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なんでもない日のひとりホテルステイ

旅行に行った時にしか泊まったことがなかったホテル。
ほとんど寝るためだけに予約したビジネスホテルが多かった。

そう。いつか。
ふかふかのベットで心ゆくまで眠りたい。
好きなご飯を持ち込んで、夜景を見ながらくつろぎたい。
足の伸ばせるお風呂に入って、心身ともにリラックスしたい。

ひとりホテルステイは、やりたいことリストの上位に記載していた。

……繁忙期を乗り切った私は、最高に疲れていた。
1ヶ月前に予約したホテル。この日のために生きてきたと言ってもいい。

仕事終わりの金曜日、明日から始まる三連休に心を躍らせて
華金で賑わう飲み屋を横目にホテルへ向かった。
時刻は20:00。遅めのチェックインをすると、ホテルの都合でツインルームに変更となった。今日はツいている。

エレベーターで10階に上がり、部屋に入る。
目の前に広がるのは、高い天井と解放感のある空間。座り心地が良さそうなソファとローテーブル。丁寧にメイキングされた2つのベット。
ああ、今夜はこの部屋を独り占めできる。私だけのために用意された部屋。
最高にテンションが上がった私は、わあ〜!!と子供のような歓声をあげてしまった。


今日の夕飯は、テイクアウトしたケンタッキーフライドチキン。ソファに腰掛け、金曜ロードショーのジブリを観ながらチキンを頬張る。
……なんて贅沢な金曜日なのだろう。

お風呂だって、入浴剤付きなのだ。バスタブはもちろん足を伸ばせるし、背もたれが斜めになっている。森の香りに癒されて、疲れがとろけていくようなバスタイムは至福のひとときだった。

窓からは夜景が見える。ぼーっと遠くの光を眺めながら、自分や人生について考えた。

こんなに素晴らしい場所。けれど、ツインルームにひとりはちょっとだけ寂しい気持ちになる。誰かに伝えたかったけど、そんな人もいない。

幸せと孤独を感じつつ、ふかふかの布団に包まれながら眠りについた。


翌朝、目覚めても夢の中にいたい私は、温もりの布団から出られなかった。音楽が鳴り響く中庭を覗くと、結婚式なのか純白のドレスを着た花嫁と花婿。
やっぱりもう少し、寝ていよう。

12:00のチェックアウトまで、心ゆくまで休ませた体と心。
連休明けも元気にやっていけそうだ。