つぶやき童話.嘘
ねずみが二匹いました。
一匹は北に住み、もう一匹は南に住んでいました。
北のねずみは嘘つきでした。ですが自分を素敵にみせる為の嘘以外はつかず、さらに礼儀も正しかったので、いつも北のねずみのまわりには彼を慕う生き物達で賑わっていました。
一方で南のねずみは嘘が下手でした。北のねずみのように世間と上手く立ち回る事が出来ず、いつも誤解されたり、嫌われたりしていました。じつはそんな南のねずみは北のねずみと同じ土地に住んでいて、二匹は恋人同士でした。ですが北のねずみに新しい恋人が出来た事をきっかけに南のねずみは白い大地から逃げるように去ってきたのです。
遠い地の辛い記憶が薄れかけてきた頃でした。南のねずみはふと旅のねずみ達から、北のねずみが不治の病に罹ったという噂を耳にしました。
南のねずみは北にお見舞いに行こうと思いました。ですが話の続きによると北のねずみは心配した動物達に助けられながら毎日美味しいものを食べたり、恋人とあちこちに旅行にいっているようでした。
南のねずみは北にいくのをやめました。自分が顔をだしても今更ですし、第一、北のねずみが喜ぶとは思えなかったからです。
季節は巡り、夏草の匂いが漂い始める頃、風の噂で北のねずみが星になったと聞きました。
みんな、馬鹿だな。
それは北のねずみの嘘だよ。
夜空を見上げながらつぶやく南のねずみの目には、
あの頃と何も変わらないお月さまがぼんやりと写っていました。
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