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追憶~冷たい太陽、伸びる月~

  • 空の果て

  • 第29話 2025年~2045年―紅き炎を育てるまで

 利矢が空の穴へ戻り、それ以来瑚子と再会することはなかった。

 臣下から、瑚子がヨーロッパの杜に定住したと報告を受けた翌年、純血ハナサキ族の莉良(リラ)を妃に迎えた。

 二人の間に人型の姿で息子が生まれ、利矢は八塩(やしお)と名付けた。

 同じころ、利矢の弟・光太(こうた)にも息子が生まれた。こちらは当然ながら本来の姿だった。どちらも二人の母・陽子が産婆を務めた。

 本来の姿で生まれた者に名付ける習慣はないが、陽子は光太の息子を密かに「光(ひかる)」と呼んでいた。

 二年後、莉良は娘を生んだ。またしても人型で生まれた子を、利矢は萩(はぎ)と名付けた。莉良はその後体調を崩し、祖先のもとへ招かれた。

 利矢は後妻を一切迎えず、陽子の手助けを借りて八塩と萩を育て上げた。

 八塩と萩の顔立ちは母方の血を彷彿させた。莉良の父がヨーロッパ大陸を覆う空の穴出身だからだ。

 八塩が十三歳になると、人型の姿では利矢の面影が薄くなった。萩も同じころ、顔立ちが生前の莉良に酷似してきた。

 その二年後、八塩は最終候補として覚醒した。本来の姿への転身も難なくできた。覚醒年齢、ハナサキ族としての器用さも少年時代の利矢そのものだった。

 萩も同じく十三歳で覚醒したものの、力や転身の術を使いこなせるようになったのは十六歳のときだった。短気なうえに頑固、父親である利矢にさえ折れようとしない性格ゆえだった。

 その間、他にも最終候補として覚醒したハナサキ族は大勢いたが、誰も利矢を越えられなかった。

 中には次代クリア・サンストーンになることを諦めた者もいたが、八塩や萩を相手に鍛錬を重ねる者の方が多かった。二人は目標である利矢の通過点として最適だった。八塩と萩はそれほど一目置かれていた。


 利矢が黙認していた理由も知らずに。

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