[投資の数学]リスク中立とリアルワールド

投資理論を学ぶ際に出てくる、「リスク中立」と「リアルワールド」の概念は、とても難解です。計算方法はわかっても、実務上どのように重要なのかまで書かれているケースは決して多くありません。

本記事では、「リスク中立」と「リアルワールド」を対比させながら、それぞれの実務上の目的と計算方法についてみていきます!

リスク中立とは何か

リスクを評価する際に、3つのパターンが考えられます。

①リスクを好む
②リスクを好まない
③リスクを気にしない

50%の確率で200円が当たるくじ(危険くじ, 75円)と、80%の確率で100円が当たるくじ(安全くじ, 55円)を考えます(どちらもはずれは0円)。どちらのくじも期待値は等しいですが、名前の通り、危険くじの方がハイリスクです。

どちらかを選ぶとなったら、①の人は危険くじを、②の人は安全くじを選びます。③の人は、どっちでもいいよー、といった具合でしょう。

どっちでもいいよー、をもう少し掘り下げましょう。この場合のどっちでもいいは、「どちらも価値が等しいという評価」ではありません。「どちらも価格相応である」、という評価なのです。

つまり、③の人はそのくじのリスクを気にせず、価格がいくらかに着眼していると言い換えることができます。高いものは良い、安いものはそれなり、という立場に立っているのです。ここが肝です。市場整合的な評価へとつながっていきます。

2通りの金融商品の評価方法

例として、残存期間2年のゼロクーポン債(額面100円)を、2通りの金利シナリオを用いて評価する方法を考えます。

前提条件
- 債権の市場価格は86.38円
- t=0時点での金利は5%
- 金利シナリオは1年後(t=1時点)に0.04%(低下)、0.06%(上昇)の2つを考える
- 上記2シナリオは、等しい確率で起こると予想している
- デフォルトは考慮しない


上記の条件のもと、t=0, 1, 2における価値を計算していきましょう。具体的には、下記の表を埋めていくことになります。

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Aには、t=0時点での債権の評価、つまり現在価値が入ります。B、Cにはそれぞれt=1時点における価値の評価が入ります。Bは金利上昇シナリオ、Cは金利低下シナリオとします。t=2では、満期を迎え100円が確定で償還されるので100をすでに記載しています。

リアルワールド

リアルワールドにおいては、はじめにBとCを計算します。Bシナリオでは金利が6%ですので、100/1.06=94.34円と評価ができます。一方で、Cは金利低下シナリオ上にありますので、100/1.04=96.15円という評価になります。

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最後に、BとCを確率で重み付けした確率を、5%金利で割り引いてAを求めます。(94.34*0.5 + 96.15*0.5)/1.05=90.70となります。

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リスク中立

一方で、リスク中立な評価は、Aを市場価格とします。そこからB, Cを順番に計算していきます。

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BとCは、それぞれ100円を6%と4%の金利で割り引いた値になります。

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何も計算せず、A, B, Cのすべてが埋まってしまいました😳😳😳、、。

それぞれの比較

リアルワールドとリスク中立の違いは、Aの価格だけとなりました。それぞれの値はどのような意味合いを持つのでしょうか。

まず、リアルワールドの価格90.70円は、上昇(低下)確率を用いて計算されています。その確率の加重平均で評価をしています。ここで重要なのは、金利変動の確率は観測ができる値ではない予測値であるという点です。将来どのくらいの確率で金利が上がるか下がるか、事前に観測することはできません。

一方で、リスク中立の価格は86.38円で、そのまま市場価格です。どのような確率で金利が上下しようとも、市場価格で評価するという姿勢ととらえることができます。表現を変えれば、主観的なリスク評価ではなく、市場価格を重視しようという姿勢と言えるでしょう。

まとめ

リアルワールドの評価、リスク中立の評価はそれぞれ目的が異なります。前者では、評価者の経験や判断を評価額に反映させることができます。リスクの分布がファットテールであると考えた場合には、その確率分布を元に評価額を決定できます。

一方で、リスク中立の評価は、市場整合的であるという大きなメリットがあります。保険ではSolvencyⅡやIFRS17号では保険負債の市場整合的な評価が求められます。リスク中立モジュールが実装されている経済シナリオジェネレーター(ESG, Economic Scenario Generator)など、市場整合的な評価のためのソフトも存在します。

その評価が、どのような目的でなされるのかによって、どちらのシナリオを想定するのかを決定することが重要となってきます!

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