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社内事情〔7〕~R&S社~

 
 
 
〔藤堂目線〕
 

 
 藤堂颯一(とうどう そういち)。29歳。

 経営企画室・主任。社におけるエリートコース爆走中のホープ。顔良し、スタイル良し、性格良し、能力高し、の何か腹立つくらいの甘系爽やか男子。王子的存在としてモテモテだが、目下、静希にメロメロ状態。

 海外営業部の合同企画稼動から一ヶ月余り。

 忙しいながらも少しずつ落ち着き、また新たな企画の構想も考えなければならなくなって来た。ひとつが終われば、また新たなひとつが始まるのだ。

 その合間に、ようやく片桐課長と会う時間が取れ、と言っても食事に誘った彼女に振られたためだが、翌週には今井さんも含めて四人で会う機会も得ることが出来た。

 相当、覚悟はしていたけれど、今井さんには散々突っ込まれた。

 ぼくとしては片桐課長の方を警戒していたのだが、今井さんがぼくに突っ込んだりダメ出しするのを、ニヤニヤしながら楽しそうに眺めていて……。

 いや、とにかく、本当にまいった。

 それでも、二人には本当に世話をかけたのは自覚していたので、出来る限り答えたつもりだし、「これでもか」と突っ込みながらも、喜んでくれていることは充分にわかった。

 その間、静希は終始、恥ずかしそうにしていた。まあ、人から見たらポーカーフェイスに変わりはないレベルだと思うけれど。

 ─そして。

 何よりその夜、ぼくは本当の意味で静希を丸ごと手に入れた。

 これも二人の策略と言うか……お陰。

 ……その代償なのか、後で恥ずかしい土産付きだったけれど。

 そんな風に秋も深まった頃。

 静希経由で護堂副社長からの情報が入った。R&Sの動きが大きくなって来ている、と。

 それを聞いて、ぼくとしても伍堂財閥が動き出した理由に納得がいった。恐らく片桐課長にも、既に情報が入っていることだろう。

 このR&S社、ぼくも課長の元にいた頃から存在は知っている。

 当時はまだ社名が変わる前で、代表者の名前『ラドクリフ・リチャードソン─Radcliffe・Richardson』からRR社と言う名称だった。

 我が社との関わりが特に多かった訳でもなく、良くも悪くも一企業、としての認識しかなかったが、昨今の不思議な動き……これは一体、何を意味しているのか。

 Sと言うイニシャルが加わったと言うことは、恐らく共同経営者でも出来たのだろうとは思う。それだけならば、特に大きく不安を感じる問題ではない。

 問題なのはその動きに、我が社への負の感情を感じるから、なのだ。

 あからさまに敵対心を剥き出しにしている訳でも何でもない。なのに、何故か嫌な感じ。それが尚更、不安や猜疑心を煽る。

 伍堂財閥の定例会に、専務がわざわざ片桐課長を代理にしたのも、恐らく、ご自分が行かれるよりも情報を得られる、と踏んでのことに違いない。

 護堂副社長も静希の手前なのだろう、我が社にはかなりの情報を流してくれているようではある。

 ━が、それでも。伍堂財閥の情報網を以てしても、未だ実態は掴めていないのだ。

 そんな状況の中、伍堂財閥・秋の定例会にも片桐課長が代理出席すると聞いたぼくは、思っていた以上に専務が警戒していることを感じていた。

 もはや課長は『代理』などではなく、戦闘体制における指揮官なのだ、と。

 部長たちには申し訳ないが、確かに我が社に於いて、課長より適任の人はいないだろう。

 さらに、今井さんが今回も同伴すると聞き、正直、最強のコンビが出来るのではないか、などと考えそうになるのを堪える。

 それでも事実、あの二人なら公私共に最強のパートナー同士になれるだろうと思う。

 まあ、まだ社内には開示していないから、ぼくの口からは言えないけれど。

 「主任」

 静希に声をかけられ顔を上げると、パソコンの画面を見ながらぼくに合図をしている。傍に行き、彼女のパソコンを覗き込むと、ぼくには馴染みのない画面が表示されていた。

 「これは?」

 「総合部にいた時に、各部署から頼まれたリサーチ事項などを整理するために私が作ったものなんですけど……」

 なるほど。部署別・項目別に分けられ、その中でさらに数量別、出荷別、場所別……など、ソート出来るようになっていて、さらに外部データの取り込みとも分類出来るよう事細かに作られているのが見て取れる。

 「うん。こうすると確かにわかりやすいね……ん?」

 取り込まれた外部データのひとつに、ぼくの目は釘付けになった。

 「これは……」

 「はい。ここ数ヶ月で流れて来たデータです。企画室に来てからはあまり見ていなかったのですけど、義兄からの話を受けて確認してみたら……」

 R&S社の売買契約の取引相手や傾向が、恐ろしいほど極端に偏っている。これは売り上げの業績を見ていてもわからない。恐らく、静希がかなり色々な手段を使って調べたからこそ、の情報だろう。

 「これ……専務と片桐課長に見せても問題ないかな?」

 「はい。そう思って、今、見やすいように整理していました。一度、印字してみますね」

 「うん、頼むよ」

 リチャードソン社長は、こんなに極端な動きをするような人ではなかったと思う。一体、何があったのか。

 ぼくたちがそんな情報を入手したと同じ頃、片桐課長が思いもよらぬルートから、思いもよらぬ情報を入手していたなんて、この時は知る由もなかった。
 
 
 
 
 
~社内事情〔8〕へ~
 
 
 
 
 
 
 
 

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