準同型定理を短完全列で理解する

本記事では係数環を固定した加群について考えます。係数環と加群に特に制限はありません。

短完全列を成す必要十分条件を考える

加群 $${L, M, N}$$ と加群準同型 $${f: L\to M, g: M\to N}$$ が次の系列を成しているとします。

$$
0\to L\xrightarrow{f}M\xrightarrow{g}N\to0
$$

これはすなわち $${\mathrm{Im}(f)\subset\mathrm{Ker}(g)}$$ と同値なのですが、実は定理1に示すように商加群上の写像の well-defined 性と同値になります。


定理1

$${L, M, N}$$ を加群、$${f: L\to M, g: M\to N}$$ を加群準同型とする。対応 $${g^\ast: M/f(L)\to N}$$ を $${g^\ast([x])=g(x)}$$ で定義するとき、次の2つの条件は同値である。

  • 加群 $${L, M, N}$$ と加群準同型 $${f, g}$$ は系列 $${0\to L\xrightarrow{f}M\xrightarrow{g}N\to 0}$$ を成す

  • $${g^\ast}$$ は well-defined な加群準同型である


証明

[$${\Rightarrow}$$]: $${\mathrm{Im}(f)\subset\mathrm{Ker}(g)}$$ を仮定すれば、$${x, y \in M}$$ が $${x \sim y}$$ であるとき $${x - y \in \mathrm{Im}(f)\subset\mathrm{Ker}(g)}$$ となるので $${g(x) - g(y) = g(x - y) = 0}$$ となり、$${g^\ast}$$ は well-defined である。$${g}$$ が加群準同型なので $${g^\ast}$$ も加群準同型となる。
[$${\Leftarrow}$$]: $${\mathrm{Im}(f)\not\subset\mathrm{Ker}(g)}$$ とすれば $${\mathrm{Im}(f)}$$ に含まれるが $${\mathrm{Ker}(g)}$$ に含まれない $${M}$$ の元 $${x}$$ が存在する。このとき $${x \sim 0}$$ だが $${g(x) \neq 0, g(0)=0}$$ となり、$${g^\ast}$$ は well-defined でない。$${\Box}$$

次に条件を強めて系列

$$
0\to L\xrightarrow{f}M\xrightarrow{g}N\to0
$$

が $${M}$$ において完全であるための必要十分条件はどうなるでしょうか。次に示すようにこの条件は $${g^\ast}$$ の単射性と同値であることが分かります。


定理2

系列 $${0\to L\xrightarrow{f}M\xrightarrow{g}N\to0}$$ に対し、対応 $${g^\ast: M/f(L)\to N}$$ を $${g^\ast([x])=g(x)}$$ で定義するとき、次の2つの条件は同値である。

  • 系列 $${0\to L\xrightarrow{f}M\xrightarrow{g}N\to0}$$ は $${M}$$ において完全である

  • $${g^\ast}$$ は単射である


証明

[$${\Rightarrow}$$]: $${[x], [y] \in M/f(L)}$$ に対し $${g^\ast([x])=g^\ast([y])}$$ とすれば、$${g^\ast}$$ の定義より $${g(x - y) = g(x) - g(y) = g^\ast([x]) - g^\ast([y]) = 0}$$ なので $${x - y \in \mathrm{Ker}(g)\subset\mathrm{Im}(f)}$$ となるため $${[x] = [y]}$$ であり、$${g^\ast}$$ は単射である。
[$${\Leftarrow}$$]: $${\mathrm{Ker}(g)\not\subset\mathrm{Im}(f)}$$ と仮定すれば、$${\mathrm{Ker}(g)}$$ に含まれるが $${\mathrm{Im}(f)}$$ に含まれない $${M}$$ の元 $${x}$$ が存在する。このとき $${[x] \neq [0]}$$ だが、$${g^\ast([x]) - g^\ast([0]) = g(x) - g(0) = g(x) = 0}$$ となり、$${g^\ast}$$ は単射にならない。$${\Box}$$

以上によって「$${g^\ast}$$ が well-defined な加群準同型になる必要十分条件」、及び「$${g^\ast}$$ が単射になる必要十分条件」を系列の言葉によって与えることができました。$${g^\ast}$$ の全射性についてはどうでしょうか。これは系列の $${N}$$ での完全性と同値となります。


定理3

系列 $${0\to L\xrightarrow{f}M\xrightarrow{g}N\to0}$$ に対し、対応 $${g^\ast: M/f(L)\to N}$$ を $${g^\ast([x])=g(x)}$$ で定義するとき、次の2つの条件は同値である$${{}^{[1]}}$$。

  • 系列 $${0\to L\xrightarrow{f}M\xrightarrow{g}N\to0}$$ は $${N}$$ において完全である

  • $${g^\ast}$$ は全射である


定理2と定理3を合わせることで次の定理4を得ます。


定理4

系列 $${0\to L\xrightarrow{f}M\xrightarrow{g}N\to0}$$ に対し、対応 $${g^\ast: M/f(L)\to N}$$ を $${g^\ast([x])=g(x)}$$ で定義するとき、次の2つの条件は同値である。

  • 系列 $${0\to L\xrightarrow{f}M\xrightarrow{g}N\to0}$$ は $${M}$$ および $${N}$$ において完全である

  • $${g^\ast}$$ は加群同型写像である


定理4の1つ目の条件はほとんど短完全列と同じ形になりました。短完全列 $${0\to L\xrightarrow{f}M\xrightarrow{g}N\to0}$$ の $${L}$$ での完全性は加群準同型 $${f}$$ が埋め込みである($${\Leftrightarrow}$$ 単射準同型である)ということを言っているのみとなります。


定理5

系列 $${0\to L\xrightarrow{f}M\xrightarrow{g}N\to0}$$ に対し、対応 $${g^\ast: M/f(L)\to N}$$ を $${g^\ast([x])=g(x)}$$ で定義するとき、次の2つの条件は同値である$${{}^{[2]}}$$。

  • 系列 $${0\to L\xrightarrow{f}M\xrightarrow{g}N\to0}$$ は完全である

  • $${f: L\to M}$$ は埋め込みであり、$${g^\ast: M/L\to N}$$ は加群同型写像である$${{}^{[3]}}$$


定理5は加群 $${L, M, N}$$ と加群準同型 $${f, g}$$ が短完全列を成す必要十分条件を与えています。

準同型定理を短完全列を使って考察する

加群論に限らず群論とか色々なところで準同型定理というものがあります。準同型定理の証明は以下のようなステップに分かれていました。


準同型定理(加群論)

加群準同型 $${f: M \to N}$$ があるとき

ステップ1. 対応 $${f^\ast: M/\mathrm{Ker}(f)\to\mathrm{Im}(f); [x]\mapsto f(x)}$$ は well-defined な加群準同型である。

ステップ2. $${f^\ast}$$ は単射である。

ステップ3. $${f^\ast}$$ は全射である。

以上により $${f^\ast}$$ によって $${M/\mathrm{Ker}(f)\cong\mathrm{Im}(f)}$$ である。


この証明のステップ 1~3 を短完全列を用いて考察していきます。まず、加群準同型 $${f: M\to N}$$ があるとき、次の短完全列が存在します。

$$
0\to\mathrm{Ker}(f)\to M\xrightarrow{f}\mathrm{Im}(f)\to0
$$

このとき対応 $${f^\ast: M/\mathrm{Ker}(f)\to\mathrm{Im}(f)}$$ を $${f^\ast([x])=f(x)}$$ で定義すると、定理5よりこれは well-defined な加群同型写像となります。もっと細かく証明の中身を考察していきましょう。

(ステップ0. $${\mathrm{Ker}(f)}$$ における系列の完全性から、定理5の一部に対応して、$${\mathrm{Ker}(f)}$$ は $${M}$$ に埋め込まれ、この事実をもって $${M/\mathrm{Ker}(f)}$$ と表記します$${{}^{[4]}}$$。)

ステップ1. $${M}$$ における系列を成す条件から、定理1により $${f^\ast}$$ は well-defined な加群準同型となります。

ステップ2. $${M}$$ における系列の完全性から、定理2により、$${f^\ast}$$ は単射となります。

ステップ3. $${\mathrm{Im}(f)}$$ における系列の完全性から、定理3により、$${f^\ast}$$ は全射となります。

以上のように、準同型定理の証明の各ステップは短完全列

$$
0\to\mathrm{Ker}(f)\to M\xrightarrow{f}\mathrm{Im}(f)\to0
$$

の系列を成す条件や完全性の条件に対応していることが分かりました。

まとめ

本記事では(加群と加群準同型が)短完全列を成す必要十分条件を考察するとともに、準同型定理の証明を短完全列を使って理解する方法を示しました。

脚注

  1. 定理3以降の命題において、加群 $${N}$$ は同型を除いて $${\mathrm{Im}(g)}$$ に制限されています。

  2. 定理5において、$${f}$$ が単射であることから加群 $${L}$$ は同型を除いて $${\mathrm{Ker}(g)}$$ に制限されています。

  3. $${L}$$ は $${M}$$ に埋め込まれているので、同型な加群である $${L}$$ と $${f(L)}$$ を同一視し $${M/f(L)}$$ の代わりに $${M/L}$$ と書いています。

  4. ステップ0は当たり前のことですが、短完全列を成す非自明な条件(中央の加群における系列を成す条件と3か所の完全性)のうち $${\mathrm{Ker}(f)}$$ での完全性だけ使っていないのが気になったので書きました。


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