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追憶~冷たい太陽、伸びる月~


  • 空の果て

  • 第32話 2044年―自由を選ぶ日

 マスター・森は喫茶店を畳み姿を消した。

 佐奈子は光樹に関わってから、眼力が衰え始めた。聖マリアンヌ女学園は十年前すでに退職していたが、杜に還る選択肢がなかった。

 長年トビヒ族とハナサキ族のために働いてきたが、佐奈子の心は人間に近くなっていた。それでも両目の色彩をなかったことにはできない。人間の医師に白内障を押し通すならば、と佐奈子は自ら海の魚の餌になることを選んだ。

 海水が肺に入る瞬間、人間社会で生きてきたトビヒ族とハナサキ族が佐奈子の走馬灯を埋め尽くした。

 その中に、人間が四人。

 現グリーン・ムーンストーンを慈しみ愛した友里子。

 人間としての村雨瑚子を求めた真奈美。

 走ることを自ら捨てた美鈴。

 そして、杜と人間社会を追求するため学者の道を選んだ光樹。


 これから巡り合う愛を、佐奈子は最期まで願った。

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