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絵日記|ねこメンバーが去勢したクリスマスのこと

同居人とわたし、2名のメンバーで住む我が家に、今年の5月、念願の猫がやってきた。友人の紹介で獣医さんから譲ってもらった彼はなんらかの洋猫が混じった長毛の黒猫で、名前を「ピノ」と言う。SNSでは我が家で唯一ねこのメンバーである彼のことを愛を込めて「ねこメンバー」転じて「メンバー」と呼んでいるので、noteでもそれにならう。

メンバーとの馴れ初めについては追ってどこかで紹介するとして、今日は去勢手術をした当日のことを書こうと思う。

メンバーは子猫のころからよく鳴くやつだった。大声で鳴きながら家中をのしのしと練り歩く彼を「ずいぶんかまってちゃんだな」と見守っていたのだが、秋ごろから次第に毛布や人間の上着へのマウンティング行為が見られるようになり、12月になってからはとんでもない早朝にアラームよりも激しく鳴き始めるようになってしまった。

メンバーがめちゃくちゃ発情している。このままではスプレー行為が始まってしまう。スプレー行為というのはそこら中で尿をしてしまうやっかいな習性のことで、去勢しても直らずに残ってしまうこともあるらしい。年内に行かないとと思っていたのに気づけばクリスマスイブ。病院は28日から休みに入ってしまうじゃないか。慌てて獣医さんに電話すると、急いだほうがいいとの判断から翌日手術をしてくれることになった。(まわりのおなじぐらいの月齢の猫たちはとっくに手術していたのでそもそものんびり構えすぎていた…)

病院との電話を切って思う。しまった。クリスマス去勢になってしまった。何もクリスマスにしなくても良かった。飼い主の怠慢でメンバーに申し訳ない気持ちだ。罪滅ぼしというわけではないがイブの夜はねこ用のシャケとちゅ〜るをあげた。何も知らないメンバーはガツガツと食べた。メンバーよ、これがクリスマスイブだぞ。あなたは明日大切なところを切開されるんだぞ……。

そんなこんなで迎えた手術当日、クリスマスの朝に病院に向かった。

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家から病院までの20分間一言も鳴かなかったメンバーが、病院の台に乗せた瞬間に激怒し始める。病院に行くのは7月に旅行に行ったときに預かってもらった以来だった。いや、思えばあのときもめちゃくちゃブチ切れて大変だったんだよな……。不穏な空気が流れる中、ねこを残してわたしは一時帰宅する。

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およそ8ヶ月ぶりのメンバーのいない家はものすごく静かで、不安をかきたてられるものがあった。たった数ヶ月だけれど家のあちこちに彼の存在が染みついている。玄関に飛び散った猫砂をほうきで掃きながら、無事に手術が終わっていることを祈った。

夕方になり病院に向かい、出迎えてくれた先生からことの次第を聞いた。ねこは終始ブチ切れ、威嚇するわ、暴れるわ、噛むわ、触らせないわ、糞尿をもらすわ、ベテランの彼女でも大層手を焼いたらしい。

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普通だったら傷も小さくて縫う必要はなんだけど縫うしかなかった、エリザベスカラーも要らないんだけどこの子はあったほうがいいね、と言いながら獣医さんが鎮静剤でくったりとしたねこを台に置く。傷口をひょいと見せてもらうとそれはもう痛々しい。思わず撫でようとすると飼い主のわたしにも「シャーッ」と力なく威嚇してきて一層悲しかった。

「この子はものすごいおこりんぼうだわ」呟いた先生の顔を見るとどこか疲れ果てているように見える。手袋を牙が貫通したらしく、彼女の手に2、3の絆創膏があるのを確認した。それにしても『おこりんぼう』!わかってはいたことだけれど、ついに医者にお墨付きをもらってしまった。

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病院を出て、電車に乗り、家に帰るまでの20分間。メンバーは朝とおなじように一言も鳴かなかったけれど、ずっと震えていた。病院であんなにイキっていたメンバー。触るものみな傷つける状態だったのも、怖かったし不安だったからだろう。この際おこりんぼうでもいいよ、よくがんばったよ。震えるキャリーを撫でながら家路を急いだ。

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無事家についたわたしは、あらゆる角にガンガンぶつかりながら家中を練り歩くメンバーの後ろを着いて歩きながら、「鎮静剤が多めに入ってるから今日はぼーっとしてると思う」という先生の言葉を思い出していた。全然ぼーっとする様子のないメンバーは鎮静剤の効力以上にエリザベスカラーが気になって仕方がないようで、色々な突起を利用して外そうと試みては諦める、練り歩く、また試みる…というのを繰り返す。餌もうまく食べられない。水もいつものように飲めない。なじみのスキマに入れない。その様子は飼い主のわたしの目には苛立っているようにも悲しんでいるようにも見えた。なんて不憫なんだ。あまりに不憫すぎる(号泣)。

といっても同情心でカラーを外してしまうわけにはいかず、年内はこの状態でがんばってもらうしかない。カラーの内側に容器を持っていくと水をよく飲んだ。食欲もあるようで、ちゅーるの総合栄養食を一瞬でたいらげ、カリカリも少しだけ食べた。

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エリザベスカラーを外すことを諦めたメンバーがようやく横になってぼーっとし始めたころに同居人が帰宅し、長かったメンバー去勢手術の一日が終わろうとしていた。わたしが一足先にベッドに入ると、血と尿で汚れて少し臭うメンバーがのそりと枕元に現れて、わたしの顔の横に尻を押し付ける状態で丸くなった。どこで寝るかと思ったらよりによってここか。そして尻側か。

ねこの体温を頭部で楽しんでいるうちにだんだんと眠気がやってきた。初めてのことで朝からオロオロし続けたのでわたしも疲れたけれど、なによりメンバーおつかれさま、とんでもない日だったよな、生まれて初めてのクリスマスを大変な日にしちゃってごめんよ、それにしてもやっぱりちょっとくさいよメンバー、明日ちょっときれいにしようね、などと思っているうちに、わたしも気がついたら眠っていた。

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