電子音楽を聴く⑤ Planet Mu最高
<Planet Mu>がまたアツくないですか?<Planet Mu>はご存じμ-ZiqことMike Paradinasのレーベルかつ<Hyperdub>と並んでUKエレクトロニックの重要レーベルであり、特にダブステップや、ジューク/フットワークを世界に広めたレーベルとして抑えておいて損はないわけです。で、気づいたら今年もすでにMeemo Comma、Nondi_、DJ Girl、RP Booらの素晴らしいアルバムがリリースされているし、そんなに得意ではなかったジューク/フットワークに対して今年になってやたらと感度が高まったので、<Planet Mu>の過去作品をちょくちょく振り返ったりしては、おおおおおお〜と驚き、慄き、ぶっ飛ばされております。ということで、今回は<Planet Mu>縛りでの感想記事です。
過去のシリーズは以下にまとめてます。
DJ Diamond / Flight Muzik Reloaded (2011)
久しぶりに聴いたら感動するほどに素晴らしかったDJ Diamondの2011年作。自分が聴いた数少ないジューク/フットワークアルバムの中でも最もミニマルな音楽で、人を殺すかような切れ味鋭い変速ビートはひたすらカッコいい。そして、一癖も二癖もあるボイスサンプリングの使い方がユニークで、M2 "Speakerz 'n' Tonguez"、M7 "Torture Rack"、M9 "Down Bitch"あたりにそれは顕著に見られる。また、M8 "Decoded"のような不穏でスペーシーでダイナミックなシンセリフも最高にクール。シカゴゲットーと言われてもいまいちピンとこない部分はあるが、このアルバムはアンダーグラウンド精神が宿ったエッジーなダンスミュージックのみで構成されていることをビンビンに感じるのである。
Kuedo / Severant (2011)
ダブステップデュオVex'dの片割れでもあるJamie Teasdale改めKuedoのソロデビュー作。UKダブステップやIDMサウンドにシカゴフットワークを組み合わせたリズムワークが今聴いても(むしろ今聴くからか)新鮮でめちゃかっこよい。チチチチというハイハットの連打は完全にトラップ・ミュージックのそれだ。また、大胆なシンセサイザー使いはかなり未来都市やSFチックな印象を与え、いくつかのメディアのレビューで引用されていたようにVangelisのような世界観を彷彿とさせる。つまり、クラブ的というよりも映画的で立体感がある音楽なのです。
RP Boo / Legacy (2013)
フットワークのレジェンド、RP Booのデビュー作。90年代から活動していたはずなので、昔から追っていた人らにとっては待望のという形容詞がさぞかしふさわしかっただろうと思う。なので、デビュー作とは思えないくらいの完成度を見せており、ここにはフットワークの衝動と成熟がある。ツンのめるように連打されるハイハットやベースと、艶のあるボーカルサンプリングの連携が絶妙で、DJ Diamondの奇天烈感と比較するとよりスムーズに聴こえる。ある種のソウルミュージックのような貫禄も感じさせるかもしれない。本作の続編が今年リリースされており、それは2002〜2007年に録音されたトラック集ということだが、2023年の今聴いても最新のビートミュージックに聴こえた。にしても、M5 "Battle in the Jungle"でサンプリングされているNorman Conarsの"You are My Starship"って曲、テレビか何かでよく使われてたと思うんだけど全く思い出せなくてモヤる…。
Jlin / Dark Energy (2015)
「やっば・・・」と思わず声が出てしまったJlinのデビューアルバム。全体的にJlinが内包する怒りの感情が表出されているように感じる。そして、ダンスフロアの枠にはとてもじゃないけど収まらないジューク/フットワーク作品であり、「Dark Energy」といつタイトルに相応しい真っ黒い荒々しさと、新たな世界に踏み込むような創造性を感じる。
特徴的なピアノループから始まるM1 "Black Ballet"から不穏な空気を纏っており、複雑怪奇なリズムが無慈悲に脈を打つ。M3 "Guantanamo"は、男「You don't wanna hurt anyone?」女「But I do....I'm Sorry」というやりとりに続いてマシンガンのような連打するビートと悲鳴と「Leave me alone」という切実な叫びが絡み合うというなんとも凄惨なトラック。一方で、M5 "Black Diamond"ではやたらファンキーでポップな趣を披露していたり(超好き)、なかなか食えない一面も。
ちなみに、本作リリース時は製鉄所勤務していたJlinだが、このアルバムの成功でフルタイムで音楽制作に取り組めるようになったらしい。そういう話はなんか良いよね。
Jana Rush / Painful Enlightenment (2021)
シカゴのJana Rushによる2021年作は謎めいたボイス/ジャズ/ギターサンプル等がふんだんに使われ、どの曲も一筋縄ではいかない奇妙さを孕んだフットワーク(フットワークに括っていいかも迷う)怪作。抑うつされた内部のエネルギーを発散するかのような作品は、どうも自身の鬱病と向き合って制作されたらしい。いわゆる自身の暗黒期からの脱却のためのアルバムである。M1 "Moanin”はArt Blakeyの有名曲を意識しているのかサックスとフットワークの組み合わせだが、これがまた居心地悪い名曲。次のM2 "Suicidal Ideation"は9分にも及ぶ曲で繊細なパーカッションとボイスサンプルの絡み方が強烈な印象を与える。ダンスを求めるアルバムではなく、Throbbing Gristleのようなダークなエクスペリメンタルミュージックとして聴くのが吉。
μ-Ziq / Hello (2022)
<Planet Mu>縛りで、μ-Ziqを取り上げないのは失礼なので、この2022年作を。これがまたかっこいいビートミュージックアルバムなんですよね。メロディアスなウワモノやベースラインと、弾けるようなブレイクビーツが絶品で、リスニングダンスミュージックとして流石のクオリティの高さを見せつけられている。M4 "Green Chaos"は<Planet Mu>の看板アーティストRP Booのオマージュということで、Mike Paradinas流のフットワーク。また、90年代から活躍するレジェンドということで、M2 "Iggy's Song"やM3 "Magic Pony Ride (Pt.3)"など、90s IDMな香りをプンプン匂わせる楽曲も多数あり。これ聴いたらやっぱりAphex Twinとか聴きたくなるよね。
<Planet Mu>縛りでnote書いておきながら、実はμ-Ziqの90sアルバムは<Rephlex>からリリースされたデビュー作「Tango N'vectif」しか聴いてないという体たらくっぷりなので、他もちゃんと聴きます。
Meemo Comma / Loverboy (2023)
Meemo Comma aka Lara Rix-Martin自体を知ったのはエヴァや攻殻機動隊のサントラにインスパイアされたという前作「Neon Genesis: Soul Into Matter」(2021)で、非常にSF然としたエレクトロニックアルバムだった。ただ、当時はそこまでハマらなかったというのが正直なところで、そんなイメージの中今作を聴いたら良い意味で横っ面を殴られた気分になった。なんとかっこいいブレイクビーツアルバムだろう。音楽もそうだがアートワークもY2Kっぽさがあり、非常にフレッシュ。BPM 160-170くらいのジャングル/ドラムンベースというと最近ではNia Archives等の台頭が浮かぶが、例えばM6 "Kyle"の音使いからはAutechreやAphex Twinを思い出すなど、このアルバムはもう少し実験的でその辺は<Planet Mu>らしさを感じる。でも全体的にはやっぱりラフで頭空っぽにして踊れるようなダンスミュージックなので、気軽に聴いてください。
Nondi_ / Flood City Trax (2023)
率直に「新世代の実験的フットワーク」といった印象で、個人的に2023年最良のアルバムの一つ。DJ Diamond、RP Boo、Jlinらのアルバムはミニマルでストイシズムが基本にあるように感じるが、Nondi_は同じくフットワークをベースにはしているもののミニマリズムはそこまで強くなく、インターネット以降のノスタルジーと混沌が入り混じった世界観を演出している。シューゲイザーのように甘美でドリーミーな瞬間も多いがそれが全てではなく、フットワークの性急で攻撃的なリズムや歪んだノイズによる効果か、自分にはどこか歪んだエネルギーから生み出された何かであるような気がしてならない。表層的に聴くととても親しみやすくも聴こえるんだけど芯のところでは絶対にそんなことはない、不思議なアルバムだ。ちなみにFlood Cityとは彼女の故郷であるペンシルバニア州ジョンズタウンを指しているようで、過去に大きな洪水を乗り越えられなかった歴史を持つそうな。
最近忙しくて音楽聴く時間が激減しててストレス溜まりますねぇ・・・・・・・・・・・・
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