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万葉週話no.03 【エヴァ劇場版特典の薄い本冒頭、「遣新羅使の歌」群の解説】

こんにちは、夏至を過ぎ浴衣暮らしになった絵本作家のまつしたゆうりです。

今週のインスタライブ#万葉週話 は
ちょうど一昨日観てきた劇場版シンエヴァンゲリオン最終章、
入場者特典の“薄い本”冒頭に、思いがけず
万葉集の歌が載っていたので、その歌群のご紹介をしました*

【インスタライブ・アーカイブ】↓

シンエヴァンゲリオン劇場版、観てきました!

エヴァ映画、皆さん観られました?
私はちょうど世代だったこともあり
テレビシリーズ、旧劇場版、新劇場版とすべて
リアタイしてきたもので…
その最後を締めくくる作品ということで
なんとも感慨深いものがありました。

敵と戦う単純なロボットものではなく、
少年が大人に成る過程を、心の動きを物凄く細やかに
センセーショナルかつスタイリッシュなビジュアルで
伝えてこられたのが今観なおしても斬新で。

少年が成長する過程のテンプレートのひとつとして
「父殺し」があります。

神話の時代から古今東西語られ(それらは必ず
「不幸な結果をもたらす教訓」的要素を含み)
シンエヴァの最終章でもそのエピソードが取り入れられているのですが、
しかし「父殺し」ではなく、「父許し」が
本当の意味での「大人になること」として描かれていたのが
本当にその通りだなあと、自分にも置き換えて共感しました。

他者の一番反発する部分は、自分の鏡だったりしますよね。

それが一番近しい身内となると、愛憎入り混じって
ドロンチョの濃ゆ濃ゆエキス。
そこを見つめ、認め、受け入れた先に
本当の成りたい自分が待っていてくれるように思いました。

入場者特典の薄い本に万葉歌が…!

脱線(?)しました(笑)

さて、薄い本の漫画の内容は前作の「新劇場版:Q」の
少し前の時間のショートエピソードです。

地球衛星軌道上にいるエヴァ初号機(の中にいるシンジ君)を奪還する作戦前の、アスカとマリの会話です。

その場面冒頭に、件の万葉集の歌が装入されています。

万葉集 巻十五 3671

ぬばたまの 夜(よ)渡る月に あらませば
 家なる妹(いも)に 逢ひて来(こ)ましを

(訳)僕が夜を渡る月だったら、家に居る君に愛に行って来れるのに

最後の「を」は、薄い本の方では書かれておらず
抜け落ちたのか、わざと書かれなかったのかは分かりません。

万葉集の詠まれた時代、恋人に会いに行くのは
男性、しかも月の出ている夜だけ。
妹(いも)は妹(いもうと)ではなく、
恋人に呼びかける「歌の中だけの表現」です。

どこに居ても見える月は、時間も空間も超えて
愛しい人に会いに行ける無敵の存在のようにも見えたのかもしれません。

この歌が、薄い本のこの場面に挿入されている意味は
いろんな解釈ができるかなと思います。

月を誰に見立てるか。
妹を誰とするか。

余白があるからいろんな解釈ができるのが
歌の良さですよね。

個人的には…
月を衛星軌道上にいるシンジ君とするなら妹はアスカで
「会いに来てよ!」的な気持ちの挿入になるし、
自分を月とするなら、「会いに行くよ」の決意にもなる。
どっちも捨てがたいところです…。
(どちらも、というのもアリかなと。)

この歌は筑前国(ちくぜんのくに)(今の福岡市)
志麻郡(しまのこおり)韓亭(からとまり)で
波待ちをして停泊し、三日が過ぎた頃のおそらく宴席歌。

奈良の都を離れ、家が恋しいと歌った歌群のひとつです。

他には、港から見える景色を詠んだものもあり、
都に家族を残さない人で、冒険心満ち満ちの人であれば
これからの新羅への旅がわくわく待ち切れないものだったかもしれません。

遣新羅使とは

遣新羅使、あまり有名ではないかもですが
遣唐使と同じく、奈良時代に新羅へと派遣された使節団のこと。

外交と交易を兼ね、奈良の大仏用の金や
珍しい交易品(織物やオウムやクジャクなど)を
日本にもたらしました。

マイナス的なものとしては
聖武天皇の頃に派遣した遣新羅使が
天然痘を持ち帰ったのでは…と言われている話もあり
(ちょうどこの歌の使節団の帰国の時期くらい)
不比等の息子たち(藤原四子)が全滅した例の天然痘です。

旅路としては平城京から難波に行き、
瀬戸内海を通って福岡市へ、
そこから壱岐、対馬、新羅へと船旅をしたそうで
折々の土地での歌がその後に続き、
一連の歌の旅日記のようになっているのも興味深い歌群です。

他の歌については、また機会があれば取り上げようかなと思います。
(他の5首についてはアーカイブにて詳しく説明しています)


来週は有名な狭野弟上娘子の恋歌!

この遣新羅使の歌群のすぐ後に、
おそらく巻15のメインディッシュ、一番有名な
やりとり歌群があります。

しかも、男性の歌の印象がほぼない割に
狭野弟上娘子の歌のパンチ力のみで
これだけ記憶に残っているパワーが物凄いなと。

その対比っぷりも楽しんでいただける遣り取り、
ぜひぜひお楽しみに*

☘️来週のインスタライブは
7/10(土)AM11:00〜


絵本作家・万葉&民話作家 まつしたゆうり

「心をつなぐ扉を描く」水彩画

大阪在住、滋賀県長浜出身
大阪芸術大学デザイン学科卒
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一面に田んぼの広がる田舎町で、
虫と草花と、本を友として育ちました。

幼い頃から 古典と歴史と仏像と恐竜と特撮と漫画とアニメが大好き!
心に触れることで果てしない空想の旅を一緒にできるような作品を作っています。

ゆったり季節に寄り添う暮らしと、日々 野鳥観察&着物。
鳥は愛でるのも食べるのも好き。

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