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最近の【ほぼ百字小説】2024年9月3日~

*有料設定ですが、全文無料で読めます。

【ほぼ百字小説】をひとつツイート(ポスト)したら、こっちでそれに関してあれこれ書いて、それが20篇くらい溜まったら、まとめて朗読して終わり、という形式でやってます。気が向いたらおつきあいください。

9月3日(火)

【ほぼ百字小説】(5427) 亀を歌った歌だ。物干しに暮らす亀の速度で洗濯物を干しながら、亀の中を亀の速度で流れる亀の時間を歌った歌。現実には鳴かない亀が、「亀鳴く」という言葉の中でだけ鳴くみたいに歌うこと、という注意書きがある。

【ほぼ百字小説】(5428) もちろん亀は鳴かないし歌わない。亀の歌とは、亀が歌うのではなく亀の側にいる者が亀のことを歌う歌なのだ。亀を見て亀のことを歌わずにはいられなくて歌う。そういう意味では、亀は鳴く、とも、歌う、とも言える。

 もちろん、なのかどうかは知りませんが、かめたいむ。みんな歌おうかめたいむ。「亀鳴く」というのは、俳句の春の季語にあるんですが、亀は鳴きません。俳句の中でだけ鳴く、というのはなかなかいいですよね。まあ亀の鳴く世界もどこかにあるでしょう。亀が歌う世界も。


9月4日(水)

【ほぼ百字小説】(5429) 台風の真っ只中での本番、あるいは中止を覚悟していたが、風はないし、朝は降っていた雨もやんでいる。もちろんそれは大助かりなのだが、なんだか狸にでも化かされたような気分で、その気分のまま狸の話を朗読する。

 このあいだあったことそのまんま。日記ですね。無観客を覚悟してたんですよ、ほんと。劇場側が閉館するかもしれないし。さすがに環状線の地下鉄は動くだろう、とは思ってましたが。そしてやったのは、音楽劇『ぶんぶく茶釜』でした。テルミンとバンドネオンとギターと朗読、というこれもちょっと狸に化かされてるっぽかった。

【ほぼ百字小説】(5430) 目がふたつあるのは、狸が化けた台風だから。ふさふさの尻尾が出ているのも、狸が化けた台風だから。ふらふら進路の定まらない千鳥足も、そのせいだろうな。では、この雨の正体は――。それは考えないことにしよう。

 そしてあのヘンテコな台風を見て書いたやつ。途中で消えてしまったところも狸っぽかったな。目がふたつ、というのは落語の「狸賽」。狸が化けたサイコロを転がすと、最初、転がしても転がしても「2」が出る。なんでや、と尋ねると、「上向いて目玉ふたつで二、これがいちばん楽」と狸が言う。よくできたくすぐりだなあ、と思います。他にもサイコロに化ける、ということに関する秀逸なくすぐり次々に出て来て、その連鎖でお話が進んでいく。落語というのはすごい財産だとつくづく思います。

9月6日(金)

【ほぼ百字小説】(5431) 水平線にずらり並んで、もこもこと成長を続けている。少し前まではヒトに似た形が主流だったようだが、今はもう別の形のほうが多くて、ヒトは隅に追いやられている。まずはここで試すのかな。我々は早すぎたのかも。

 これもこのあいだ行った和歌山で書いたやつ。一泊だけでしたが、いろんな風景に出会えるから旅行はいいですね。日傘を差して港をうろうろしていて、水平線に入道雲が並んでいた。いろんな形があって、でもすぐに崩れて次の形に行くんですね。それがちょっと生き物の進化を思わせて。

【ほぼ百字小説】(5432) 身体に植物を生やすようになった、というより、植物の根によって肉体組織の崩壊を抑えてもらっている、というべきか。そのせめてものお返しとして、いずれ自分が埋められるいい場所を動けるうちに確保しておかねば。

 寄生ではなく共生の話。まあ寄生虫があるんだから、寄生植物もあるでしょう。ヤドリギとかそうですが、あれは植物が植物に寄生してる。動物に寄生する植物、それも寄生するだけじゃなくて、お互いの利益になってる、というのを考えるとこんな感じか、と。新しいタイプのゾンビ、としてもいけるかも。

9月7日(土)

【ほぼ百字小説】(5434) 本物そっくりに作られた月面で仕事をした。月面だから宇宙服を着る。それを撮影する仕事をする者たちは宇宙服を着ていない。宇宙服の中からそれを見ていた。そこが本物の月面そっくりだとまだ誰も知らない頃のこと。

 ツイッターで『2001年宇宙の旅』の月面のシーンの撮影風景の写真を見て。宇宙服を着た役者の周りを宇宙服を着てない撮影クルーが囲んでいる。役者は、カメラを構える宇宙服を着てない人をずっと見ていることになりますね。いや、それにしても見事な画だなあ。

【ほぼ百字小説】(5435) 毎日、亀を見ている。それでわかるのは、毎日、亀に見られている、ということ。物干しで、物干しのどこかにいるはずの亀を探し、見つけたときにはもう亀と目が合っている。亀に観測されることで存在しているのかも。

 こちらを見つけるのは、たぶん亀のほうが早い。だから亀によって確定されているのかも。存在させてもらってるのだから、煮干しくらいはあげないとね。

【ほぼ百字小説】(5436) 墜落した異星の船に乗っていた異星人を捕獲して殺害し、その船から得たもので豊かにはなったが、今もその仲間が探しにくることに怯えていて、我々がファーストコンタクトに失敗するのはそのせいだと分析されている。

 ロズウェル事件というのは、アメリカの民話だと思ってます。そして民話としてとてもいい。民話のパターンみたいなものがすごくいい感じで変奏されてる。そこからひとつ取り出したやつ。いわゆる「六部殺し」ですね。

【ほぼ百字小説】(5437) 皆で集まって、荒れ地に埋もれているらしい何かを掘り出そうとしているのだが、なんのためにそんなことをするのかがわからない。まあそれをするために掘り出されたのだから、そんなこと考えなくてもいいのだろうが。

 今、10月の末にある芝居の稽古をしているんですが、たぶんそのイメージですね。こういうのが頭に浮かぶ。まあ芝居の稽古って、こんな感じですよ。皆で掘ってる。そこが小説とはいちばん違うところ。

この芝居です。http://mmtento.html.xdomain.jp/next.html

9月8日(日)


【ほぼ百字小説】(5438) これまでの自分ではないものになる練習。生まれる前にこんなことをしなければならないなんて。まだまだうまくはやれないが、繰り返しやればだんだんできるようになることはわかった。二足歩行はだいぶうまくなった。

 ということで、しばらく稽古の日々が続くので、こういうのが多くなると思います。まあ公演が終わったらそういうのばっかり集めて続けて朗読したりもできる、というのが、日記みたいに小説を書くことの便利なところですね。

【ほぼ百字小説】(5439) 幽霊の缶詰を持っている。幽霊はその金属を透過することができないから、缶詰にできるのだ。何の幽霊なのかは開けてみるまでわからないがそれでも、自分はいつでも幽霊を出せるのだと思うと、心がすこしは休まる。

 おもちゃの缶詰とか空気の缶詰とか、いろいろありますが、「宇宙の缶詰」という芝居のタイトルを目にしたからかな。じゃあ、幽霊でいってみよう、とか。幽霊は死なないですから、たぶん閉じ込めることさえできれば缶詰にできますね。そんな缶詰になぜそういう効果があるのかは、書いた自分にもわからないんですが、まあなんとなくそんな気がするじゃないですか。

9月9日(月)

【ほぼ百字小説】(5440) 地下の舞台で朗読している。ひとり読み終えると暗転になり、明かりが入ると次の者がそこにいる。何度目かの暗転の中、頭の上でずどんと何かが鳴って天井からばらばらと何かが降ってきた。長い暗転はまだ続いている。

 このあいだの朗読barというイベントの最中に妄想したこと。会場は実際に地下で、そして途中で上の階から何か大きな音が聞こえた。外で何が起きてるのかわからないから、いろんな不吉なことを考える。これが暗転の途中で、そしていつまでもその暗転が終わらなかったら、とかそんなことを考えてそして勝手に怖がってる。そんなことになったら、かなり怖いだろうと思う。

9月10日(火)

【ほぼ百字小説】(5441) 今年も鳥人間コンテストが開催される。出場できるだけでも大したものだし、優勝したり歴代記録を更新しようものなら、それはもう大変な栄誉である。鳥人間を自称して天使たちが参加するようになったのも無理はない。

 いやまあ単なる小噺ですね。鳥人間、という言葉と天使。まあ天使を天使という概念抜きで見たら何に見えるか、と言えば、やっぱり鳥人間なんじゃないかと思う。

【ほぼ百字小説】(5442) 次々増えていく廃ビルのひび割れたその壁面に草が生え、まるで草原のようになったのはついこのあいだのことだが、今ではその草原を様々な人間以外の動物たちが悠々と歩いている。あれ、どうやったらできるのかなあ。

 雑草の力、というか、植物の力はすごいですね。どんな隙間にも生えてる。壁面のちょっとした割れ目とかからも生えてる。そして、空き地はすぐにサバンナみたいな草原になる。ということで、そういう廃ビルの壁面に生まれた草原をなぜか重力を無視していろんな動物が闊歩している光景。人間だけそのやり方がわからない。

9月11日(水)

【ほぼ百字小説】(5443) 寿命はかなり長いらしく、このままいけばまず間違いなく私のほうが先に死ぬ。その前に次の飼い主を見つけねばならず、さもなければ、作るしかないか。迷惑だろうとは思うが、まあ私もそういう理由で作られたのだし。

 亀もかなり長いし、実際うちの亀と私とどちらが先なのか、というのはよくわからないのですが、寿命の長い生き物を飼う、というのはこういうことなるのではないかと思います。

9月12日(木)

【ほぼ百字小説】(5444) ひさしぶりに来てみたら表には精肉店の看板が。ここだったはずだけどなあ、と首を傾げていると、これは看板だけで中身はこれまで通りなんですよ、と声をかけられた。前よりちょっと注文は多いかもしれませんけどね。

 はい、なんのことやら、ですよね。でも、これは半分は本当にあった話。芝居の稽古でよく使う区民センターという施設があって、そこの看板が変わってた。お金を出してもらって、そこにスポンサーの名前を入れる、まあ「京セラドーム」みたいなやつですね。区民センターにもそれがあって、名前の頭にそれがついてる。でも「**精肉店」ってそのまんまついてる。まあそれを説明抜きで書くとこうなります。

 9月13日(金)

ほぼ百字小説】(5445) 頭の中で台詞を回しながら歩く。歩きながら回しているから、台詞を回すことで歩いているような気になる。台詞の回転を推進力に変換している、みたいな。まだうろ覚えだから、ときどき立ち止まったり後退したりする。

 10月の末にある芝居の稽古に入ってるんですが、まあ今こんな感じ。歩きながらぶつぶつ言ってます。けっこう見た目は怪しいような気がする。でも、歩きながらがいちばんいいからなあ。

9月14日(土)

【ほぼ百字小説】(5446) そう言えば、最初の欠片を拾ったのは、巨大な門が取り壊された後の更地だった。門の上層に棲んでいる鬼の話を読みながら思う。あの門にも何かが棲んでいたのかどうかはわからないが、今は大型安売り店が建っている。

【ほぼ百字小説】(1)、そして『交差点の天使』の最初に置いた百字の話。くわしくは、『交差点の天使』全作解説のほうに書いてます。鬼が棲んでいる門は、今昔物語集ですね。あれも欠片の集合体ですね。考えたら子供の頃からああいう形式が好きでした。

【ほぼ百字小説】(5447) 物干しでよく口ずさんでいる替え歌の歌詞をそのまま書いただけで、でもそれを歌っているときが、亀時間としか呼びようのない時間だから、それをそのまま記述したものを小説、あるいは亀小説、と言い張ることにする。

『交差点の天使』のことを書いたので、『かめたいむ』も。こんなの小説じゃない、と言われそうなものがたくさん入っていますが小説、あるいは亀小説です。これもね。

【ほぼ百字小説】(5448) この宇宙は、かつて作られた宇宙の盗作なのではないか、いや、パスティーシュだろう、むしろリスペクト、とか、そんな議論が続いて、ややこしいからもう終わらせよう、という結末もやっぱり盗作では、という見方が。

 まあ『フェッセンデンの宇宙』みたいな、個人の創作物としての宇宙があちこちにあったら、こういう問題も起きるかも、という小噺ですね。大抵の創作物はその終わり方が重要で、だからやっぱりその宇宙がどう終わるか、というのはこの問題においてもかなり重要なのではなかろうか。

9月15日(日)

【ほぼ百字小説】(5449) 未来の動きを決めてもらう。その未来の先の未来へと安全に進めるように。その未来に居合わせることが決まっている者たちが集まって、指導を受ける。そういう職業があることは知っていたが、決めてもらうのは初めて。

 今稽古中の芝居の中で、ちょっとしたアクションがあります。アクションがやれる人にとってはアクションとも呼べないようなもんでしょうが、それでもとても我々の手には負えない。ということで、アクション監修の方にお願いして、稽古場で動きをつけてもらうことになった。まあそのことを書いただけ。芝居というものが、一種の時間ものですからね。同じことをずっとループするわけですから。説明抜きでそのへんのことを書くと時間ものみたいなヘンテコな文章になる。

【ほぼ百字小説】(5450) 亀を使って未来を予知する、という方法は大昔から用いられてきたが、実際には、亀は未来を予知しているのではなく未来を創造している、ということが証明されつつある、というこれもまた、亀によって創造された未来。

 亀甲占いとかありますね。そして、亀を使った未来予測システムのことを【ほぼ百字小説】にも
書いたことがある(『かめたいむ』P199)。まあそのへんから。亀は世界の創造には関わってそうだし。

9月16日(日)

【ほぼ百字小説】(5451) ここにあった海がどこかへ行ってしまってから、毎日ここに立って海が帰ってくるのを待っている。毎日同じところに立つから、海のあったところにある砂丘がゆっくり移動しているのがわかる。大きな波のようだと思う。

 いなくなってしまった海の話。まあこれも『ソラリス』の影響が大きいかな。運動能力のある海。まあたんに海岸線が後退していく風景、ともとれるし、もちろんそれでもいいんですが。砂丘が大きな波に見える、というのは小学生のとき、遠足で鳥取砂丘に行って思ったこと。

【ほぼ百字小説】(5452) 跳んだり撥ねたり叫んだり、同じ動作を繰り返す。そういうオモチャになったような気がするが、まあ楽しんでもらうためにやるのだからそれでいいのか。あの映画の中のオモチャたちも、オモチャを演じていたのだろう。

 まあ芝居の稽古をしていると、こんなことを思います。同じことの繰り返しですからね。あの映画はもちろん『トイストーリー』。

ということで、今回はここまで。

まとめて朗読しました。

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【ほぼ百字小説】(5427) 亀を歌った歌だ。物干しに暮らす亀の速度で洗濯物を干しながら、亀の中を亀の速度で流れる亀の時間を歌った歌。現実には鳴かない亀が、「亀鳴く」という言葉の中でだけ鳴くみたいに歌うこと、という注意書きがある

【ほぼ百字小説】(5428) もちろん亀は鳴かないし歌わない。亀の歌とは、亀が歌うのではなく亀の側にいる者が亀のことを歌う歌なのだ。亀を見て亀のことを歌わずにはいられなくて歌う。そういう意味では、亀は鳴く、とも、歌う、とも言える。

【ほぼ百字小説】(5429) 台風の真っ只中での本番、あるいは中止を覚悟していたが、風はないし、朝は降っていた雨もやんでいる。もちろんそれは大助かりなのだが、なんだか狸にでも化かされたような気分で、その気分のまま狸の話を朗読する。

【ほぼ百字小説】(5430) 目がふたつあるのは、狸が化けた台風だから。ふさふさの尻尾が出ているのも、狸が化けた台風だから。ふらふら進路の定まらない千鳥足も、そのせいだろうな。では、この雨の正体は――。それは考えないことにしよう。

【ほぼ百字小説】(5431) 水平線にずらり並んで、もこもこと成長を続けている。少し前まではヒトに似た形が主流だったようだが、今はもう別の形のほうが多くて、ヒトは隅に追いやられている。まずはここで試すのかな。我々は早すぎたのかも。

【ほぼ百字小説】(5432) 身体に植物を生やすようになった、というより、植物の根によって肉体組織の崩壊を抑えてもらっている、というべきか。そのせめてものお返しとして、いずれ自分が埋められるいい場所を動けるうちに確保しておかねば。

【ほぼ百字小説】(5434) 本物そっくりに作られた月面で仕事をした。月面だから宇宙服を着る。それを撮影する仕事をする者たちは宇宙服を着ていない。宇宙服の中からそれを見ていた。そこが本物の月面そっくりだとまだ誰も知らない頃のこと。

【ほぼ百字小説】(5435) 毎日、亀を見ている。それでわかるのは、毎日、亀に見られている、ということ。物干しで、物干しのどこかにいるはずの亀を探し、見つけたときにはもう亀と目が合っている。亀に観測されることで存在しているのかも。

【ほぼ百字小説】(5436) 墜落した異星の船に乗っていた異星人を捕獲して殺害し、その船から得たもので豊かにはなったが、今もその仲間が探しにくることに怯えていて、我々がファーストコンタクトに失敗するのはそのせいだと分析されている。

【ほぼ百字小説】(5437) 皆で集まって、荒れ地に埋もれているらしい何かを掘り出そうとしているのだが、なんのためにそんなことをするのかがわからない。まあそれをするために掘り出されたのだから、そんなこと考えなくてもいいのだろうが。

【ほぼ百字小説】(5438) これまでの自分ではないものになる練習。生まれる前にこんなことをしなければならないなんて。まだまだうまくはやれないが、繰り返しやればだんだんできるようになることはわかった。二足歩行はだいぶうまくなった。

【ほぼ百字小説】(5439) 幽霊の缶詰を持っている。幽霊はその金属を透過することができないから、缶詰にできるのだ。何の幽霊なのかは開けてみるまでわからないがそれでも、自分はいつでも幽霊を出せるのだと思うと、心がすこしは休まる。

【ほぼ百字小説】(5440) 地下の舞台で朗読している。ひとり読み終えると暗転になり、明かりが入ると次の者がそこにいる。何度目かの暗転の中、頭の上でずどんと何かが鳴って天井からばらばらと何かが降ってきた。長い暗転はまだ続いている。

【ほぼ百字小説】(5441) 今年も鳥人間コンテストが開催される。出場できるだけでも大したものだし、優勝したり歴代記録を更新しようものなら、それはもう大変な栄誉である。鳥人間を自称して天使たちが参加するようになったのも無理はない。

【ほぼ百字小説】(5442) 次々増えていく廃ビルのひび割れたその壁面に草が生え、まるで草原のようになったのはついこのあいだのことだが、今ではその草原を様々な人間以外の動物たちが悠々と歩いている。あれ、どうやったらできるのかなあ。

【ほぼ百字小説】(5443) 寿命はかなり長いらしく、このままいけばまず間違いなく私のほうが先に死ぬ。その前に次の飼い主を見つけねばならず、さもなければ、作るしかないか。迷惑だろうとは思うが、まあ私もそういう理由で作られたのだし。

【ほぼ百字小説】(5444) ひさしぶりに来てみたら表には精肉店の看板が。ここだったはずだけどなあ、と首を傾げていると、これは看板だけで中身はこれまで通りなんですよ、と声をかけられた。前よりちょっと注文は多いかもしれませんけどね。

【ほぼ百字小説】(5445) 頭の中で台詞を回しながら歩く。歩きながら回しているから、台詞を回すことで歩いているような気になる。台詞の回転を推進力に変換している、みたいな。まだうろ覚えだから、ときどき立ち止まったり後退したりする。

【ほぼ百字小説】(5446) そう言えば、最初の欠片を拾ったのは、巨大な門が取り壊された後の更地だった。門の上層に棲んでいる鬼の話を読みながら思う。あの門にも何かが棲んでいたのかどうかはわからないが、今は大型安売り店が建っている。

【ほぼ百字小説】(5447) 物干しでよく口ずさんでいる替え歌の歌詞をそのまま書いただけで、でもそれを歌っているときが、亀時間としか呼びようのない時間だから、それをそのまま記述したものを小説、あるいは亀小説、と言い張ることにする。

【ほぼ百字小説】(5448) この宇宙は、かつて作られた宇宙の盗作なのではないか、いや、パスティーシュだろう、むしろリスペクト、とか、そんな議論が続いて、ややこしいからもう終わらせよう、という結末もやっぱり盗作では、という見方が。

【ほぼ百字小説】(5449) 未来の動きを決めてもらう。その未来の先の未来へと安全に進めるように。その未来に居合わせることが決まっている者たちが集まって、指導を受ける。そういう職業があることは知っていたが、決めてもらうのは初めて。

【ほぼ百字小説】(5450) 亀を使って未来を予知する、という方法は大昔から用いられてきたが、実際には、亀は未来を予知しているのではなく未来を創造している、ということが証明されつつある、というこれもまた、亀によって創造された未来。

【ほぼ百字小説】(5451) ここにあった海がどこかへ行ってしまってから、毎日ここに立って海が帰ってくるのを待っている。毎日同じところに立つから、海のあったところにある砂丘がゆっくり移動しているのがわかる。大きな波のようだと思う。

【ほぼ百字小説】(5452) 跳んだり撥ねたり叫んだり、同じ動作を繰り返す。そういうオモチャになったような気がするが、まあ楽しんでもらうためにやるのだからそれでいいのか。あの映画の中のオモチャたちも、オモチャを演じていたのだろう。

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 以上、25篇でした。

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