〘異聞・阿修羅王/序1〙終わりの始まり
目の前に姿を現した相手に、因陀羅──インドラは目を細め、そして口角をわずかに上げた。
「……久しいな。此度の闘いも、ようやく終わりの時が来た、ということか……」
語りかけた相手は、一度、睫毛を翳らせ、すぐに吸い込まれそうに深い眼でインドラを見据えた。
「……摩伽……」
インドラの眉がピクリと反応する。
「何千年……いや、何万年ぶりか? その名で呼ばれるのは……須羅よ……」
「……5億年以上前から、私はお前を『摩伽』としか呼ばぬ。どれほどの時が過ぎ、他の者たちが呼び方を変えようとも。だが……私を『須羅』と呼ぶは昔からお前だけだ」
顎に手を当て、『須羅』と呼んだ相手を見据えていたインドラの片眉が持ち上がった。
「ついぞ、聞いたことがないがな。そなたが……『阿修羅王』が私を『摩伽』と呼ぶところなぞ……」
今度は須羅──阿修羅王の口元に笑みが浮かぶ。
「……それは私ではない故な……当然のことだ」
「……なに……?」
周囲の時が止まったかのように、インドラは阿修羅王の眼の中に答えを、真実を探した。だが、阿修羅王は決して明かそうとはせず、かつては太陽神とも謳われたその双眸に、焔のような煌めきが宿る。
「此度で終わりぞ」
阿修羅王の言葉に、インドラはゆっくりと立ち上がった。
~つづく(といいんだけどw)~
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