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沖縄県うるま市で、たった1人へのギターレッスンー「音楽をやりたい人が、1秒でも早く始められる世界を作るために」

はじめまして。元プロギタリストの海老澤祐也です。
今年の6月に色々思うところがありミュージシャンとしての10年間の現役生活にピリオドを打ち(モメたとか闇営業とかではなく)、今は自分が代表を務める『オトノミチシルベ』という音楽スクールの運営に注力しています。

プロを辞めてやりたかった事の一つが「楽器や歌を始めるまでのハードルを下げたい。地域ごとの格差を無くしたい」ということで、スケールを大きくすると「楽器や歌をやりたいと思った人が1秒でも早く始められる社会を作る」ための活動をしていきたいなと。それはつまり、音楽をプレイする人の「ミュージシャン寿命を延ばす」ということに繋がります。

ミュージシャンは食えない、CDが売れない、という状況はもう二時代前の話で、今は「音楽を所有しない」時代です。

そんな状況に嘆いているだけでは何も始まらないので、僕は僕で出来る事をやりたい。自分の愛した音楽の世界に何か恩返しがしたい。

そのために僕自身が日本の各地方を周り、様々な音楽に触れ、色々な人と出会い、現状の課題を見つけ出す旅をしていきます。

嬉しいことにそんな想いに共感してくれる人、話を聞きに訪れてくれる方がたくさんいらっしゃるので、旅の経過は「オトノタビビト」と題し。noteとして発信していく事にしました。

気ままなペースでの投稿になりますが、お楽しみ頂ければ幸いです!


オトノタビビトのはじまり−いざ、沖縄うるま市へ!

Googleは楽器の「弾き方」を教えてくれるけれど、楽器の「楽しみ方」は自分の身での体験でして見いだせない。しかし現状は、体験が出来るかどうかがまだ環境によって左右されてしまう……この「体験格差」を、少しでも無くしていきたい。そんな想いからスタートしたのがこのツイートです。

果たして応募が来るのか不安に駆られながらのツイートでしたが、「これ、まさに私のことです!」とDMをくださったのが、沖縄県うるま市の聖(きよい)さんでした。


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聖(きよい)さん:1992年沖縄県生まれ。理系出身。うちなんちゅらしく(?)メタルなど音楽が元々好きで、好きなバンドはDream Theater、Weezer、Oasisなど。高校時代は友達のライブ練習をひたすらスタジオで聴かされていた。やるならアコギがいいとのこと。

まさかの、初回が、沖縄のうるま市。こんな嬉しいことないです。これは超テンション上がります……!

せっかくなので、うるま市観光

台風は来てるわ、なぜか僕の持ってるクレジットカードの3枚中2枚が磁気エラーで使用不能になってるわとワクワクしかしない旅の始まりでしたが、なんとか沖縄県うるま市にたどり着きました!

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沖縄のくびれになっているところですね

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いやもうサトウキビ、まじでサトウキビだらけ。車社会で歩行者が全然いない。歩行者の替わりにサトウキビ多い。路駐が多いですがうるまの一部地域では軽自動車の車庫証明が不要らしく、自然が全部駐車場になってる状態です。

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昔は本土より牛肉の関税が低かった影響からか、うるまには焼肉屋さんが乱立。とにかく肉、肉安い、肉旨い!!!!!そして「歩いて10分の居酒屋にも車で行って代行で帰る」というのは東京以外で暮らしたことない身にとっては地味に衝撃的……

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そしてタコライス発祥の店でもあり、沖縄のソウルフードとも呼ばれる『キングタコス』−通称「キンタコ」。タコス700円、ポテト300円。いや美味しい、美味しいんだけど、食べても食べても一向に減らない。無限タコス。

タコスとポテトの量の暴力と戦いながら、きよいさんとよもやま話をする。

海老澤「なんでギターにしようと思ったの?」
きよい「いろんな音が出せるし、置き場所に困らないですし。1人でもベース音とメロディが同時に弾けるのがいいなあと思って。」

ギター習得した先のビジョンがめちゃくちゃしっかりしとる……


さあ、楽器を選ぼう!

海老澤「これだけしっかりギターをやりたい理由があるのに、始めなかった理由ってなんだったの?」
きよい「ずっとやりたいと思ってたけど、学生時代はお金も余裕もなかったし、知識もないから、打ち込んでもモノにならないんじゃないかってずっと自信がなくて。」
「大人になってからは、リターンが見込めなくて初期投資しなかったんです。近くに楽器屋もないけれど、通販は不安で……。自分の手とか身体とかとの相性が悪かったりすると続かなさそうだし、"せっかく買っても無駄になるかもしれない不安"の方が大きかった。」

これだけ「やりたい理由」があっても、「不安」が始めない理由になってしまうのか……!その不安はすぐさま解消しに行きましょう。うるま市には楽器屋がないので、『音楽の街』胡坐(コザ)市の楽器屋さんまで車を走らせます。

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ガレッジセールさん、妻夫木聡さん、野村義男さんなど著名人のサインも置いてあり、沖縄ミュージシャンから愛されているお店のよう。店内をうろうろ見渡していると、ここで1つ個人的に衝撃的な出会いが……

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僕の本(第4刷)じゃん

沖縄の地でまさか巡り会えるとは……!

1人そんな感慨に浸りながらも、きよいさんには時間をかけてじっくり楽器を選んでいただきます。「初めてだと何から選んだらいいのか分からない」という人も多いと思いますが、まずは「見た目が気に入る」が一番です。せっかく部屋に置いていても弾く気にならないのだったら、意味がないですから。女性だと色から選ぶ方も多めです。
でも完全にルックスだけだと異様に弾きづらい、すぐネックが反るなどの事故に遭う可能性がありますので、「予算」「好きな色」の中で、「信頼できるメーカー」だったらこれかな……といった絞り方をしていきます。

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予算3万円の中でも、照屋楽器にはお手頃な価格のアコギがたくさんありました。3本に絞った中から、一番安くて一番小ぶりな、1万1,880円のものをチョイス。きよいさんが「見た目的にビビッと来た」とのこと。メーカーは『S.Yairi』。うん、ここなら信頼できます(海老澤個人意見として)。

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買う前に、弾いて問題ないかチェックしましたが、手・身体にも馴染んでバッチリ!これにしましょう。
照屋楽器の店長さんも良い人で、1万円のギターにも関わらず「弦張り替えておきますね」なんてサービスしてくださいました。

そして照屋楽器では、さらにもう1つの出会いが……なんと、僕の誕生日である「329」と書かれたピックがあるじゃないですか!!沖縄に329号線という大きな道路があるそうで、こんなところにもご縁を感じます。速攻購入しましたが、速攻きよいさんのギターバックの中に忘れていったのでもう手元にありません。(写真もありません。)

ギター購入後、店内でウクレレのストラップを物色していたきよいさん。

海老澤「ウクレレってストラップいらないけど……なんで?」
きよい「根が暗いから、ストラップだけでも明るい柄にしたら、話しかけてもらえるかな……って。」


いざ、スタジオ練習へ!

ギターも入手したところで、いざスタジオ練習へ!コザ・ミュージックタウンへ直接向かうと、ちょうど一部屋空いており、1時間借りることに。

土足厳禁のスタジオに入ると……き、綺麗!めちゃくちゃ綺麗!東京周辺のスタジオより全然綺麗で広い!しかし譜面台も椅子もない!!(会議室から椅子を持ってきて貸してくださいました。)

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基本的に今日1日のレッスンが終わったら、きよいさんは独学の日々……そこで生かしてもらえることを持ち帰ってもらうのが今日の目標です。コードダイアグラム(コードの押さえ方が書かれた表です)の読み方さえわかれば、あとは好きな曲をネットで見ても、コード押さえれば演奏することができます。個人差はありますが、簡単なものを読めるまでに大体20分くらいでしょうか。

ダイアグラムはギターの弦を上下反転させた表なので、(例えば自分からみると上から2番目の位置は、ダイアグラムだと下から2番目)初心者の方はそこで躓きがちですが、それさえ乗り越えれば要領は掴めます。

まずはチューニングから。ウクレレをやっているだけあって基礎知識はあり、すぐに飲み込んでくれました。そしてダイアグラム……も、ウクレレで馴染みがあったのですぐに出来ました。

よし、思ったよりもサクサク出来たので、コードを押さえてやってみよう!ということで、5つほどコードを教えました。C、G、F、Am、Dm……。特にFコードなんてかかる人は3ヶ月くらいかかるのに、きよいさんはなんと一発で出来た。

海老澤「えっ、ちょ……なんで……?!本当にやったことないの?!」
きよい「昔、高校に落ちてたギターを少し弾いてました。」

ギターって落ちてるものなの……?いや、まずは届けようよ!(沖縄感)

僕の329ピックも拾得物としては取り扱われない事を確信(編集後記)

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予定していたダイアグラム読みもコードも出来ちゃったので、右手のストロークの練習に移行。右手はリズムを刻むので、リズムの話から入ります。「音楽の授業で習った、4分音符って覚えてます?」ここで大体の人は「????」ってなるんですが、きよいさんはしっかり覚えてて、タイやスラーの意味もばっちり。勤勉だ……。基礎が分かっている人だから、とにかく楽。何かにつけて理解が早い。

右手のダウンストロークとアップストロークを、組み合わせるのがギターのストローク。めちゃくちゃに振っていい訳ではなく、振り方がリズムに乗っていないとダメ。小説の頭にはダウンに戻って来るように、表(ダウン)と裏(アップ)を考えて振る。それを身体に染み込ませる。

で、きよいさん。「”ん”の休符の部分は休むよ」という感覚を、トークの時点で既に理解。シンコペーションを弾きながら気持ち悪そうにしていたので、表と裏の理屈を説明。「あ、さっきの私は裏がダウンだったから気持ち悪かったんですね。」も、もうそこまで分かっちゃったの……?!理解が早すぎる……。

8ビートと16ビートの2 つを覚えて使い分ければ、かなりそれっぽくなるよーー!というところで終了。当初の予定を大幅に超えて「①コードダイアグラムを覚える②ストロークを覚える」までいきました。いやーー正直、ここまでいけると思わなかった……。きよいさん本人も「意外と弾けてよかった」と楽しそうでした。


海老澤「ほんとセンスあるよ、好きなギタリストとかいるの?」
きよい「ジェフ・ベックとか……」
海老澤「ええ?!すごい渋いね、何がきっかけ??」
きよい「昔、道で拾ったiPodに入ってて……」

基本、音楽は拾ったものからスタイル。いや、だから、届けようよ!!!!

もう、死ぬほど楽しかった

きよいさんは頭の回転が早いし、とにかく天才感があった!基礎がしっかりしているのもあるけれど、1を聞いてぱっと10を知る感覚は天性のセンスだったと思います。フォームも綺麗。

でもそこまでの人でも、「近くに楽器屋や、ギターをやっている人がいない」というだけで、なかなかギターを始められない。隣の市まで車を走らせて、買ったことのない楽器を買う……全部1人でやるとしたら、本当に一大決心です。

いろんな人の話を聞いていて、楽器って買う前の漠然とした不安が大きくて、「始めない理由」に引っ張られやすいものなのだなと感じています。例えばカメラなら写真を撮るという目的が明確だし、写真という成果も確実に残ります。機能も分かりやすくて、自分とカメラの相性もそんなに考えなくてもいい。対して楽器は目的が曖昧になりやすいですし、憧れるミュージシャンや弾きたい曲があったとしても「上手くやれなかったらどうしよう」という不安がつきまとう。自分との相性もあるので、実物を見ないままネットショップで購入も決めにくいです。

だけど、音楽を「始めない理由」なんて実はそんなに大きなものじゃなくて。始めてしまって振り返れば、案外ちょっとしたことなのかもしれないです。今回がきっかけになれてよかった、うるま市にギタリストが増えたことがめちゃくちゃ嬉しい!

きよいさんからはレッスンの後「ウクレレ用のピックでそのままギターを弾いてる。別に変に気張らなくていいんだなと思いました。」「あれ以来、ギターを弾くのがめちゃくちゃ楽しいです!」とLINEが来ました。楽器って始めてしまえばめちゃくちゃ楽しい体験で、こんな風に誰かが最初の一歩を手助けするだけで、自然と自分からどんどん弾きたくなってくる。そんなシーンを僕は何回も見て来ました。

僕は実は元々出不精で、何を隠そう沖縄には初上陸だったのですが(笑)、僕が今までやってきたことや、プロを辞める決断……直感を信じてやってきたことの「点」たちが、この旅で「線」になって繋がっていく感覚があって、ものすごくワクワクしました。僕は誰かの音楽を「始めない理由」、そのほんのちょっとのハードルを1つでも無くす世界を作っていきたいし、そのためにこれからも日本各地を旅し続けたいです。

オトノタビビトは、まだ始まったばかり。僕が各地で作ろうとしている「点」たちがそのまま点で終わるのか、「線」になっていくのか、どんな奇跡を辿るのかの予測は全く不可能。だけれど今、最高に楽しい。全国で同じような人がいれば、ぜひご連絡ください!「楽器なんて学生時代の音楽以外で触ったことない」くらいでも全然大丈夫です!2,000km以内であればどこにでも駆けつけます。

次は、宗谷岬編(40kmオマケしました)をお届けします!



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