善に向けて研究しはじめる平松さん。

平松さんは本当に勉強熱心で、僕たちの話すことを一言一句逃さずに吸収しようとする姿勢がとても印象的でした。この学習意欲は、平松さんのかけがえのない強みだと思います。BBQでもレッスンでも、1つ1つへの丁寧さとこだわりから、そのことを強く感じます。

今回改めて考えさせられたことは、「情報」の中には「体験」と結びつけて初めて価値をもつものがあるということ。これだけ勉強熱心でもネットの情報だけでは、練習環境の音のズレ・譜面の選び方など、1人でやっていると気づけないことがたくさんある。最初の一手で正しい知識を得ることで、練習の質はガラリと変わります。その格差を僕は無くしていきたいし、みんながどんな理由でつまづくのかを知るために全国を駆け回りたい。今回オンラインでも十分レッスンの質を保てること、それどころかオンラインだからこその良さもあることが分かったのは、大きな収穫でした。

これから、平松さんには3ヶ月の無料体験レッスンを受けていただきます。いつもは対面レッスンで時とともに生まれてくる講師と生徒さんとの絆が、Skypeレッスンでも同じように生まれていくのかーー『オトノミチシルベ』にとっても大きなトライですが、3ヶ月後を楽しみに待ちたいです。

平松さんはTatsuyaの凱旋ライブ後に、こんなツイートをされていました。

そして、こうも語ってくれました。

「僕は無料期間の3ヶ月が終わったあとも、自分でお金を払ってレッスンを受け続けたいんです。」
「僕が本当に上手くなることを、世の中に見せていきたい。それが、『オトノミチシルベ』を広めることにも繋がるのであれば、僕にとっても嬉しいです。」

猿払村は、ホタテ漁が村の主な財源。その中でホタテ以外の漁師を営むことは、複雑な気持ちもあるそうです。そんな中でも、ずっと消えずに持ち続けている自分の誇れるものは「ギターとロックが好き」という想い。

平松さんは周りにギター仲間がいなくても、東京に行き、NYに行き、広い世界からたくさんの情報を吸収して。御茶ノ水までギターを買いに行き、たった1人で練習し続けました。

想いも機材も、来たるべき日のためにこれだけ準備し続けていたからこそ。そして、勇気をもって行動し続けたからこそ。おこがましいかもしれませんが、今回のオンラインレッスンという機会を逃さずに、次のステージへと成長するための一歩を掴みとれたのではないでしょうか。

随分お待たせしてしまいましたが、ITインフラもインターネットも、ようやく平松さんの想いを受け止められるだけに、時代が追いついてきた。音楽があれば宗谷岬にいたって漁師をしながらだって、どこで何をしてたって繋がれるし、音楽は決して人を孤独にしない。

1人で独学で頑張り続けたことも、漁師としての毎日も、無駄なことなんて何1つない。いつかは全てが繋がってくると確信しています。これからは僕たちが、平松さんが自由でいるための小さくて大きな一歩をお手伝いしていきたいし、平松さんがライブを実現する日のことを心待ちにしています。

次回は、宗谷岬編の後編。Tatsuyaの凱旋ライブについて、綴っていきます!

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