NVC(非暴力/共感コミュニケーション)と出会い、人生が変わって10年。
今日は、僕がNVCと出会い人生が変わって10年という節目をお祝いとして、これまでのことと、これからのことを書いてみようと思います。10年間、変わらぬ情熱でNVCの場を開きつづけている理由を、はじめて言葉にしました。
※NVC=Non Violent Communicationの略。非暴力/共感コミュニケーションとも呼ぶ。詳しくはNVC JAPANのページをご覧ください。
3.11、ハタチ、NVCと出会う。
僕がNVCを知ったのは3.11がキッカケでした。当時、ハタチの大学生だった僕にとって、東日本大震災は地震の大きさと同じくらい、自身の価値観を大きく揺さぶる衝撃的な出来事でした。震災当時は東京に住んでいたので、幸い、地震による物理的な被害はほとんどありませんでした。しかし、精神的なインパクトは大きなものがありました。
原発事故をキッカケにこの社会の現状を垣間見た僕は、そこに様々な社会問題(労働、貧困、地域格差、環境問題、経済・政治システム、歴史など)が、お歳暮の詰め合わせセットみたいにギュッと集約されていることを知りました。
とてつもない絶望感、怒り、深い悲しみ、無力感に飲み込まれていきました。その頃、他にもいろいろなことが重なり、僕はうつ病になりました。家に引きこもり、モノクロの景色(比喩ではありません)と、味のしないご飯を食べる日々を送っていました。
そんな息苦しい世界でがんじがらめになっていた僕を解放してくれたのが、同時期に出会ったNVCと音楽(マイケルジャクソンの歌)でした。
「なんて生きづらい社会なんだ…」「なぜ人々は無関心なの?」「どうしてあの人は変わらないんだ!」と、環境や他者にばかり意識が向いていた僕は、NVCに出会ったことをキッカケに「自分はどう生きたい?」「僕は何をしたい?」「今、なにができる?」と自分自身に意識が向くようになりました。
生きたい世界を、まずは自分が体現すればいい。
僕が望んでいる変化を、僕自身が起こせばいい。
とてもシンプルなことが腑に落ちてから、モノクロだった世界は少しずつ色を取り戻しはじめ、ご飯の美味しさを再び感じられるようになっていきました。NVCのメガネをかけてみたら、見慣れたいつもの景色が実はとても色鮮やかだったことに気付いたのです。
「たまたま入ったラーメン屋がめちゃくちゃ美味しかったから、友達についお勧めしちゃう…感じのやつ」
2011年夏に知り合ったアメリカ帰りの友人、ソーヤー海。彼からNVCの話を聞いた僕は、眼から鱗が落ちるような体験をしました。話を聞いて、本を読んで、即実践してみたら、他人との関係性やコミュニケーションの質が驚くほど変わっていったのです。もう一生口聞かないだろうって思えるほど大喧嘩した友達と30分後には笑って話していたり、喋るほうが好きだった自分が聞き手に徹するほうが楽しくなったり。
でも、いちばんの変化は自分自身との関係性でした。上述したような世界の見え方がガラリと変わる体験をした僕は、その体験をたくさんの人に共有したくなりました。そしてNVCの学びをもっと深めたいという思いが膨らんでいたので(学びを最大化するにはインプットとアウトプットを同時にやったほうが効率いいなと思い)、彼からNVCを聞いて1ヶ月後には、自主勉強会をはじめていました。
"まったりカフェ"という名前で、興味持ってくれた友達やその友達の友達を集めて、都心のカフェの片隅や大学のカフェテリアで、主に10代〜20代を中心としたユース世代に向けNVCをシェアする場を毎月開いていました。
自分だけだとまだ知らないことがたくさんあったので、ソーヤー海に声をかけて、一緒に合宿型のワークショップを始めました。
なぜ、若者なのか?
そもそも、僕がなぜユース向けの場を開いていたかというと、「自分と同年代の人たちとこの体験を分かち合いたい」という思いと、「若者がNVCにアクセスすることが当時は困難だった」という背景があります。
えぬぶいしーなんて言葉をほとんどの人は知らないので、そもそもNVCを学びたいと思ったら、日本語訳されているマーシャル(=NVCの創始者)の本を読むというのが当時は最も手っ取り早い方法でした。しかし、NVCとは学問ではなく、実践的なコミュニケーション手法なので、文字で読んだだけではなかなか難解です。英語ならばたくさんの種類のNVC関連本が出版されていましたが、日本語の本はこの一冊のみ。
いろいろとネットで調べてみたところ、海外トレーナーを招致したワークショップもごく稀に開催されていましたが、学生が参加できる金額ではありませんでした。国内(主に東京)で時々行われているワークショップに勇気を出して行ってみると(これも学生からするとなかなかな金額)、参加者は40〜50代の人々ばかり。
僕がNVCと出会ったハタチの頃の状況はこんな感じでした。そんな状況でありながら、今日までずっとNVCを学び続けられたのは運がよかったからです。
僕の場合、とてもラッキーなことにアメリカ帰りのNVCを学んでいる友人(NVCはアメリカ発祥)と出会い、彼が近くに住んでいたので、わからないことはいつでも気軽に聞けました。日本のNVCコミュニティーの中心にいる人達とたまたま知り合えて皆さんが優しく気にかけてくれたので、気後れせず繋がることができました。"まったりカフェ"を毎月開いていたので、有難いことに興味を持ってくれる友人たちが周りにいました。
そういった人たちがいてくれたおかげで、僕は今もNVCの道を歩み続けることができています。
※現在は、全国各地・オンラインでもたくさんのワークショップや自主勉強会が日々開かれていて、興味がある人なら誰でも気軽に参加することができます。
そして、10年経って気づいたこと。
NVCに少し触れた後に遠ざかっていった人たちを、これまで何人も見てきました。
彼らは皆、NVCに初めて触れたときには、その可能性に希望を感じていました。自分自身を尊重しつつ、相手のことも同じくらい大切にできる世界がある。人はわかりあえる、と。しかし、ワークショップが終わり合宿という非日常から日常の暮らしへと戻ったとき、あの場で感じた希望は幻想だったと気づくのです。
「自分の心をさらけ出せば傷つくだけだし、忙しい日々の中で誰かを思いやれるほどの心の余裕や時間を持つことは難しい。NVCは理想で、現実はそう上手くはいかない。」
失望し、以前のように自分自身の本音を聴いたり、相手の声に耳を傾けようとすることをいつしか忘れてしまいます。
さらに、僕がNVCをシェアしたかったのは主に自分と同年代の若者(10代後半〜20代)だったので、皆、卒業〜進学〜就職といった人生の分岐点に立っていました。引っ越してしまって場に来られなくなったり、社会人になったことでこれまでのように学びに時間を割けなくなってしまい、継続的にNVCに触れられなくなってしまった人もたくさんいました。
そうしてNVCの道を歩みながら、たくさんの人とNVCを分かち合うなかで気づいたことがあります。
・NVCは日本語という記号を使った新しい言語なので、文法も全く異なる。
・身に付けるにはその文化にたくさん触れ、反復することが大切。
・日常で実際に活用できるようになるには、時間がかかる。
・人はだれだって失敗するし、間違えるし、すぐ忘れる。
・ひとりだと心細いけど、同じ世界観を共有した仲間がいると安心できる。
新しい場づくり。
前述した5つの気づきを形にするためにはどんな場が必要なのか、考えました。
①時間をかけて学べる長期的な場
②気軽に反復練習できる場
③失敗できる、間違えられる安全な場
④忘れたらいつでも戻ってこられるアットホームな場
⑤仲間ができる、繋がりが感じられる安心な場
さらに理想をいうと…
⑥引っ越したり、忙しくなってしまっても参加可能な場
これらすべてを満たす手段として、サブスク型(定額制サービスのこと。毎月同じ金額で好きなだけ参加できる仕組み)のオンライン講座を始めることを思いつきました。
・これで昔の自分のように参加費がハードルになることなく、自分が学びたいペースで学びたい分だけ参加することができる(①②クリア)。
・年間プログラム、"〇〇回シリーズ"のように終わりがないため、学び続けることができる(④クリア)。
・継続して開かれているクローズドな場なので、参加者とともに安全なコミュニティを形成できる(③⑤クリア)。
・オンラインなので(録画も残っているので)、場所も関係ないし移動時間もないため気軽に続けられる(⑥クリア)。
こうした流れを経て、2019年10月にNVCオンラインをスタートしました。
コロナ渦の今ほどはオンラインの場が世間的に認知されていなかったので(そして僕自身も初めての試みだったので)、開始当初は試行錯誤の連続でした。まず、ホームページに「zoom開催」と書いてもうまく伝わらなかったので、「zoom(無料ビデオ通話アプリ)を使って行うオンライン講座です」と書き直すところから始めました(笑)
オンラインをはじめて、1年半。
NVCオンラインをスタートして半年後、コロナがやってきて、すべてのオフラインイベントがなくなりました。あれから1年経ちましたが、今もまだオフラインイベントの再開の目処は立っていません。オンラインクラスだけをこの1年間やってきました。
先日、毎週開催しているクラスの放課後の時間(参加自由の雑談タイム)にある参加者の方が「これまでワークショップに繰り返し参加してきたので、この場に来なくてもやり方や知識は覚えているんです。でも、NVCの在り方とか、意識とか、コミュニケーションの質感っていうのはやっぱり日常生活のなかでだんだん薄れていってしまうなと。この場で皆さんと時間を過ごすことで思い出すことができるんだと今日あらためて気付きました。それによって何かまたチャージされた感じがして、日常に戻っても実践できる」みたいな感想を話してくれました。
オンラインでもそういった血の通った場をつくりたいという願いを持っていたので、その言葉がすごく嬉しかったのを覚えています。
オンラインで講座をはじめたおかげで、地方の方や、海外在住の方と出会うことができました。学生、フリーター、会社員、公務員、主婦(夫)、経営者、医師、教師、大工、農家…などなど、様々な方が参加されています。
そうした年齢や所属も様々な人々と、場を共にしていくなかで気付いたことがあります。
それは、「リソース(資源・費やせるエネルギーのこと)が足りなくて、これまでNVCに触れる機会がなかった」人たちが想像以上にたくさんいたということです。
例えば、大学生や新社会人はお金というリソースが限られているため、参加費がハードルになります。主婦や経営者は時間というリソースが限られているため、開講頻度や時間帯がハードルになります。
結果的に、こうした「リソース不足」という課題にも寄り添うことができました。
サブスク型のオンラインクラスをはじめて1年半が経ちました。
最初は不安や戸惑いのなかでスタートしましたが、今は、この試みをはじめてよかったなあと思っています。
これからのこと。
NVCを実践し、学びを共に探求したい人々が集う有機的なコミュニティーとして、本音を話せる失敗できる安全な場として、これからもこの形で(サブスク型のオンライン講座)場を続けていきたいと思っています。ただ、実際に人と会って繋がること・全身で感じることが僕は大好きなので、時期をみて合宿などのリアルイベントも再開していきたいです。
「NVC?実は最近気になってる」みたいなちょっと試食してみたい人も、「日常の場面でもガッツリ実践できるようになりたい」みたいなフルコースを味わいたい人も、それぞれのニーズが満たせる場を引き続きつくっていけたらと思います。
僕には、NVCという道を一緒に歩む仲間がさらに増えていった先に、ひとつひとつの命が今よりもイキイキと生きられる社会になったらいいなというビジョンがあります。そして、10年前の自分自身のように、この世界に息苦しさを感じながらも今日を生きている人に、この文章が届くことを祈っています。(記事のシェアはご自由にどうぞ!)
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
高橋雄也
NVC ON-LINE主宰
3.11をきっかけに生き方、暮らし方、働き方、現代の社会に大きな疑問を持った頃、NVCに出会う。2011年からNVCをシェアする場を定期的に開き続けており、一般向けワークショップ、企業研修、ユース向け合宿、パートナーシップ特化型など多岐に渡る。2019年より、日本初のNVCのサブスクリプションサービス(定額制オンライン講座)を開始。年間150本以上のワークショップを行っている。
※自分自身の体験に基づきNVCをシェアしており、CNVC(Center for Nonviolent Communication)の認定トレーナーではありません。また、このノートに書かれている内容はすべて個人の見解です。
フリーランス7年目/音楽家。大学卒業と同時に、モバイルハウスで家賃光熱費0円生活を開始。カフェ経営、断食トレーナーなどを経て、現在は音楽活動と、NVC(共感コミュニケーション)オンライン講座を運営しています。[https://www.music.yuuya.org]