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電子音楽を聴く④

2023年一発目の記事は、電子音楽、というかホームリスニングにも最適なダンスミュージック集です。特に2022年の聴き逃しを聴き漁っていたら年間ベスト級のアルバムに次々と出会うものだから堪らないですね。なので、8割2022年作です。

過去の記事をまとめてます↓


Millie & Andrea / Drop the Vowels (2014)

<Modern Love> / UK

まず<Modern Love>から3枚行きます。一発目は、Millie & Andreaの2014年作。ちなみに、MillieがDemdike StareことMiles Whittakerで、AndreaがAndy Stott。と、<Modern Love>の中心人物二人のタッグ作ということでそれはそれは間違いない内容。まず、英国らしくアートワークが実に皮肉っぽく良い。老夫婦?をこちらに向かせて"Because Life on the Street is a Dead End"ですから。アートワークで人生の終わりを示唆しながらも、音楽はリズムを刻みひたすら前に進む。もちろんテクスチャ的にはダークアンビエントで暗いが、ジャングル、ミニマルテクノ、インダストリアルなビートがバシバシとキマっており、むしろそれぞれのソロワークよりも踊れるくらいだ。M2 "Stay Ugly"、M4"Spectral Source"が特に好き。

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Demdike Stare / Wonderland (2016)

<Modern Love> / UK

<Modern Love>二発目は上述のMillieことDemdike Stare。Demdike StareはAndy Stottと並んでModern Loveのツートップというだけでなく、自分が愛してやまないShinichi Atobeの諸作をリリースする<DDS>(<Modern Love>のサブレーベル)の主宰でもある。ということで、このアルバムを久しぶりに聴いたらバチくそカッコ良すぎた・・・・。インダストリアルでディープなテクノというだけでなく、ジャングルっぽいトラックもあるのが良い。個人的に好きなトラックとしては、まず10分にもわたるトラックであるM3 ”Hardnoise"。時間と空間を飛び越えるかのようにノイズからドローン、そしてミニマルテクノに変化していく様は圧巻。M5 "FullEdge"では攻撃的なベース音がこれでもかというくらいに刻まれ、エッジの聴いた電子音がその勢いに拍車をかける。そしてM7 "Airborne Latency"では、テイストの異なる打音が積み上げられ、徐々に上物のシンセっぽいベールと合流し、最終的にはアンビエントの世界に突入。なんというカタルシス。
都会的で無機質なインダストリアルさだけでなく、ダブテクノ的深淵や、ドラムン/ジャングルのような荒々しさまで併せ持つマシンミュージックで、最高のレコードだ。

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Jamal Moss / Thanks 4 the Tracks U Lost (2022)

<Modern Love> / UK

<Modern Love>三発目は、シカゴハウスの雄Jamal Mossの最新作で、全6曲36分となかなかコンパクトなダンスレコード。色彩豊かなサイケデリックハウスから始まるM1 "The Lust With-IN"からもうガッツポーズである。M2 "Thi is 4 the Rave Bangers II"やM5 "When Love Knows No Bounds"のエッジーで弾力のある立体的なマシンビートも最高で、シンセによる歪んだリフとバウンスするビートでたまらないM4 "I Can't Escape From U"なんかは聴いてるともはや笑ってしまう。
全体的にシンセがロマンティックに楽曲を彩る一方で、その太いキックとベース音からは腹の底で躍動する沸々としたエネルギー/ソウルを感じる。それはまさにハウスミュージックの持つアンダーグラウンドでDIYな精神性を表しているように感じられ、全然知らないけどハウス黎明期にクラブで汗かきながら踊る人々の姿が思わず浮かんでくる。

DrexciyaのJames Stinsonのソロ名義、The Other People Place「Lifestyles Of The Laptop Café」が好きな人はめっちゃオススメします。

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Ron Trent / What do the stars say to you (2022)

<Night Time Stories> / UK

シカゴハウスの重鎮、Ron Trentによる11年ぶりのアルバムはバレアリック・ダウンテンポアルバム。ハウスのエッセンスはそこそこに、ジャズ、ファンク、フュージョン、ニューエイジ、ラテン、アフロビート等の要素を含んだ「芳醇」としか言いようがない音楽作品で、こんなんずるいでしょ…ってくらいに洗練されている。Azymuthのドラマーやベーシスト、Gigi Masin、Khruangbinなどが参加していることからも、今作の音楽性が想像できるかもしれない。生楽器とエレクトロニクスの調和の取れ具合が凄まじいね
ちなみに、チルなミックスアルバムLate Night Taleシリーズをリリースする<LateNightTales>の姉妹レーベルである<Night Time Stories>からのリリース。

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Ariel Zetina / Cyclorama (2022)

<Local Action> / UK

シカゴのプロデューサー兼演劇脚本家というAriel Zetinaのデビューアルバム。トランスウーマンということでLGBTQコミュニティの発展にも尽力しているらしい。ハウスやテクノがベースにある音楽だけど、劇作家としての経験が生きているのか、非常にバリエーションに富んだ内容で、アルバム通して何らかの物語性を感じる(ジャケットもそんな感じだ)。例えば、M2 "Have You Ever"では"Have you ever been with a girl like me before?"という繊細なラインとアッパーなテクノビートを掛け合わせ、トランスウーマンの不安や緊張と、前進を表現する。M8 "Gemstone"では派手ではないけど躍動的なテクノビートに多層的なボーカルが乗っかる希望的な側面も見せ、ラストのM9 "Tropical Dipression"では陰陽に分裂したトラックが、途中からやたらとダイナミックに、そして人の人生を象徴するかのようにどこか空回り気味に走って終わる。喜びと悲しみと笑いと痛みと、様々な感情が音に託されて、それがダンスフロアにて炸裂しているようなアルバムだ

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Black Rave Culture / Black Rave Culture, Vol. 2 (2022)

Self-Released

Resident Adviserの年間ベストで知ったんだけど、このワシントンDCの3人組によるセカンドアルバムはなかなかにヤバい内容であった。ハウス、テクノ、フットワーク、ブレイクビーツ、ジャージークラブなどのハイブリッド・ダンス・ミュージック。これという定型の形に当てはめることが自分にはできないんだけど、M3 "Activate"、M4 "Morocan Mist"、M5 "Something Else"などのボンボンボンボンと鳴らされるキックが割と特徴的で(ハウスのキックの音色でフットワークやジャージークラブっぽいことをやってるような?)、全体的にbpm140~160と割と早いテンポの楽曲が多く、ばっちり踊れる。Black Rave Cultureという名前からもその気概が伺えるけど、黒人の多様性と創造性を示すかの如くハイクオリティでバラエティに富んだ内容は、自分の心を掴むのに全く時間を必要としなかったです。

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Maxime Denuc / Nachthorn (2022)

<Vlek> / Belgium 

ベルギーの実験音楽家らしい。オルガンによるアンビエント/ドローンとダブテクノを組み合わせた音楽性で、よく見るとジャケットにも「for midi-controlled organ」と記載がある。ダブテクノといってもドラムレスな作品で(全然近くないけどドラムレスといえばBarker/ Utilityが超名盤!)、メロディ等の反復で抑揚をつけてダンスミュージック化してる感じだ。また、オルガンということでかなり厳かなのかと思いきや、意外とそうでもなく、エモーショナルなメロディが大胆に鳴らされている。オルガンドローンといったら自分はKali Maloneを思いつくが、それとはかなり別種だ。Boomkatで知ったんだけど、そこではMaurizio、Lorenzo SenniなどとともにEnyaの名前が挙げられていて、言い得て妙だなと思った。

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rRoxymore / Perpetual Now (2022)

<Smalltown Supersound> / Norway

ヴィラロボスを思わせるようなミニマルテクノを、ヴィラロボス以外で久しぶりに聴いた気がする(特にM1 "At the Crest"は顕著)。そういえばあまり最近はこういうテックハウス的なものは流行ってないよね。どちらかというとキックの圧も強めで、ハウスだけでなくフットワークとかドラムン、レゲトンとかそっち系の影響を受けている音楽が主流なように思う。だからか、逆にこのrRoxymoreのアルバムは新鮮に聴こえたし、また00年代ミニマルの二番煎じでは全くないところに好感を持った。ダンスミュージックとしての気持ちよさは前提としてありつつ、耳を澄ませば澄ますほど実験的で細かくデザインされた音の切れ味(ASMR的な)と、硬質だけどどこか馴染みやすいサウンドに惹かれていく。フランス出身ベルリン拠点のアーティストということで、やっぱベルリンは最高だなと思う。

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Decius / Decius Vol. I (2022)

<The Leaf Label> / UK

Decius はロンドンのエレクトロユニットで、デビューアルバムとなる本作にはもう笑っちゃうくらい最高のアシッドハウスがこれでもかというくらいに詰め込まれているアンダーグラウンドで、セクシーで、下品で、パンクで、ユーモアがあって、そして生への渇望に溢れている
インディーバンドであるFat White FamilyのフロントマンLias Saoudiの、ブチ上げダンストラックの上でマントラのように呟くボーカルワークがこれまた絶妙で、いかがわしいダンスアルバムとして機能することに多大な貢献をしている。
もう全曲がハイライト。とにかく聴きましょう。聴くときは、公式からの声明通り、タオル持参でお願いします。

Unwashed acid house and disco through a broken South London filter - from ‘70s New York bathhouses to ‘80s Chicago nightclubs via the Brixton Windmill. Bring a towel.

70年代のニューヨークのバスハウスから80年代のシカゴのナイトクラブ、そしてブリクストンのウィンドミルまで、南ロンドンの壊れたフィルターを通して、洗礼されていないアシッドハウスとディスコを再現。タオル持参で。

The Leaf Label 公式

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Authentically Plastic / Raw Space (2022)

<Hakuna Kulala> / Uganda

ここからアフリカ三連発。まずは、ウガンダを中心とした東アフリカアングラダンスシーンにおいて「ナイルの悪魔」と呼ばれているらしいAuthentically Plasticのデビューアルバム。<Nyege Nyege Tapes>というレーベルがこの辺りの重要な役割を果たしているようだが(TURN参照)、本作はそのサブレーベルでケニアのDJ/プロデューサーであるSlikbackが主宰するレーベル<Hakuna Kulala>からのリリースである。インダストリアルなビートが呪術的な衣を纏って荒々しくぶつかりある一方、こんなにカオスめいているのにタイトに引き締まって聴こえるのが刺激的。この攻撃的な姿勢には、ウガンダの保守的な文化においてクイア音楽シーンを確立するために戦ったという、これまでのAuthentically Plasticの取り組みが反映されているのかもしれない。

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Afrorack / Afrorack (2022)

<Hakuna Kulala> / Uganda

Authentically Plasticと同じく<Hakuna Kulala>からのリリースは、ウガンダ出身のBrian Bamanyaによるこれまた刺激的なエレクトロニック作品。こちらはモジュラーシンセとアフリカ由来のパーカッシブなリズムの融合が独特で、それはM1 "Osc"、M2 "Last Modular"を聴けば明白だ。一方で、M3 "Inspired"ではKraftwerkやTangerine Dreamを想起させるダークなシンセサイザーが印象的で、なかなか幅が広いなと思わせる。M7 "Cowbell"に至っては「高田みどりか?」なんて思うほどのミニマルで豊かな電子メロディが鳴り、極めつけはM8 "African Drum Machine"で、力強くパーカッションが鳴り響く中に彩りを与えるシンセサイザーが素晴らしい。全体的にアフリカ的ポリリズムにヨーロピアンなミニマリズムをこの上なく上手に組み合わせているなという印象で、それが故に独創的な雰囲気を作り上げることに成功していると思う。

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Slikback / K E K K a N (2022)

Self-Released

というわけで、最後にSlikbackである。2017年に<Nyege Nyege Tapes>に参加、そして<Hakuna Kurara>の主宰であり、多作家なSlikbackの攻撃的でバイオレンスなエクスペリメンタルダンスミュージック集。まず、インダストリアルなノイズはSasu Rippattiの最近のアルバムにあるような自然界の猛威のような荒々しい音に人為的な不自然さを注入したような印象を受けた。また、全く詳しくないけどアフリカのダンスミュージックからゴムやシンゲリ、ヒップホップの世界からはトラップ、グライムなどを咀嚼して、独自のダンスミュージックとしてアウトプットする様はなかなかに圧巻で、サイバーパンクな世界観と強烈なベース音でガンガンにドライブしていく音を浴びていると自然と身体も激ってくる。非常に重たい音楽でもあるが、全10曲30分で終わるあたりも潔く、これくらいであれば何度も何度も繰り返し楽しみたくなる量感だ。

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2022年の聴き逃しがどれも最高過ぎて、全然2023年が始まらない…。

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