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ヒップホップ名盤を聴く⑥

ヒップホップ初心者が名盤を聴いて感想を書くシリーズも第6弾。大体一記事で10枚前後書いてるから、それだけでも60枚近くになるのか。我ながらよく頑張っている。

LL Cool J / Mama Said Knock You Out (1990)

デフジャムからわずか16歳でデビューしたアイドルラッパー、LL Cool Jの4枚目。LL Cool JはLadies Love Cool Jamesの頭文字から来ているらしく、ラップバラード曲 "I Need Love"のヒットやマッチョな肉体、クールな容姿、トレードマークのカンゴールのハットといったファッションセンスから、女性から絶大な人気を誇っていたという。その分、同性からはディスの対象になりがちだったとのこと。まあ気持ちはわからないでもない。笑

LL Cool Jは1985年リリースの「Radio」も聴いたけど、そちらは個人的にあまりピントこなかった。一方で、このアルバムは非常に洗練されており、90年代の幕開けを高らかに宣言するかのようなクオリティを感じる。"Around the Way Girl"は本当にメロウクラシックと言ってよいくらいでかなりお気に入り。また、"Mama Said Knock You Out"は、当時ベテランラッパーKool Moe Deeからボロクソにディスられ、また前作が不振に終わり評価が急落という、なかなか落ち目のタイミングで満を辞してリリースした痛烈なカウンターパンチ。JB "Funky Drummer"、スライ "Sing a Simple Song"を引用したハードな曲で、かなりキマってる。一時期脳内リピートが止まらなくなった。ちなみにMamaはおばあちゃん。

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The Disposable Heroes of Hiphoprisy / Hypocrisy Is the Greatest Luxury (1992)

バンド形態のヒップホップということでロック成分、特にNine Inch Nailesに通じるようなインダストリアル成分を強く感じた。歌詞は追ってないけど、初めて聴いた時からRadiohead "Fitter, Happier"や映画ファイトクラブのような反資本主義、反消費主義のような匂いを感じ、少しググってみるとその印象は大きく間違っていないようだった。さらに言うなら、Public Enemy、もっと遡ればGil Scott Heronのように社会に対する怒りのパワーをエネルギーに変えてる感じ。コンシャスヒップホップの中でもさらにパンク寄りというか、過激な匂いがする。そもそもヒップホップには、ある種のルールとしてボースティングや他者と競いあうというゲーム的な要素があると思うんだけど、このアルバムはその文脈からはまるっきり外れており、社会に向かって唾を吐きまくるパンクやロックの流れに乗せた方がしっくりくる。ただ、音楽的には個人的にヒップホップに求めるものはこれではない感もあり、何とも言えない感じがする。RYMでの評価は割と高いけど。

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KRS-One / Return of the Boom Bap (1993)

80年代後半にデビューして瞬く間に人気となったBoogie Down Productionsに所属していたKRS-Oneは知的で社会派なラッパーとして有名で、ティーチャと呼ばれるらしい。KRS-Oneは”Knowledge Reigns Supreme Over Nearly Everyone”(知識がほぼ全ての人を支配する)の頭文字。なんか知的な命名だ。他にもヒップホップコミュニティによる暴力行為のストップのためのStop The Violence Movementやヒップホップ文化の保全を目的としたTemple of Hip Hopを設立したりとめちゃめちゃ偉い。調べるまで、ヤンチャ系だと思ってたので誤解してました。

そんな彼のソロ名義ファーストは、結構シンプルでミニマル、そしてハードコア。ひたすらドープなリズムを刻む感じがまさにタイトル通りブーンバップで、本人の他にDJ PremireやShowbizなどが参加している。一つのフレーズの繰り返しを多用するので頭に残る曲が多い。M2 "Outta Here"、M5  "I Can't Wake Up"、M9 "Uh Oh"あたりはまさにそんな感じ。ShowbizによるM7 "Sound of da Police"はこのアルバムの中でも代表曲で、警察による暴力や構造的レイシズムを批難した名曲。

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Organized Konfusion / Stress: The Extinction Agenda (1994)

クイーンズの核弾頭、Organized Konfusionの2nd。1stのリスナーを飲み込まんばかりの衝撃的な勢いは薄れてしまったが、その分圧倒的にドープになった印象。BPMを落として粘っこくついて回る太いベースやダークでジャジーなトラックに、強弱・緩急をきっちりつけて揺さぶってくるPharoahe MonchとPrince Poの2MCsがマジで最強。シングルカットされたM2 "Stress"(Crush! Kill! Destroy! Stress!が頭から離れない‥)、M3 "The Extinction Agenda"、超ダークでマッシブなM7 "Bring It On"、O.C.・Q-Tipとゆるく遊んでいるような雰囲気のM9 "Let's Organize"、ハードコアなM12 "Stray Bullet"と聴きどころはたくさんあり、個人的にも名盤として確定です。

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Black Sheep / Non-Fiction (1994)

DresとMr.Lawngeの2MCsによる羊ジャケアルバムのセカンドはジャジーでアングラ臭の漂う名盤ATCQの2ndっぽいかも・・と思ったらNative Tongues勢だったと知り腑に落ちる。ただ、今作は前作と異なり、Native Tongues勢の絡みは最小限(ない?)の模様。
無駄な音が全くないヒップホップで、悪く言えば地味、良く言えば渋かっこいいという感じ。でも結局何度も繰り返し聴くのはこういう長時間かけてグツグツと熟成させたようなアルバムだったりするものだ。M4 "City Lights" 、M6 "E.F.F.E.C.T."、M11 "North South East West"、 M16 "Without a Doubt"あたりがお気に入り。1stは未聴なんだけど、そっちの方が人気みたいなのでチェケラします。

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Group Home / Livin' Proof (1995)

Gang StarrのDJ Premierプロデュースによる、Gang Starr Foundationの一員であるGroup Homeのデビュー作。Group HomeはLil' DapとMelachiの2MCsのデュオで、Gang Starrのド名盤「Daily Operation」のM6 "I'm the Man"や「Hard to Earn」のM8 "Speak Ya Clout"に参加していたりする。今作のM11 "Supa Star"が1994年にヒットし、そこから焦らしに焦らして1年以上後に本作がリリースとなった。とにかくPrimoによるシンプルでドープなトラックが光る好盤で、自分で「俺ヤバイの作ってる」「自身のプロデュース・ワークの中でも最高の作品」と語っていたとかいないとか。いや、でもそれくらい言っても文句ない出来だと思う。Gang Starrもそうなんだけど、個人的にプリモのシンプルでタイトなトラックは最初はかなり物足りなかったんですよね。それが聴いてるうちにその奥深さ(これをドープと形容せずに何という)に飲み込まれ、知らず知らずのうちに再生回数を重ねてしまっている感じ。完全に自分の中でヒップホップにおけるスルメ盤の地位を確立した。

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Pete Rock & InI / Center of Attention (2003)

いや〜〜〜ヤバ杉内!ドープという言葉がよく似合う、まさにクラシックな香り漂うビートに完全にノックアウト!一発聴いただけで傑作というのがわかるアルバムはそう多くはないけど、これは間違いなくそれに該当する。さすがPete Rockですわ。
制作自体は1994〜1996年と1994年リリースの名盤「The Main Ingredient」のすぐ後ということで、いかにこの時期のPete Rockが充実していたかが伺える内容。この音楽には繊細さと力強さ、ディープなソウルとアンダーグラウンドの精神が宿っている。深みが圧倒的なんですよ(圧倒的主観)。

Pete Rockのビートばかりベタ褒めしてしまうけど、InIもなかなか良い。InIはリードラッパーのRob-O他、Pete Rockの実弟であるGrap Luvaを含む4人MCのグループで、それぞれがしっかりと知的でクールなラップをかましており、これがまたPete Rockのドープなビートに映えるんです。

それにしてもこのクオリティの内容がレーベルとゴタゴタした都合でお蔵入りになってたとか・・・信じられんな。これが95年とか96年にリリースされてたら絶対にもっと名盤扱いされていたと思う。

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Jay-Z / The Black Album (2003)

当時引退宣言をしてこれがJay-Zのラストアルバムになるという触れ込みでリリースされた8枚目のスタジオアルバム。言語的な問題でリリックはじっくり読み込まない限り理解できない自分にとってのJay-Zの良いところといえば、マスにもウケが良いだろうということが容易にわかるそのラグジュアリーなサウンドや、容易に脳にインプットされるメロディメイカーっぷりを特に挙げたくなるが、まさにこのアルバムはそんなJay-Zの良さが詰まったアルバムだと感じた。また、Kanye West (M4 "Encole"、M12 "Luciffer")、 The Neptunes (M5 "Change Clothes"、M13 "Allure")、 Timbarand (M6 "Dirt off Your Shoulder")、Eminem (M7 "Moment of Clanity")、 Rick Rubin (M9 "99 Problems")、 DJ Quick (M11 "Justify My Thug")と自分が知ってるような大御所を挙げただけでもこれだけおり、プロデューサーを取っ替え引っ替えできる財力、そして取っ替え引っ替えしても自分色に染め上げることのできるJay-Zのデカさに圧倒される名盤。

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Blu & Exile / Below the Heavens (2007)

ラッパーBluとトラックメーカー/プロデューサーのExileが組んだ、これまた素晴らしいクラシックなブーンバップアルバム。 Bluはもともと厳しい母親と継父の元で育ち、ラップなどもってのほかな環境で育ったようで、その後実夫の元に移り住んでからラップに興味を持つようになったという。本アルバムではDMX「It’s Dark and Hell Is Hot」の獰猛さやCommonの知的さを彷彿とさせるような、中々多彩でバランスの取れたラップを披露している。
そして、Exileの作るビートがこれまた素晴らしい。全体的にソウルフルでジャジーなブーンバップで、ローファイ感やアングラ感も漂わせているのが、個人的好みにズバッとハマる。こういうの抗えんな〜。西海岸らしいメロウなM7 "Dancing In the Rain"、跳ねるようなビートのM11 "Soul Rising"、M13 "Below the Heavens, Pt.1"ではNas "The World Is Yours"をサンプリングするなど先人への敬意も忘れないところも良き。

リリースに前はStones Throwなどにもかけあったがセールスは見込めないと言われていたらしい。結局LAのSound in Colorレーベルからのリリースに漕ぎ着けたものの最初はほとんどプレスされなかったが、その後、ヒップホップブログに取り上げられ世界は一変したという。何ともインターネット、ブログ世代ならではのエピソードで、確かに2000年代はブログが力を持っていた時代だったなと、懐かしく思った。

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今回もクラシックなブーンバップばかりなんだけど、そろそろトラップとかドリルとかもきちんと攻めたいなと思いつつ、まだ中々そこまでいけてない。あと、昔からロックやポップスとかを聴いてても歌詞は二の次(そもそも詞を愛でる能力が完全に欠如している)なので、ヒップホップを聴いても結局音としての気持ちよさ(トラックとかライミングとかフロウとか)を重視して聴いてしまうんだけど、その辺もちょっとずつ違った見方で捉えられるようになったらさらに面白いんだろうな〜とは思いますね。


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