結婚式の友人代表スピーチがキンタマになった話

あれは今から7年前。

華の金曜日の夜、中学時代からの親友と2人で飲みに行っていた。照明の穏やかなbarで酒を片手にくだらぬ話をしつつも、2人で話に華を咲かせていた。

0時を回った頃、2人とも大人になったもんだと感傷に浸っていた。すると、急に友が「結婚する、式に来てほしい、できれば結婚式の友人代表スピーチをお前にお願いしたい」と言ってきた。

俺はグラスにはいった氷をカランカランと鳴らしながら、

「おめでとう、俺に任せておけ。最高のスピーチでお前の披露宴を飾ってやる」

と伝えた。

今までも何度か友人代表スピーチをしたことがある。お願いされることはありがたいことだ。
そして何よりも親友の結婚式。心を込めたスピーチで祝福したかった。

責任感の強い俺はそれから3日3晩、寝ずに考えた。いや、寝てるっちゃー寝てた。仕事もあるし、無理すると仕事に影響及ぼすし。

でも本当に一生懸命考えた。

通勤中も、仕事中も、昼飯のときも、テレビ見てるときも、うんこしてるときも、お尻拭いてるときもエロ動画を一生懸命検索しているときも、親友のために必死に考えた。

そして、原稿がついに完成した。

基本的に女性側の友人代表スピーチは涙涙になることが多い。

男側の友人代表スピーチは笑いを入れつつ、最後はいい感じで締めるというのがセオリーだ。(少なくとも俺の周囲では……全国的にはどうか知らん。)

そのセオリーに従い、スピーチ内容はこんな感じとなった。

◯俺と親友の出会い。
◯中学からの馴れ初め。
◯水泳の授業での準備体操時、屈伸の際に毎回海パンから金タマがはみ出ていたこと。
◯親友がいかにいいやつか、俺との思い出話を交えて。

完璧だった。笑いもありつつ、親友を立てつつ、最後は素敵な思い出で話で涙を誘う。
自分の才能が怖かった。

そして、月日は流れ当日を迎えた。
俺は何度も何度もスピーチの練習をした。
もう完璧だ。

披露宴が始まった。上司の乾杯で始まり…………めんどくさいので以下省略。

ついに友人代表スピーチの番だ。
俺は周りに一切目を向けていなかった。何故なら、このときのために、全集中の呼吸で気を溜めていたのだ。最高のスピーチをするために。

司会者から俺の名前が呼ばれる。
「次は友人代表スピーチです。新郎の親友、タロの助様お願いします」

気は熟した………

俺は席から立ち上がり、一礼、そしてスタンドマイクのある高砂横までゆっくりと歩を進めた。

周囲から歓声が沸き上がる。
「よっ!イケメン!!」
「スピーチ期待しているよ!!」
「ホントイケメンだなぁ!」
「イケメンキングっっ!!がんばれ!!」

マイクの前に立ち、周りを見渡した。

俺はマジでビックリした。
新婦の職場の人たちや、友だちたちが美人ばかり。桁外れの美人ばかり。しかもみんな結婚式だからドレスアップしている。

思考回路はショート寸前だった。

えっ、なに俺、こんな人たちの前でスピーチするの?えっまじで?どうしよう?キンタマはみ出る話とかするよ?恥ずかしいんだけど。えっ、なんで。なんで俺辱しめ受けないかんの?
つーかこいつ(新郎)がいつも水泳の授業のとき、キンタマ出てたのが悪いんじゃん。はぁ?マジ意味わからんし。帰りたいし。

もう、ダメだと悟った。

「ご、ごごご、ご紹介に、あっああ預かりましたタ、タ、タロの助です……」

「しっ、新郎とはキンタマで、いや、中学からの、キンタマで、ちちち違います。友だちで……なっ、仲良くいつも、キンタマで………」

冷たい空気が流れる。
披露宴に来ている人たち全員が、俺をまるでキンタマを見るような冷たい目で見ているように感じた。

「あっ、あぐ、あの、えっと、ホント、ここここんな綺麗な人と、けっ、けけ結婚できるなんて、お前は、ほほんとにきっ、キンタマだなぁー、ハハ」

もう二度と、スピーチはしない。

終わり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?