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最近の【ほぼ百字小説】2023年2月27日~3月15日


 今回も芝居の本番があったりとかして、更新が不規則になりそうなので、前回同様ゆったりペースでいって、ある程度数がたまったところで終わり、ということにします。あとは普段と同じ、ひとつツイートしたらここにそれについてあれこれ書きます。ということで、今回もおつきあいよろしくお願いします。

https://neconos.net/books/kinko/

そしてこれも。もう直前ですよ。
3月2日~5日です。

2月27日(月)

【ほぼ百字小説】(4351) この仮の場所で育ててきた世界を今夜畳むのは、本来展開すべき場所まで運ぶため。小さく畳んで運ぶその途中で少し世界が零れたりすることもあるが、それがまた別の世界に育つことも。この世界もそうだったらしいし。

 ということで、どたばたやってきた稽古も今さっき終わりました。そして明日から劇場入り、ということで、今ココ。

2月28日(火)

【ほぼ百字小説】(4352) 家と家との狭い隙間を抜ければだいぶ近道になるということがわかったので、最近では終わると皆に手を振って隙間へと消える。それがなかなかいい感じで、そうなるともう、近道なのかどうかはどうでもよくなっている。

『罪と罰』の稽古をずっとやってて、これが家から歩いて行ける稽古場、というのは、前にも書きましたが、その稽古場での稽古も昨日で終わりで、今日から劇場入り。その稽古場で稽古をしているときは、こんな感じ。ただでさえ近いんですが、路地の奥の隙間を通ればさらにショートカットできることがわかって、そうしていました。大通りから隙間に入っていくその感じがおもしろくて。物の怪とかも、消えるときなんかはそういう気分なのかも。

3月1日(水)

【ほぼ百字小説】(4353) ヒト型ロボット役者もいろいろで、ヒトの役がしっくりくるのもいれば、やっぱりヒト型ロボットにしか見えないのもいる。いいヒト型ロボット役者に共通するのは、ヒトの持つ嫌な面をうまく強調して真似るところかな。

 明日が初日、ということでもないですが、まあ演劇ものを。なかなかそういう嫌なところは客観視できないので、ヒトでないほうがむしろできるのかも。今日はゲネ(本番とまったく同じようにやるリハーサルです)を無事に済ませることができたので、明日からアクセルを踏み込めると思います。

3月2日(木)

【ほぼ百字小説】(4354) 稽古のときは素のままでやっているけど、本番はきちんとメイクをしないとね。傷も隠して顔色も良くすれば、まるで生きてたときみたいだろ。でも、損壊が激しい屍者はそれもなかなか大変で、特殊メイクと呼ばれてる。

 初日の幕が開きました。やれやれです。まだここからいろいろやらねばなりませんが、それでもほっとした。日曜日まで芸術創造館でやってます。まあ宣伝はそのくらいにして、これも演劇ものです。生きている人間が特殊メイクでゾンビを演じる、の逆ですね。ゾンビたちが特殊メイクで生者を演じる。いったい誰がどういう意図で演出しているのはわかりませんが。

3月3日(金)

【ほぼ百字小説】(4355) ついに幕が開く。この数日、身の回りがなんだかざわついていたのは、幕が開くのを待ちかねて集まった者たちに取り囲まれていたからだったらしい。それにしても自分が彼らの劇場だったなんて、今まで知らなかったな。

【ほぼ百字小説】(4356) 腹筋が縦に割れて左右に開き、腹の中に小さなステージが現れた。ここ数日、身体の中がなんだかざわついていたのは、このための準備だったらしい。何が上演されるのだろう。わくわくしながら自分の腹の中を覗いている。

 ということで、無事に幕が開きました。それを記念して、というか昨日、劇場からの帰りの電車の中で書いたふたつ。中も外もざわざわしています。今日は夜の回だけなので、ちょっとゆったり。でももちろんここで気を抜くとえらいことになるのです。

3月4日(土)

【ほぼ百字小説】(4357) 油揚げが入っていれば狐。ではどうなっていれば狸なのか。狐であること、そして狐ではないこと。狸であること、そして狸ではないこと。うどんを食いながらそんな議論を続ける彼ら、なぜか全員目が吊り上がっている。

 狸は、「タネ抜き、を略して狸」とかいろんな説がありますが、まあ狐があるから狸という呼び名も作った、ということでしょうね。狐があるから狸。光があるから影、みたいなもんで切り離すことはできないのかも。とか言ってる時点で化かされてますね。うどんを食ってる方とそれを見ている方、化かされてるのははたしてどっちか?

【ほぼ百字小説】(4358) いつもは電車で行く劇場だが、バスでも行けると知ってそうしたら、なぜか人も物もいつもと微妙に違っている気がする。それでも舞台を無事終えた。まあ電車での帰宅はやめとくべきかな。もとの家に帰り着きたいから。

 そうしたのでした。バスってほとんど使うことないんですが、電車ではけっこう乗り継ぎが面倒だったので、調べたらバスなら一本だ。ということで、さっそくそれで行ってみたのですが、考えたら違うところに着いてても気づかない、というか同じところなのかどうかを証明することはできませんね。そっくりの劇場が二つあるかもしれない。まあそういう妄想。バスで行って、バスで帰ってきました。

3月6日(月)

【ほぼ百字小説】(4359) 私の髪を掴んで引きずり回すんです。数か月後の未来で自分がそう叫ぶ。そんな事実を知らされた坊主頭の私は、未来を変えてしまわないためには伸ばすしかないのか、と考えそうしたのであった。あ、芝居の台本の話ね。

 そのまんまです。昨日無事に千穐楽をむかえて、今日は朝から劇場へバラシの手伝いに行ってきました。もう跡形もありません。きれいさっぱり消えてしまいました。ご来場の皆様、ありがとうございました。というわけで、これはその芝居『罪と罰』の台本にあった台詞。しかし、自分が発することになっている言葉が書かれている、というのは考えたらすごく不思議なことですね。未来が書いてあるんですから。

3月9日(木)

【ほぼ百字小説】(4360) 蜘蛛になるとはどういうことか、あれこれ考え準備したが、やってみると前もって考えたことなど役には立たず、ただ蜘蛛の身体で、決められた場所から決められた場所へ何も考えず動く。まあそれでいいのか、蜘蛛だし。

 これもこないだの芝居であったこと。いろんなものにならないといけないんですよ。そして、なってみないとどういうことなのかはわからない。いや、べつに芝居に限ったことじゃない。

【ほぼ百字小説】(4361) ある空間内をある時間内に運動する。その運動に意味を持たせる。その意味に言葉を載せる。それを反復して空間に憶えさせる。そうすれば運動を行うだけで刻まれた意味と言葉が再生される。いいレコード針になりたい。

 これもそうですね。芝居の稽古中にこんなことをよく思う。じつは感情とか意味以外のところで動きは決まったりする。誰と誰がかぶってしまう、とか、そこだと客席の一部から見えない、とか。それをあたかも必然的な動きであるように見せる、みたいなことも演技というもののかなりの部分を占めていたりするような気がします。べつに質点に意志がなくても、重力勾配にしたがって重心が動いていく、みたいなこととかも。意識という独立したものがあるんじゃなくて、環境との相互作用で発生しているのでは、とか。何度も同じシーンを繰り返して補正を続けているとそんなことを思ったりもするわけです。

3月10日(金)

【ほぼ百字小説】(4362) またしても道に迷う。方向音痴で道に迷うのは慣れっこ。劇場への道で迷ったし舞台裏や奈落でも迷ったことがある。しかし、さすがにこんなことは初めて。はたして進歩なのか退行なのか。舞台の上で道に迷うとはなあ。

 はい、これも演劇ものですね。突劇金魚の公演中に書いたやつ。稽古中も本番中も、いろいろと普段とは違う刺激があって、それをそのまんま受けて書いている感じ。舞台裏とか舞台袖で道に迷う、というのは私はけっこうあります。いや、さすがに自分がどこにいるのかはわかるんですが、スタンバイ位置がどこだったか、とかここからあそこに行くのに客席から見えない経路はどこだったかな、とか。方法音痴で、どうも空間把握能力が低いみたいです。しかも舞台裏は暗いし忙しい。ということで、これをもうちょっと進めるとこういうことになるかも。舞台の上で生きる、なんて言葉がありますが、ちょっとそれみたいでいいじゃないですか。舞台の上で道に迷う。

3月13日(月)

【ほぼ百字小説】(4363) いよいよ危ないという連絡が入ったのは、本番が終わって舞台もバラして何もなくなったその翌日のこと。こっちが全部終わるまで待っていてくれたのかもしれないなあ。おかげで目一杯やれた。ありがとう、お母ちゃん。

 そのままです。こういうことがありました。本番とかぶらなくてよかった。こんなことを思っている私は、親不孝なのでしょう。まあそれはわかっている。

【ほぼ百字小説】(4364) あんたは鉄腕アトムよりオバケのQ太郎が好きな子やった。そんなことを教えてくれたっけ。子守歌がわりにウルトラマンの歌を歌ってくれた。あの頃の私が好きだったものを私よりずっとよく知っていた人はもういない。

 これもそのまんま。顔を見ながらそんなことを思い出してました。そしてさっそくネタにした。

3月14日(火)

【ほぼ百字小説】(4365) こんなふうに二人だけで過ごすのは何年振りなのだろう。まあこの前のときも大したことは話さなかったし、今回は話そうにも話せないからこうして一方的に話しかけるだけ。そして、これが最後であることは間違いない。

 これもこのまんま。その夜は夜中に妹家族が来るまで二人で過ごしてました。そのときに思ったこと。大人になってから母親と二人で話したことはほとんどないなあ、と。まあせっかくだから言いたいことはぜんぶ言っておきました。

3月15日(水)

【ほぼ百字小説】(4366) 昨夜は開いていたのに今朝見たら閉じていた。そして今朝は閉じていたのに今は開いているのだ。死んだ後でも口は開閉するのか。もしかしたら、ものすごくゆっくり何か言っているのかもね。唇が読めたらわかるのかな。

 これもそのまんま。そうなのか、と思いました。動かないわけではない。そして、唇を読む、といえばもちろん、『2001年宇宙の旅』のあのシーンですね。ものすごくゆっくり動くシリコン生物で、地球人とは肉体の時間速度が違い過ぎているから最初は石像にしか見えなかった、という海外SF短編があったと思うんですが、誰の何なのかは思い出せない。

【ほぼ百字小説】(4367) ああ、もう箱に入ってしまったな。生きているとも死んでいるとも確定できないあの猫と違って、もう確実に向こう側。この箱といっしょに行ってしまうのだろう。せめて、この箱の質量だけは身体でしっかり観測しよう。

 箱に入ってしまうんですね。そして、顔のところにあった小さな窓も閉じられる。実際に棺桶を運んだのは孫たちで、私は持ち上げてない。まあこれは、持つのかな、とか思っていたときに書いたやつ。

ということで、今回はここまで。週で区切るより、だいたい16篇くらい溜まるまで、というこの方式のほうがよさそうなので、これからもそうします。

まとめて朗読しました。


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【ほぼ百字小説】(4351) この仮の場所で育ててきた世界を今夜畳むのは、本来展開すべき場所まで運ぶため。小さく畳んで運ぶその途中で少し世界が零れたりすることもあるが、それがまた別の世界に育つことも。この世界もそうだったらしいし。

【ほぼ百字小説】(4352) 家と家との狭い隙間を抜ければだいぶ近道になるということがわかったので、最近では終わると皆に手を振って隙間へと消える。それがなかなかいい感じで、そうなるともう、近道なのかどうかはどうでもよくなっている。

【ほぼ百字小説】(4353) ヒト型ロボット役者もいろいろで、ヒトの役がしっくりくるのもいれば、やっぱりヒト型ロボットにしか見えないのもいる。いいヒト型ロボット役者に共通するのは、ヒトの持つ嫌な面をうまく強調して真似るところかな。

【ほぼ百字小説】(4354) 稽古のときは素のまんまでやってるけど、本番はきちんとメイクをしないとね。傷も隠して顔色も良くすれば、まるで生きてたときみたいだろ。でも、損壊が激しい屍者はそれもなかなか大変で、特殊メイクと呼ばれてる。

【ほぼ百字小説】(4355) ついに幕が開く。この数日、身の回りがなんだかざわついていたのは、幕が開くのを待ちかねて集まった者たちに取り囲まれていたからだったらしい。それにしても自分が彼らの劇場だったなんて、今まで知らなかったな。

【ほぼ百字小説】(4356) 腹筋が縦に割れて左右に開き、腹の中に小さなステージが現れた。ここ数日、身体の中がなんだかざわついていたのは、このための準備だったらしい。何が上演されるのだろう。わくわくしながら自分の腹の中を覗いている。

【ほぼ百字小説】(4357) 油揚げが入っていれば狐。ではどうなっていれば狸なのか。狐であること、そして狐ではないこと。狸であること、そして狸ではないこと。うどんを食いながらそんな議論を続ける彼ら、なぜか全員目が吊り上がっている。

【ほぼ百字小説】(4358) いつもは電車で行く劇場だが、バスでも行けると知ってそうしたら、なぜか人も物もいつもと微妙に違っている気がする。それでも舞台を無事終えた。まあ電車での帰宅はやめとくべきかな。もとの家に帰り着きたいから。

【ほぼ百字小説】(4359) 私の髪を掴んで引きずり回すんです。数か月後の未来で自分がそう叫ぶ。そんな事実を知らされた坊主頭の私は、未来を変えてしまわないためには伸ばすしかないのか、と考えそうしたのであった。あ、芝居の台本の話ね。

【ほぼ百字小説】(4360) 蜘蛛になるとはどういうことか、あれこれ考え準備したが、やってみると前もって考えたことなど役には立たず、ただ蜘蛛の身体で、決められた場所から決められた場所へ何も考えず動く。まあそれでいいのか、蜘蛛だし。

【ほぼ百字小説】(4361) ある空間内をある時間内に運動する。その運動に意味を持たせる。その意味に言葉を載せる。それを反復して空間に憶えさせる。そうすれば運動を行うだけで刻まれた意味と言葉が再生される。いいレコード針になりたい。

【ほぼ百字小説】(4362) またしても道に迷う。方向音痴で道に迷うのは慣れっこ。劇場への道で迷ったし舞台裏や奈落でも迷ったことがある。しかし、さすがにこんなことは初めて。はたして進歩なのか退行なのか。舞台の上で道に迷うとはなあ。

【ほぼ百字小説】(4363) いよいよ危ないという連絡が入ったのは、本番が終わって舞台もバラして何もなくなったその翌日のこと。こっちが全部終わるまで待っていてくれたのかもしれないなあ。おかげで目一杯やれた。ありがとう、お母ちゃん。

【ほぼ百字小説】(4364) あんたは鉄腕アトムよりオバケのQ太郎が好きな子やった。そんなことを教えてくれたっけ。子守歌がわりにウルトラマンの歌を歌ってくれた。あの頃の私が好きだったものを私よりずっとよく知っていた人はもういない。

【ほぼ百字小説】(4365) こんなふうに二人だけで過ごすのは何年振りなのだろう。まあこの前のときも大したことは話さなかったし、今回は話そうにも話せないからこうして一方的に話しかけるだけ。そして、これが最後であることは間違いない。

【ほぼ百字小説】(4366) 昨夜は開いていたのに今朝見たら閉じていた。そして今朝は閉じていたのに今は開いているのだ。死んだ後でも口は開閉するのか。もしかしたら、ものすごくゆっくり何か言っているのかもね。唇が読めたらわかるのかな。

【ほぼ百字小説】(4367) ああ、もう箱に入ってしまったな。生きているとも死んでいるとも確定できないあの猫と違って、もう確実に向こう側。この箱といっしょに行ってしまうのだろう。せめて、この箱の質量だけは身体でしっかり観測しよう。
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 以上、今回は17篇でした。

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