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追憶~冷たい太陽、伸びる月~

  • 追憶

  • 第53話 最終話―遠くを見る者

「クリア・サンストーンは気配り上手だなぁ」

「無駄口を叩くな。さっさと吐き出してしまえ」

 呑み直しの一言目だった。杜の奥には二体以外に誰もいなかった。

「……聡いお前にはぜひ理解してほしい。俺たち異種間の同盟を結ぼう。助け合い、永久に存続するために」

「要らん」

「具体性も聞かずに断るやつがあるか」

「お前のことだから互いの危機に介入する、とかぬかすんだろう。それでお前の民が破滅に向かったらどうする」

「それはないね、クリア・サンストーン」

「傲慢だな」

「そうじゃない。確かに遠い先、何度か危機が訪れるだろう。それでも俺たちの民とお前の民たちには乗り越える力がある。それを相互するだけだ。何も難しいことではないだろう? この脚とお前たちの翼があれば」

「だから永久なんてぬかすのか?」

「そんなら、クリア・サンストーンさまの尊きお考えをお聞かせ願おうじゃないか」

「まず、俺たちの種族は必ず終焉を迎える。遠い遠い先の話だがな。そのときは静かに見守る、介入しない。それでよければ半永久的に同盟を結んでやる」

「お堅いこった。ま、今日は俺が妥協してやってもいいか。そういや俺たちの種族名はどうするよ? いつまでも種族、種族ってのはあんまりだろ。それに俺たちに限らず生命には寿命ってモンがある。いずれ『俺』たちの種族って呼び方が通用しなくなる」

「それなら名案が」

 クリア・サンストーンが小さめの殻樽の中身を吞み干した。グリーン・ムーンストーンはその潔さに拍手を送った。

「俺たちが花咲き(ハナサキ)族、お前たちが飛び火(トビヒ)族だ」

「それ、逆だろ。お前たちは太陽の化身で火も冷気も扱える。俺たちは月の化身で草花に息吹を与えられるんだぞ」

「だからだ。せっかく同盟を結ぶならば、互いを戒めにするのも悪くない」

「戒めって……お前ってば本当に後ろ向きだなぁ。でも種族名自体は悪くねぇ。乗った!」


 こうして、ハナサキ族とトビヒ族は同盟を結んだ。





 はるか遠くの未来、息絶える瞬間の利矢にその光景が見えた。


(あのマイナス思考と頑固なところ、そっくりやな。あいつは思い出したとやろうか……自分が初めてハナサキ族を名乗った日を)


 利矢は静かに瞼を閉じた。

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