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追憶~冷たい太陽、伸びる月~

  • 受け継ぐ者

  • 第48話 守りたい日常が弾けるとき

「Pansy、ただいまー。マシュマロ買ってきたよぉ」

 Pansyはアトリエに籠っていたので、返事はなかった。

 Lisyは、かの男性がPansyと同じトビヒ族と人間の混血児であると見抜いていた。

 香水では決して再現できない植物の香りともえぎ色の色彩が決め手となった。

 添加物に耐性のない種族の血を引いているにも関わらず、完全な人間に扮して絡んできた。

 その理由はLisyがアジア人であること以外にもあった。

 Pansyの存在はオセアニアの杜にも知れ渡っていた。全大陸の杜が繋がっているので当然ではあった。

 Pansyのそばにいれば、Lisyにも移り香がありトビヒ族を引き寄せるのも無理はなかった。

 仮にLisyがトビヒ族の存在をひけらかしている可能性が浮上していたとしても、Lisyに接触するべきではなかった。

 Lisyの、トビヒ族への嫌悪が増してしまうからだ。

 LisyはPansyの見解でしかトビヒ族のことを知らない。孤立した、惨めで哀れな生き物である、ということ以外には。

 しかし例外もいた。それがPansyの母・Sakuraと最後のグリーン・ムーンストーン・Cocoだった。

 件の男性トビヒ族はその例外に入らず、Pansyが嫌う分類に認定された。

 恋すら始まらなかったLisyは、Pansyとともに絵と向き合う日々を大切にすることを誓った。

 Pansyは唯一、Lisyにとって善のトビヒ族だった。SakuraやCocoに会ったことがないので、二体に関してはPansyの話を信じるのみ。それは、Pansyの描く絵を愛でることと同じ意味だった。芸術に種族は関係ない。

 Lisyは帰宅後、いつものようにPansyと並んで絵を描く。Pansyは好物のマシュマロを食べながらLisyに過去の旅話を聞かせる。


 そのはずだった。


「Pansy!」

 Lisyはマシュマロの袋も自分のスケッチ・ブックも落としてしまった。

 アトリエの奥、Pansyが倒れていた。

 肌が青白く、額には虹色の脂汗をかいていた。

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