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ポムとクロの物語(約30分)

ポムとクロの物語   作:高木優至

 

ポム  僕っ子のヤマネ。

クロ  口が達者なカラス。 

ゴリス ヤマネのガキ大将

スネッピー ゴリスの腰巾着

人間 農園の人間。

カラスA・B クロをのけ者にしているカラス達。

 

 

 ポム、歌いながら登場。

 

ポム (歌:僕はヤマネ、ヤマネ、ヤマネ。森を駆ける元気な者さ。)うーん。今日も木の葉のざわめきが気持ちいいなー。小鳥さん達もおはよー。あー、やっぱり森は楽しいなー♪ あれ? でもなんか大事なことを忘れてるような…えーっと、うーんと…あ! そうだ! 木の実。木の実を取って帰らなきゃまたお母さんに怒られちゃう。

 

 ゴリスとスネッピーが現れる。

 

ゴリス いやあ、大漁大漁。

スネッピー そうでゲスね、そうでゲスね。これもゴリス様の力をもってすれば、ちょちょいのちょいってもんでゲスよ。

ゴリス まあな。ざっとこんなもんよ。

ポム やあ、ゴリスとスネッピーじゃないか。本当にたっくさん取れたね。

スネッピー む、のろまのポムじゃないでゲスか。そんなにジロジロ見ても一つもやらないでゲスよ。

ポム 大丈夫だよ。僕もこれから木の実を取りに行く所なんだ。

スネッピー (不敵に笑う。)そうでゲスか、そうでゲスか。たくさん取れるといいでゲスね。

ゴリス 何しろこの辺の木の実はもう俺達が取り尽くしちまったからな。まあ精々がんばれや。のろまのポムさん。

 

 ゴリスとスネッピーが去っていく。

 

ポム 何だい、何だい、二人共。僕だって木の実ぐらい取ってこれるんだぞ。よーし! こうなったらたくさん取って二人を驚かせてやるー!

 

 ポム、木の実を取りに行く。

 

ポムN 5時間前の僕は、木の実くらい余裕余裕。そんな風に思っていたんです。30分、1時間。時間が過ぎれば過ぎるほどに、僕の顔には焦りの色が…。その結果。

 

 ポムがトボトボやって来る。

 

ポム …んー、無い無い無い無い無い無い無い無い! 木の実。どこにも無い! どうしよう、このまま手ぶらでなんて帰れないよ。はあぁ。

 

 クロが現れ、ポムの様子を伺っている。

 

ポム あーあ、またお母さんに怒られちゃう。どこかにたくさんの木の実がなってないかなぁ。

クロ ねえ君。

ポム わあ! なななな、なんだい君は…ってカラス! カラスなのかい? かかか、カラスが僕になんの用なの?ってわああ、僕なんか食べても美味しくないよ!

クロ 別に取って食いやしないさ。

ポム ほ、本当かい?

クロ ああ、ヤマネ相手に嘘なんかついたってしょうがないだろ?

ポム それは…そうだけど。

クロ それより、何かお困りなのかい?

ポム べ、別に困ってなんかないよぅ。

クロ へー。(ポムを疑うような目で見まわす。)そうなんだ。

ポム そ、そうだとも! 困ってなんかないやい! それにカラスは怖い奴なんだ! お母さんが言ってたもん! カラスはヤマネの天敵なんだって。

クロ ははーん、やれやれ。これだから時代遅れのヤマネ達は。

ポム え? 違うの?

クロ 別に全てのカラスがヤマネを取って食うって訳じゃないっていうのに。

ポム え、そうなの?

クロ もちろんだとも。(ポムに見えないように舌を出す。)

ポム え、そうなんだ。うーん。じゃあー、長くなるけど大丈夫?

クロ いや、そこまで長くなると流石に困(るけど。)

ポム 僕ね。

クロ あ、勝手に話し始めるのね。

ポム お母さんに木の実を取って来るように頼まれたんだけど、全っ然取れなくて。このままじゃまたお母さんに怒られちゃうよ。

クロ …え、終わり?

ポム うん。

クロ あ、そうなんだ。長いって、え? (咳払い。)…じゃあ、それなら一つ、君に良い事を教えてあげようか?

ポム え、良い事? (クロに話させない勢いで)あっ、懐からバッサーってたくさんの木の実が出てくるんだ! いや、もしかしてもしかして、一つ食べるだけでお腹が一杯になる魔法の木の実とか? いやいやいや木の実で出来たお家なんてあったらもー!

クロ おいおいおい、ストップストップ! お前あれか?

ポム なあに?

クロ (頭を指さして。)イッちゃってんのか?

ポム 別に、僕はどこにも行かないよ?

クロ …違ぇよ! そんな事聞く訳ねぇだろ。

ポム え?どういう事?

クロ お前さん。たっくさん木の実が欲しいんだろ?

ポム うん。たっくさん、たっくさん欲しい。

クロ だったら、たっくさんたっくさん取れる所、教えてやるよ。どうだ? 気になんだろー?

ポム 本当?気になる! …でもさ、本当にたっくさんたっくさん取れるの?

クロ ああ。本当にたっくさんたっくさん取れるさ。

ポム 本当の本当の本当に?

クロ ああ、本当の本当の本当だとも。

ポム 本当の本当の本当…。

クロ ああぁ! もういい! その無駄なやり取り、俺大っ嫌いなんだよ! お前そんなに疑うのなら教えてやらん。

ポム え、そんなぁ。良いじゃん。

クロ 良くない。

ポム 教えてくれよぉー…。

クロ ダーメ。(間)ああー、もう!そんな目で見んじゃねぇよ! わかった、わかったから。教えてやんよ、コンチクショーが。

ポム やったー。

クロ 案内してやるからついて来い。

 

 クロ、先に行く。

 

ポム あ、ちょっと待ってよー。

 

ポム、クロを追いかける。

 

クロが寝っ転がっている。ポムが木の実を取っている。

 

ポム ねえ。ねえ、ここ凄いよ。スッゴイたくさんの木の実がなってる。

クロ 知ってるよ。俺が教えたんだから。

ポム これだけたくさん取れればお母さんも大喜びだよ。

クロ そりゃあ良かったな。

ポム ねえ、見て見て見て? 30分でこーんなにたくさん取れたよ。今までで一番たーくさん。どう? 僕凄いでしょ? ねえ、ねえってば。

クロ ああ、凄い凄い。

ポム ねー全然凄そうじゃないんだけど! こーんなに…こーんなに取れたんだよ? もっと喜んでくれても良いじゃん。

クロ (溜息。)うっわー! これはもう、木の実のスカイツリーやー! …これでいいか?

ポム …え、急にどうしたの?

クロ 何だよそのリアクション。お前がやれみたいな雰囲気出したんだろ。

ポム え? 何を言っているのかわかんない。

クロ もうわからなくていいよ。とっとと次の話へ進めよ。

ポム それではお言葉に甘えまして。

クロ ああ、もういいからそういうの。

ポム ありがとう。君のおかげでたくさんの木の実が取れたよ。はい、これは君の分。

クロ え?

ポム 君が教えてくれなかったらこれは無かったものだからね。どうぞ。

クロ そうだよな。あー、そうかそうか。じゃあ、まあ、しょうがねぇよな。(ポムに見えない様にガッツポーズ。)

ポム あーっ!

クロ あ、え、いや、何? どうした?

ポム こんなにお世話になったのに、君の名前を聞いていなかったなって。僕はポム。お名前は?

クロ 俺か? 俺はクロ。

ポム クロ…そのまんまだね。

クロ うっせえな。良いだろ別に。名前なんて俺だってわかれば何でもいいんだよ。

ポム そんなことないよ。クロ。いい名前だね。

クロ そうか? …さっきそのまんまとか言ってたじゃねぇか

ポム えっ…気のせいじゃないかなぁ?

クロ ちっ、調子のいい奴だ。

ポム そんなに褒めなくても、照れちゃうよ。

クロ あー、えー、そこの調子こいてるヤマネさん。時間はいいのか?

ポム え、ああ!もうこんな時間だ、帰らなきゃ! ありがとう、本当に助かったよ。

クロ どういたしまして。

ポム カラスにも…。

クロ ん?

ポム カラスにも良いカラスさんっているんだね。じゃ!

クロ ああ。気ぃつけて帰れよ。

 

 ポム、家に帰る。

 クロ、ポムが帰ったのを確認する。

 

クロ (笑う。)ちょろいな。本当にちょろいちょろい。

 

 クロ、去る。

 

 ゴリスとスネッピ―がやって来る。

 

スネッピー ほら、見てくださいでゲス。

ゴリス んん?

スネッピー この坂を上った所に、イチジクの実がたくさんなっているでゲスよ。

ゴリス そうかそうか。それじゃあそのイチジクの実も、俺たちで全部いただきだな。

スネッピー そうでゲスね。

 

 小石をぶつけられる。

 

スネッピー 痛っ。誰でゲスか? こんなことをするのは。

ゴリス 痛っ。俺様とわかっててこんなことしやがるのか! どこのどいつだ?

スネッピー 謝るなら今の内でゲスよ。

ゴリス クソッ、いい度胸してやがるな。誰だ、出てきやがれ!

 

 クロが姿を現す。

 

クロ これはこれは何とも威勢のいいヤマネ達だ。

ゴリス・スネッピー か、カラス!

クロ それに、何とも美味しそうな体だ。

スネッピー どうしてこんな所にカラスがいるでゲスか?

クロ そんなもんここが俺の縄張りだからに決まってんだろうが。何だ?お前何か文句あんのか?

スネッピー い、いえ。滅相もございません、でゲス。

クロ それにしても…丸々と肥えてやがんな。

ゴリス わ、私なんかまだ細い方で…なぁ?

スネッピー え! いや、そうでゲス、そうなんでゲスよ。まだまだ私たちなど細い方で…。

クロ で、どうしてこんな所に居んだ? お前ら。

ゴリス え、いや、えーと。なあ? …散歩?

スネッピー そうでゲスそうでゲス。散歩の途中なんでゲスよ。

クロ へぇー、散歩の途中ねぇ。(値踏みするように見る。)まさか…お前ら。

ゴリス・スネッピー はい?

クロ 俺の縄張りの物を盗もうとか思ってねえよな?

ゴリス はい?! え、えーと。それはー…。

スネッピー ま、まさか。そんなことするはずがないじゃないでゲスか。ねえ?

ゴリス あ、ああ。もちろんですとも。

クロ そうかそうか。

スネッピー そうでゲス、そうでゲスよー。

クロ 嘘つきは。

ゴリス はい?

クロ 嘘つきはー、食っちまっても問題ねぇよな?

ゴリス あああああの、嘘をついたのはこいつです!

スネッピー それは酷くないでゲスか?ゴリス様ー。

クロ バカヤロウが、どっちも食うに決まってんだろうが!

ゴリス・スネッピー ひ、ひいい! お助けをー!

 

 ゴリスとスネッピー、逃げ去る。

 

クロ 逃げ足は早ぇのな。二度と来んじゃねぇ、ガキ共が。

 

 クロ、立ち去る。

 

 ポムがやって来る。

 

ポム あれぇ? おっかしいなぁ? …ここも無いや。(間)ここにも無いや。(間)何だよもう! どこにも木の実が無いじゃないか! もう!これじゃあ商売あがったりだよ。もうもうもう!

 

 クロがやって来る。

 

クロ 何だぁ? まーた何も取れてねぇのか? ホントつくづくなヤツだなぁ。

ポム クロ! 本当にこの辺にはなーんにも無いんだよ? 無いものはもう取りようがないじゃないか。

クロ バカだなぁお前は。

ポム 僕はバカじゃないよぅ。

クロ こんなとこでチマチマやってりゃ、そりゃあ無くなんに決まってんだろ。

ポム だってさぁ。

クロ だってもクソもねぇ! …ほら、あのちょと小高い山が見えるか?

ポム うん、見える。

クロ あの山にはな。イチジクの実がなってるんだ。

ポム イ、チ、ジ、ク?

クロ なんだそんなことも知らねぇのか。お前は本当につくづくだな。

ポム つくづくって言うな。

クロ あそこにはな、甘くておいしい実がたーくさんなってんだよ。

ポム 何それ! 食べたい!

クロ だろ? 今から行くけど、お前も行くか?

ポム うん、行く!

クロ よしっ、ついて来い。

ポム あいあいさー。

 

 クロ、山へ行く。

 ポム、クロの後を追う。

 

 ポムが駆け込んでくる。

 

ポム うわあー、すっごーい!

 

 クロがやって来る。

 

クロ だろ? どんなもんだい。

ポム ねえねえ、この実がイチジクなの? ねえってば。

クロ 全然話聞いてねえのな。ああ、そうだよ。それがイチジクだ。ちょっと食ってみろ。

ポム いいの? やったー! いっただっきまーす。…んまぁ! 何これ、甘ぁ。マジか…こんな美味い物がこの世にあったなんて。僕は何て、何て(無駄な時間を生きてきていたんだ。)

クロ その辺にしとけー。まーたボーっとしてる間に夜になっちまうぞ? いる分、さっさと取ってきな。

ポム 本当?! やった。さあて、チャキチャキやらないと終わらないね。こんなに美味しいんだからお父さんにもお母さんにも、妹たちにも食べさせてあげないと。よーし! がんばるぞー! おー!

クロ おうおう、精々頑張れや。

 

クロが寝転がる。ポムがイチジクを取りに行く。

ポムが戻って来る。

 

ポム 見て見て見て見て! こーんなにたくさん取れたよ。

クロ あー凄い凄い。

ポム これで妹たちにも美味しい思いをさせてあげられる。ありがとうクロ。

クロ どういたしまして。

ポム 後、これはクロの分ね。

クロ おお、良いのか?

ポム 良いに決まってるだろ。君が教えてくれなかったら、僕はこーんなに美味しいものを、これからもずーっと知らずに生きていたんだから。ありがとうね。

クロ ま、じゃあ、ありがたく貰っとくわ。

ポム それじゃ僕はすぐにでも皆に食べさせてあげたいから、行くね。

クロ おお、転んでグチャグチャにして泣きべそかくんじゃねぇぞ。

ポム そんなドジじゃないよ! 僕を何だと思ってるんだい。

クロ ドジっ子?いや、まあドジじゃねぇんなら良いやな。

ポム うん、じゃあまたね。

クロ おう、またな。

 

 ポムが帰っていく。

 

クロ ひゃっひゃっひゃっ。止めらんねぇなこりゃあ。何もしなくてもあいつが食いもん取ってきてくれるなんてよ。こんな楽な事ぁねぇぜ。とことん利用させてもらいましょか。

 

 クロ、立ち去る。

 

 クロがやって来る。

 

クロ さあて、今日もあいつに働いてもらいますか。

 

 カラスA・Bがやって来る。

 

カラスA 何だ? なんか目障りなものがあるなぁ。

カラスB え? どこどこ? …あ、本当だ。すごーく目障りなものがあるや。

クロ 何だおめぇら。

カラスA 何だ?

カラスB おめぇら?

クロ …何の、御用でしょうか?

カラスA いや何の御用も何も…。

カラスB ちょっと飛んできた先にゴミが落ちていただけ、だけど?

クロ でしたらさっさと…。

カラスB さっさと何だよ?

カラスA 落ちこぼれのゴミの癖に生意気だな。

カラスB 落ちこぼれのゴミ。

カラスA 落ちこぼれのゴミ。(カラスA・B繰り返し。)

 

 クロ、頭を抱えてうずくまる。

 

クロ やめろ。やめろ。やめろ、やめろ、やめろやめろやめろやめてくれぇ!

 

 クロ、倒れる。カラスA・B居なくなる。クロ、目を覚ます。

 

クロ 夢か…また変なもん見ちまったな。クソッ。俺は落ちこぼれのゴミなんかじゃねぇ。ゴミなんかじゃねぇんだ。

 

 クロ、立ち去る。

 

 ゴリスとスネッピーがやって来る。

 

スネッピー なんか最近おかしくないでゲスか?あいつ。

ゴリス のろまの癖に生意気な。

スネッピー どこであんなにたくさん取って来てるんでゲスかね? もう取りつくしたはずでゲスが。

ゴリス あんにゃろ、今度見つけたら問い詰めてやる。

スネッピー あ、あれ。

 

 ポムがやって来る。

 

ポム 今日はどこに行くの?

ゴリス あいつ、何も知らずにノコノコと。とっ捕まえてやる。

スネッピー あ、ちょっと待つでゲスよ。

ゴリス 何だよお前、いいとこだったのに。

スネッピー あれ、あれ。

 

 クロがやって来る。

 

クロ そうさなぁ。桃でも取りに行ってみるか。

ポム 桃? なあにそれ?

クロ とっても甘くてジューシーなんだ。

ポム 何それ! 美味しそう。僕も食べてみたいなぁ。

クロ じゃあ連れてってやるよ。俺についてきな。

ポム うん。

 

 クロ、農園へ行く。ポム、後を追う。

 

ゴリス おい、聞いたか?

スネッピー 聞きましたよ、聞きましたでゲスよ。

ゴリス 俺らもあいつらの後を追いかけて行って、美味しい所を頂きだ。

スネッピー 良いでゲスね。良いでゲスね。美味しい所をゴッソリ頂いちゃいましょうでゲス。

 

 ゴリスとスネッピー、後を追う。

 

クロとポムがやって来る。

 

ポム ずいぶん人間のいる所まで歩いて来たみたいだけど、大丈夫なの?

クロ ああ、大丈夫大丈夫。

ポム 本当かい? お父さんもお母さんも人間はとーっても怖い奴なんだって言ってたよ。

クロ あいつらなんてただ騒ぎ立てることしか出来ないでくの坊さ。ちょっと気を付けりゃあなんてことぁねぇよ。

ポム そうなの? クロがいれば百人力だね。

クロ そうさ。俺様がいれば人間なんてちょろいちょろい、ってなもんさ。さ、行くぞ。

ポム うん。

 

 クロとポムが桃の木へ行く。

 ゴリスとスネッピーがやって来る。

 

スネッピー 大丈夫でゲスか? もうかなり人里まで下りてきてるでゲスよ?

ゴリス あののろまが来てんだ。俺たちなら大丈夫に決まってんだろ。それよりも、見て見ろ。あの大きな実。

スネッピー わああ、凄いでゲスね。

ゴリス あんなもの見せられて食わずにスゴスゴ帰れるかっての。

スネッピー それもそうでゲスね。じゃあ美味しく、頂いちゃいましょう。

ゴリス 全部俺のもんだー。

スネッピー ああ、待ってくださいでゲスよー。

 

 ゴリスとスネッピーも後を追う。

 

 ポムとクロがやって来る。

 

ポム ねえクロ。

クロ ん?

ポム あの桃の木を囲っているあれって…何?

クロ あー、あれか。あれは柵とネットだな。人間が独り占めするためにあれで桃を囲ってやがんだ。

ポム 大丈夫なの? そんな所に入って。

クロ 大丈夫大丈夫。お前の小さな体なら、柵の下をちょっと掘ればちょちょいってな感じで行けんだろ?

ポム それは、そうだけど。

クロ 後はそっから俺が広げて中に入るから、大丈夫だって。どーんと俺に任せとけって。

ポム 本当に大丈夫かなぁ?

 

 ポム、柵をくぐって中に行く。

 

クロ どうだ? 行けたか?

ポム 土が、口の中に入ってうわっ…ぺっぺっ。お尻が引っかかって…抜けれない。

クロ 何だ何だ。しょうがねぇ奴だな。無駄にでけぇケツしてっからそうなるんだぞ。

ポム こ、これでも気にしてるんだぞ。そんな事言わなくてもいいじゃないか。いいからそんな事言ってないで手伝ってよ。

クロ 世話の焼ける奴だな。ほら。ほれ。どっこいしょ。どうだ?

ポム うん。何とか行けたみたい。ありがとう。

クロ じゃあ俺も後から行くから、お前は先に行ってろ。

ポム うん、わかった。……うわぁ、大きな桃がこんなにたくさん。(桃の木を登って手に取る。)これが、桃か。(かじりつく。)甘ぁ! んまんまだよこれ。こんな美味しいものがあるなんて、世界は広いなぁ。

クロ どれどれ。俺も頂きますか。うん、うめぇなこりゃ。

ポム 美味しいよね。

 

 人間がやって来る。

 

人間 なんかガサガサすると思ったら…どこぞのカラスが悪さしに来てんだ?

クロ やべっ! 人間だ。逃げるぞ。

ポム え? ちょっ、ちょっと。

クロ ほら、ぼさぼさしてんじゃねぇよ! 捕まりてぇのか!

ポム 違うけど、そんな、急に言われても。

クロ ああ、もうどん臭ぇ奴だな。桃はいいからさっさと逃げやがれ。

ポム いてててて。食べて急に走ったからお腹が…いてて。

クロ ああもう! 何なんだよお前は! 信じらんねぇ。幸い俺にしか気付いてねぇから、今の内に逃げろ。

ポム そんな、悪いよ。

クロ んああ、もう面倒臭ぇな! お前がいると逃げられるもんも逃げられねぇんだよ。お願いだからさっさと行け。このウスノロ野郎が。

ポム そんな言い方しなくても良いだろ。クロの、おたんこカラスぅー!

 

 ポム、逃げる。

 

クロ そうだ。それでいい。ほーら、お目当てのカラスさんはこっちにおりますよ。ほーれ、ほーれ。

人間 カラス風情が、人間を馬鹿にしておるな。

 

 人間、クロを追い詰めて網を投げる。

 

クロ クソッ。

人間 人間を馬鹿にするからだ。カラスの分際で。

 

 ポム、戻って来る。

 

ポム クロ!

クロ 来んな! いいから行け! お前は邪魔だ。さっさと行っちまえ。

ポム クロ…ごめん。

 

 ポム、逃げ去る。

 

クロ 戻ってくんじゃねぇぞ、バカヤロウが。無駄に捕まる事なんてねぇんだ。こんな俺なんかのために。

 

 クロ、人間に連れていかれる。

 ゴリスとスネッピーがやって来る。

 

スネッピー 見たでゲスか?

ゴリス ああ…見た。

スネッピー こんな危ない所、とてもじゃないけど居られないでゲスよ。

ゴリス ああ、さっさと帰るに限る。

スネッピー 帰るでゲス。帰るでゲス。

 

 ゴリスとスネッピー、去る。

 

ゴリスとスネッピーがやって来る。

 

ゴリス はあはあ、ここまで来りゃあ大丈夫だろ。

スネッピー はあはあ、そうでゲスね。

 

 ポムがやって来る

 

ポム あ、ゴリス、スネッピー。良い所にいた。

スネッピー な、何でゲスか?

ポム クロが…僕の友達が人間に捕まっちゃって。僕の力じゃどうしようもなくて。お願い、助けてよ。僕の友達を一緒に助けてくれないか!

ゴリス 馬鹿言ってんじゃねぇよ。人間相手になんて無理に決まってんじゃねぇか。

スネッピー そうでゲスよ。ヤマネが山の様になってかかっていったって勝てる訳ないでゲスよ。

ポム それでも…それでも僕は助けたいんだ。

スネッピー 自分が何を言ってるのかわかってるでゲスか?

ゴリス 無駄に死にに行くようなもんだ。誰が好き好んでそんな事するかよ。

ポム わかってるよ。わかってるんだそんな事。でも理屈じゃなくて…なんか、こう…体の内側からさ、助けなきゃ…行かなきゃって…そう突き動かされるものが…僕の中にあって。僕はね。一人でも行くよ。

ゴリス バカじゃないのか?お前。 それこそ無駄死にだろ。

スネッピー のろまのポムに何ができるでゲスよ。

ポム 例え何もできなかったとしても、それでも僕は友達を助けたい。助けたいんだ、僕が。じゃ。

 

 ポム、クロを助けに行く。

 

ゴリス おい!

スネッピー あーあ、あいつ死んだでゲスね。

ゴリス バカが。のろまの癖に。

 

 ゴリスが去る。

 

スネッピー 本当にそうでゲスね。

 

 スネッピーが後を追う。

 

 クロが籠に捕まっている。ポムがやって来る。

 

ポム クロ! あんな所に閉じ込められて。今僕が助けてあげるからね。

 

 人間がやって来る。クロ、カーカーと威嚇する。

 

人間 さあて、この悪戯カラス。どうしたもんかなぁ。飛べない様に羽をむしってやろうか? それとももう桃をついばめない様にくちばしをへし折ってやろうか? いや…他のカラスへの見せしめに、首をへし折って吊るしてやろう。そうだ。そうしよう。

ポム 不味いな。このままじゃクロが殺されちゃうよ。何とかしないと。

人間 珍しい事もあるもんだ。こんなに泣き叫んでいるのに一羽として助けが来ないなんてな…何とも不憫な奴だ。今楽にしてやるからな。

クロM そうだ。お前の言う通りだ。俺は仲間から、落ちこぼれだのゴミだの言われてハブられて…仲間? そんなもん俺には一度だって居たことねぇよ。たった一度だって。そうか。ここでこの人間にやられるのも良いかもしんねぇなぁ。例え俺が居なくなっても、この世界は何も変わんねぇだろうし。

ポム やめろー!

クロ あんのバカ。

ポム 僕の友達に手を出すな! わー。

クロ バカ、来んじゃねぇ!

 

 ポムが人間に突っ込んでくる。

 

人間 何だ?こいつは。鬱陶しい奴だ。

 

 人間、ポムをつまみ上げる。

 

人間 ネズミがこんな所ウロチョロしおってからに。それにしても可愛らしいネズミだな。

ポム 僕はネズミじゃないやい! 放せ!

クロ バカ、お前何しに来てんだよ。

ポム バカとは何だい。もちろん助けに来たに決まってるだろ。

クロ 捕まってんじゃねぇかよボケナスが。

ポム それは言わないでくれよぉー。

クロ バカだな、お前だけでも逃げてりゃ良かったのに。

ポム そんなことできる訳ないだろ? 友達を置いてなんて行けないよ。だってクロは、僕の大事な友達なんだから。

クロ …バカヤロウが。捕まっちまったら元も子もねぇだろ。

ポム それは言わないでくれよぉー。ごめんね。僕に力が無いばっかりに。

クロ いや、そっか。…ありがとな。嬉しかった。

ポム え?

クロ あー、なんだあれだ。すまんな。巻き込んじまって。

ポム ううん。僕ね。嬉しかったんだ。毎日毎日誰にも相手にされなくて、一人ぼっちで…。でもね。そんな時にクロが声をかけてくれたんだ。一人ぼっちだった僕に。…嬉しかったなぁあの時。世界がね。僕の世界が、パーッと色鮮やかに広がって行って。そこから始まったんだ。あの瞬間から全てが。

クロ お前。

ポム 大事にしなきゃ。クロだけは大事にしなきゃって、そう思った。でもごめん。僕、何もできなかった。本当に何も…。

クロ バカヤロウ! お前のせいじゃねぇだろ…お前のせいじゃ。っああ、ほんとバカヤロウだよな。今頃気づいちまうなんて…本当バカヤロウだ。大切なもんがこんな側にあるなんてよ。ああーなんだ、俺の方こそ、すまん。

ポム クロ。

人間 いくら可愛くてもネズミはネズミだな。おいカラス。お前、食うか?

クロ バカヤロウ! 食う訳ねぇだろ、一昨日来やがれってんだ。

人間 なんだ、いらないのか? そうか。ならしょうがないなぁ。一匹いるとたくさんいるって言うし、殺すか。

ポム 放せよ。妹たちがお腹空かせて待ってるんだ。僕を待ってるんだよ。

クロ やめろ! 俺だけで良いだろ? こいつは見逃してやってくれよ! 頼む。この通りだ。こいつは俺みたいに一人じゃねぇんだよ。なあ…頼むよ。

人間 死ね。

 

 ゴリスとスネッピーが人間の頭に体当たりする。

 

ゴリス おらっ!

スネッピー 痛いでゲス。

人間 うわっ! 何だ?

ポム ゴリス! スネッピー!

 

 ポムが人間に噛みつく。人間、その拍子にクロの籠を蹴り飛ばす。

 

人間 痛てて、痛てて。

ポム どんなもんだい! (ゴリスとスネッピーに。)来てくれたんだね。

ゴリス のろまの癖にカッコつけてんじゃねぇよ。

スネッピー 明日からからかう奴が居なくなってしまうでゲスからね。

ポム 二人共。ありがとう。さあ、クロ。今だよ!

クロ ああ、こんな所はさっさとトンズラするに限る。

人間 待て! このクソカラス共が。

 

 バラバラに逃げる。

 

ゴリス そんな簡単に捕まるかよ。

スネッピー ひええ、こっちに来ないで欲しいでゲス。

人間 ちょこまかと小賢しい。

ポム クロ。僕たちが引きつけてる内に柵の下をくぐって。

クロ ああ、すまない。先に行かせてもらう。

ポム ほらほら、鬼さん。こっちですよー。

ゴリス おらおら。こっちにもいんぞ。

スネッピー こ、こっちは気にしなくてもいいでゲスよ。

人間 本当に鬱陶しいネズミどもだ!

クロ もう大丈夫だ。お前らも早く来い!

ポム うん。みんな行くよ。

ゴリス おお。

スネッピー こんな所すぐ出ましょ、早く出ましょでゲス。

人間 いい加減にしろ!

 

 ゴリスが人間に押しつぶされる。

 

ポム ゴリス!

スネッピー ゴリス様!

ゴリス 俺はダメだ。内臓がやられちまった。俺の事はいいから、早く行け。

スネッピー ゴリス様!

ポム ゴリス!

スネッピー わかりました。行くでゲス。

ポム え、でもゴリスが…。

スネッピー もう手遅れでゲスよ。

ポム ごめん。ゴリス。

人間 まずは1匹。

ゴリス と見せかけてダッシュ。

人間 くそっ、こいつら! どこ行きやがった。覚えてろよ。

 

 人間、居なくなる。

 

ゴリス へっ、もう真っ平ごめんだっつうの。

ポム 無事だったの!?

ゴリス そう簡単に死んでたまるかよ。

スネッピー さすがはゴリス様でゲス。

ゴリス 敵を騙すにはまず味方からってな。

クロ お前らもありがとうな。

ゴリス べ、別に、カラスなんか助ける気は無かったしー。

スネッピー のろまのヤマネにお手本を見せただけでゲスよ。

ポム 二人とも素直じゃないんだから、この、この。

ゴリス うっせ。

スネッピー のろま+ウザいでゲスよ。

クロ お前は…本当にバカなヤツだな。

ポム クロこそバカみたいに人間に捕まってた癖に。

クロ ああ、そうだな。違いねぇや。

ポム どうしたの?らしくない。

クロ お前な!

ポム ごめんごめん。

クロ …ありがとよ、ポム。

ポム …え? 今ポムって。もう一回。

クロ 何だようっせぇな。

ポム もう一回。

クロ あーもううっさいうっさい。

ポム ねえ、もう一回ってば。

クロ うっせぇもんはうっせぇんだよ。誰が言うかって。

ポム あ、酷っどーい。ねえってば、もう一回。ねえねえ。

クロ しょうがねぇなぁ…バカポム。

ポム 違うよ! そうじゃないでしょ!

クロ ありがとう。お前がいてくれてよかった。

ポム くううぅ、クロ大好き。

クロ バカ。やめろ、このバカポム。

 

 (全員のガヤ。)

 暗転。

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