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【Review】 Dehd "Flower Of Devotion"

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"Want nothing more than to be a loner"
"一匹狼であること以上に何も望まない"

大事なことは全てDehdが教えてくれる。

個人的な話。愛知県の片田舎で生まれ、中学生の頃まで過ごした地元の雰囲気には嫌気が差し、高校生の頃に自宅から片道1時間半の時間をかけて名古屋の高校に通った。大学進学時には親元を離れるように大阪で過ごし、社会人になってからは東京へ引っ越した。その後も環境を変えたい気持ちが芽生えて、転職して京都に引っ越した。京都では約2年半を過ごし、昨年の春に東京へ再び戻った。

その大半は自分の意志から生まれた移動だったけど、現実的には必ず後悔する期間があった。離れた場所の穏やかさに想いを焦がしたり、今いる場所でのうだつがあがらない日々に悩む。そしてその度に何も成長できていないことに気付く。


今年7月にリリースしたDehdのアルバムのリードトラックの"Loner"の歌詞が刺さる。それは自分勝手に生きて行くことの表明ではない。アレクサさえもが「一人で悩まないで」と口を揃えて言う時代に、「一人でこそ悩むべきなんだ」とDehdは歌う。どちらが正解とかの話じゃないよ。


脱線。"Loner"を聴くと、昔の曲だけどThe Vinesの"Homesick"を思い出す。密かに。

The Vinesは海外音楽にのめり込むきっかけになったバンド。出会いは高校生の頃。"Homesick"は当時からメロディが好きでよく聴いていたけど、年々フィーリングとしてバシッとはまるようになった気がする。

何も救ってはくれないし、帰る場所すらそもそも無かった気さえする。その中で一つ確実な真理といえば、今の自分の行動の決定権は自分にあり今がこの瞬間において人生で最も若い日であること。ここにいること。だから、うまくいくまでやってみるしかない。インディペンデントな姿勢として最も大切なことかもしれない。"Homesick"はセンチメンタルだったけど、Dehdの"Loner"はそれが素敵なコメディにも聴こえた。

恋人同士だったツインボーカルの二人。
あなたを愛していたと隣で歌い、笑い飛ばす。(強い)


ポストパンクの硬直性やソリッドさを変幻自在にぐにゃりと曲げて落とし込むのはThe Cureの系譜。一聴すれば剥き出しで隙間だらけのサウンドに、女性とも男性とも受け取れる特徴的な二人のボーカルの歌声が絞り出されては絡み合う。何かが欠けているようでありながら、その不完全の中に吸い込まれていく。「完璧なものに興味が無い」ってSorryも言ってたし、ミスチルだって昔歌ってた気がするからきっと正解。それを正しく信じ、何にも頼らないマージナルな位置から奏でられる魔力じみた楽曲。


拝啓、アリエルピンク大先生。コロナな世の中はいかがお過ごしでしょうか。新しいコメディができたんです。ノスタルジックな情景を背負いながらも、気負わないどころか脱力感全開で今を生きるフィーリング。そう、Dehdです。


Dehdの"Flower Of Devotion"。
迷うことなく2020年私的ベストレコード。


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2020年の年間ベストアルバム50のツイートです。
あらゆる分野においてコロナによる損失が露呈された2020年でした。そうした状況でも確かなフィーリングで確かな音楽が沢山生まれた気もします。状況が変わるというのは、今までの在り方を見直すきっかけにもなったり、自分自身を変えていく必要に迫られたりもします。社会的な混乱や現実で起きている出来事に気が滅入りそうな日々もありましたが、オルタナティブを実践する自分が愛するインディペンデントなカルチャーが本当に多くの活力を与えてくれた気もします。実際に大豊作。(とはいえライブは観たいのでコロナさんもそろそろ勘弁頂きたい。)

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■Artist Information
Dehd。2015年に結成されたシカゴ出身の3ピースバンド。Lala Lala のライブ・バンドで演奏していた Emily Kempf(Vo/Ba) とNe-Hi のシンガ−/ギタリストでもあるJason Bala(Vo/Gt)にドラマー Eric McGradyから構成される。結成当初KempfとBalaは恋愛関係を持っていたが、2017年にその関係は解消されたらしい。2019年には同じシカゴのバンドの先輩でもあるTwin Peaksのサポートアクトとしてヨーロッパツアーに同行。現在の所属は2009年に創設のニューヨーク州ブルックリンのインディレーベルとして年々その存在感を高めているFire Talk。

■Release
2016年8月 "Dehd"
2017年3月 "Fire Of Love"
2019年5月 "Water"
2020年7月 "Flower of Devotion"



今年もありがとうございました!

村田タケル

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